嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第6章 8 ヒルダの事情

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 すべての授業が終わり、ホームルームも終了すると生徒達は思い思いに教室を去っていく。
ヒルダも片づけをしながらルドルフの様子をうかがっていた。

(ルドルフは・・どこに住んでいるのかしら・・・・?)

けれど、ヒルダはルドルフに話しかけることは出来ない。あれほど親しかった2人の距離は今は果てしなく遠い存在になってしまっていた。けれど2人の関係を壊してしまったのは他でもないヒルダなのだ。

(きっと・・・ルドルフは私の事を恨んでいるんだわ・・・。だからこの学校に転校してきたのかもしれない・・。私に文句を言う為に・・・。)

ヒルダは自分の中でそう結論付けてしまった。全ての荷物をスクールバックにしまい、背負ったところでマドレーヌに声を掛けられた。

「ねえ、ヒルダ。貴女はどこに住んでるの?」

「私はサンセット通りの五番街に住んでいるわ。」

「あら、偶然ね。私はサンセット通りの4番街に住んでるの。ねえ、途中まで一緒に帰らない?」

「マドレーヌは学校まで何で来ているの?」

ヒルダは尋ねた。

「私?私は歩いて来ているわよ。」

「まあ・・・私も歩きだけど・・珍しいわね。寮生以外の人は殆ど馬車やバスを使っているのに。」

「ええ、そうね。でも私は歩きたいタイプなの。それじゃ行きましょう。」

2人は席から立ち上ると教室を出ていく。そしてそんな後ろ姿をルドルフはじっと見つめていた。

(ヒルダ様・・・。)

ルドルフはここへ来る前のエドガーの言葉を思い出していた。

《 ルドルフ。ヒルダは足が不自由なのに学校までは歩いて通っているんだ。片道20分ぐらいかけてね。ヒルダはフィールズ家から年間金貨50枚もらってる。そしてアパートメントの家賃はひと月金貨1枚なんだ。だから十分暮らしていけるゆとりはあるけど、その援助も彼女が高校を卒業すれば打ち切られる。だからヒルダ達は節約生活を続けているんだよ。 》


(まさか・・・本当に歩いて通学していたなんて・・・。)

ルドルフも帰り支度を終え、席を立とうとした時ランチを一緒にとった女生徒たちに取り囲まれた。

「ねえ。ルドルフ。どこに住んでるの?」

「もしよければ私たちと一緒に帰らない?」

「あのねえ、この学校のすぐそばにアイスクリーム屋さんがあるの。食べに行きましょうよ。」

少女たちは頬を染めてルドルフを誘うが、にべもなくルドルフは誘いを断った。

「僕は寮に住んでるんだ。そこをどいてくれるかな?」

淡々と少女に言う。

「あ・・・・ご、ごめんなさい・・。」

言われた少女はサッと道を開けると、俯く。

「・・・。」

ルドルフはそんな彼女たちを一瞥するとスクールバックを背負い、席を立って教室を出た時に、背後から声を掛けられた。

「ルドルフ。」

ルドルフが振り向くと、そこに立っていたのはマイクである。


「僕に何か用?クラス委員長。」

するとそれを聞いたマイクは顔を歪めると言った。

「やめてくれないかな?そんな呼び方。僕にはマイクという名前があるんだから。」

「・・・今日転校してきたばかりだからクラスメイトの名前はまだ覚えられていないんだ。」

ルドルフは冷たい瞳でマイクを見た。

(彼は・・・嫌がるヒルダ様を無理やり連れだした男・・・。一体僕に何の用事があるんだ?)

「少し外で話がしたいんだけど・・いいかな?」

マイクはルドルフに言う。

「悪いけど・・・遠慮しておくよ。僕は忙しいんだ。」

ルドルフはマイクの脇をすり抜けながら言った。それを聞いたマイクの顔は青ざめる。

(何だって・・・?今まで誰も僕にあんな態度取った奴なんかいないぞ・・・!)

「待て!逃げるのかっ?!」

マイクの言葉にルドルフはゆっくり振り向いた。その目は・・恐ろしい程に冷え切っている。

「逃げる・・?誰が?」

「う・・・。」

ルドルフはその迫力に飲まれそうになった。

「僕はこの後17時から家庭教師のアルバイトが入っているんだ。君に構ってる暇はないんだよ。」

それだけ言うと、ルドルフはマイクに背を向け立ち去って行った。
マイクはそんなルドルフの後ろ姿を悔しそうに見るのだった―。


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