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第5章 12 ヒルダの気遣い

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 ルドルフの言葉はヒルダの心を大きく揺さぶった。

(ルドルフ・・・どうしてそんな事を言うの・・?貴女はグレースさんの恋人なんでしょう?それとも本当は・・・私の事を好きなの・・?)

「ルドルフ・・・私は・・。」

思わず愛しいルドルフを見上げ、名まえを呼んだその時―。

「ルドルフッ!」

ヒルダの背後からグレースの声が響き渡った。

「グ、グレース・・・。」

ルドルフは狼狽しながらグレースの名を口にした。ヒルダはとっさにルドルフから離れると背を向けた。

「ルドルフ、探したわ。待ち合わせ場所に貴方がいないんだもの。約束したでしょう?これからルドルフの送り迎えは私がするって。」

ルドルフの右手をしっかり両手で握りしめながらグレースは言う。

(今のうちにここから立ち去ろう。)

ヒルダは2人に背を向けたまま立ち去ろうとした時、背後からルドルフの声が追いかけてきた。

「ヒルダ様っ!待って下さいっ!」

(お願い・・・っ!もう私の名前を呼ばないで・・・!)

ヒルダは耳を塞ぎたい気持ちを殺して、杖を突きながら足を引きずりながら歩いていく。
そしてグレースの声が風に乗って聞こえてきた。

「ルドルフ、ヒルダさんは足が不自由なのよ?彼女の事は諦めて頂戴。ヒルダさんと一緒にいると貴方まで笑い者にされてしまうわ・・・。」

グレースの言葉は事実だったが、ヒルダの心は大きく傷ついた。

(そうよ、ルドルフ。もうまともに歩くことが出来ない私は貴方にふさわしくないのよ。どうかもう私には構わないで・・・。)

そしてヒルダはスコットとシャーリーの元へ向かうと2人はまだ会話をしていた。
スコットもシャーリーも楽し気に笑いあっている。

(良かった・・・。2人は気が合ってるみたいで・・・。)

ヒルダが近づいていくと、真っ先にシャーリーが気付いた。

「ヒルダ、ジュース飲んできたの?」

「ええ、オレンジジュースを飲んできたの。美味しかったわ。」

しかし、親友のシャーリーはヒルダの元気の無い様子を察した。

「ヒルダ・・何かあったの?」

「え?そうなんですか?」

スコットが驚いた顔でヒルダを見る。

「え?ま、まさか・・・何も無かったわ。」

「本当に?ヒルダ。」

シャーリーは尚も食い下がって来るのでヒルダは笑顔で答えた。

「本当に何も無いってば。それより2人共、とても楽しそうにお話し出来たみたいで良かったわ。」

すると途端にシャーリーとスコットの頬が赤く染まった。

(え・・?この反応・・・ひょっとして・・2人は本当に・・?私は2人の事が好きだから恋人同士になってくれるといいな・・・。)

「そ、それではヒルダ様も戻られたことですし・・帰りましょうか。」

スコットは慌てたように言う。

「え・・?もういいの?2人でもっとお話ししなくても大丈夫?」

ヒルダの言葉にシャーリーとスコットは慌てたように言う。

「だ、大丈夫よ。ね?スコットさん。」

「え、ええ。そうですね、シャーリーさん。」

「そうなの・・?」

(私・・戻って来るの早すぎちゃったかしら・・・。)

その時、ヒルダにいい考えが浮かんだ。

「そうだ・・・。ねえ、シャーリー。今度の週末私の家に久しぶりに遊びに来ない?とても美味しいハーブティーがあるのよ?」

するとシャーリーが嬉しそうに言った。

「ほんとう?それじゃ久しぶりにお邪魔しようかしら?」

「ええ、是非そうして?お母様もきっと喜んでくれると思うから。」

そんな2人の会話をスコットは黙って聞いている。

「ええ、喜んでお邪魔させて頂くわね。それじゃ私もそろそろ行くわ。ヒルダ、また明日ね。そして・・・ス、スコットさんも・・。」

シャーリーは頬を少し赤らめてスコットを見た。

「はい、シャーリーさん。また明日。」

するとシャーリーは笑顔で手を振ると自分の馬車へ向かって歩き去って行った。その後ろ姿を見送りながらスコットはヒルダに声を掛けた。

「それではヒルダ様。帰りましょうか?」

「ええ、そうね。スコットさん。」

そしてヒルダは馬車に乗り込んだ。
スコットはその様子を見届けると自分も御者台に乗り、邸宅へ向けて出発させた―。
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