36 / 129
第17日目 命がけの野外パーティー準備 その②
しおりを挟む
「エリス、ありがとう。お前のお陰でこんなに早くて楽に雑草を刈る事が出来た。今までこの学園で野外パーティーが開催されるようになって初の快挙だ。ひょっとすると今回の功績が認められて、俺達は学園側から感謝状を貰えるかもしれないぞ?」
満面の笑顔で私に語り掛けて来るジョージ。
おおっ!イケメンオーラが半端ないっ!
「そ、そうですか・・・。それは良かったです・・・。」
「それだけじゃない・・・。エリス。お前が炎を操り、雑草を燃やし尽くすその姿には・・・神々しさ迄感じた程だ。」
ジョージが言葉を重ねる度に私に対する好感度がジワジワあがり・・・今は好感度40になってしまった!
な・・・何故?!私からは何も話さず、相手が勝手に話を進めているだけなのに・・何故好感度が上がってしまう?!
こ・・このままではまずい!わたしは自分から話題を振る事にした。
「そうですか・・・。でも何故ここまで雑草刈りが大変で、ほんの一部しか整える事が出来ないのに・・・毎年何故わざわざこの場所で学園側はパーティーを開催するのでしょうか?」
「さあな。俺達庶民には貴族の考えは一生理解出来ないよ。あ・・でもエリス。お前は別だからな?今は貴族の称号も取られてしまっているし、それに・・・メイドとして一生懸命働く姿は・・・むしろ好感を持てる。」
うっ!どうやら私はまずい事を言ってしまったようだ。その証拠にジョージの好感度は今は45に上がってしまっている。
「そ、そうですか・・・。所でクライスさん。」
するとジョージが言った。
「エリス。今日から俺の事はクライスでは無く、ジョージと呼んでくれ。さん付けも不要だ。」
照れ隠しなのだろうか・・・?ジョージが早口で一気にまくしたてた。
「で、ではジョージ・・。」
「うん、何だい、エリス?」
笑みを浮かべて私を見るジョージ。・・・一体何なんだ?この妙な・・・くだりは。
「草刈りが終わったので・・・次は蜂の巣の駆除ですよね?」
「ああ、そうだ。蜂の巣の駆除は午後から始めるから。まあ駆除なんて言われてるけど、実際には蜂の巣があるか見回るだけだからな。もし、蜂の巣のある木が見つかったら、これを使うんだ。」
言いながらジョージは麻の紐を取り出した。
「え~と・・・この紐をどうするんですか?」
「ああ。蜂の巣のある木にくくり付けておく。」
「はあ、それで・・・?」
「それだけだ。」
「え?!何の為に紐をくくり付けておくんですか?!」
「決まっているだろう?会場の人達に紐の付いている木の下には近づかないように注意を促す為だよ。」
「え?そうなんですか?それじゃあ、蜂の巣の駆除と言うのは建前で、蜂の巣がある木を見つけて注意喚起を促すための作業なんですね?」
「・・・。」
しかし何故か沈黙するジョージ。
「ジョージ、黙っていては分からないですよ。」
促すと、ようやくジョージは重そうな口を開いた。
「いや・・・本当の仕事は蜂の巣の駆除だ。」
「はあ・・・。」
「だが、我々素人に蜂の巣の駆除等出来るはずが無いだろう?!」
「まあ・・・確かに・・。危険そうですしね。」
「そうなんだ。それなのに学園は・・・いつも無理難題を俺たちに押し付けやがって・・・。だから、我々は・・・・手抜きをする事にしたんだ!」
ビシイッと私を指さしながら堂々と宣言するジョージに呆れる私。
うわあ・・・やはりこの学園で働かされている私たちは・・・・ブラック企業で働かされている従業員のようなものなんだ・・・。
「と、言う訳でエリス。昼休憩に入ろう。」
ジョージの言葉に私は面食らった。
「え・・・?昼休憩ですか?」
「ああ、そうだ。」
「まだ・・・10時半ですよ?」
「確かにな。だから今日の昼休憩は2時間半取る事が出来る。」
笑顔で言うジョージ。
「な・・何言ってるんですかっ!それじゃサボりと変わらないですよ?!」
「別にサボりなんかじゃ無いぞ?午前中の仕事の分が終わったから休憩するだけなんだから。」
「そ・・・それなら!学園に戻って昼休憩を取りましょうよ!」
私は必死で言った。
冗談じゃない。元がモブキャラの彼等は異常な位好感度が上がりやすい。今私の目の前にいるジョージの好感度は45。2時間半も2人きりで昼休憩をすごせば・・・下手をすると好感度がマックスに上がってしまう可能性もあるかもしれない。そんな事になれば、そのまま告白イベントへとなだれ込んでしまう・・・。
駄目だ!今の段階でそんな展開になろうものなら、ゲームオーバーになって私はこの世界に閉じ込められてしまうかもしれない・・・!
「いいじゃ無いか。エリス、俺達は普段こんな少ない人数で働かされているんだぞ?少々サボるくらいは許される事だとは思わないか?」
しかし、ジョージは私の焦りの気持ちなどお構いなしに語る。
かくなる上は・・・!
「わ・・分かりましたっ!なら私は蜂の巣を見て回ってきます。ジョージさんはどうぞそのままお昼休憩に入って下さい!」
「ええっ?!エリス・・・。君は何所までまじめな女性なんだ・・・。でもそういう真面目な処も・・・。」
う!まずい・・・!好感度が上がってしまう・・!じっと見つめてくるジョージの姿に焦る私。
しかし、丁度その時・・・。
「エリスさーんっ!」
「探しましたよっ!」
おおっ!なんともタイミングよく『ノッポ』と『ベソ』がこちらへ向かって駆けてくるではないかっ!
「ん?何だ・・・・あいつ等は・・・?」
一方のジョージは何やら不機嫌そうに彼等二人を睨み付けるように見ている。
「ノッポ、ベソ、一体どうしてここに?」
「ええ、エリスさんに大事な話が・・・。」
ノッポが私に耳打ちするように言うと、途端にジョージに襟首を掴まれ、私から引き離される。
「おい、エリスに馴れ馴れしく近づくな。」
襟首を掴まれたノッポは驚いたようにジョージの頭上を見上げ・・・何故か納得したようにうなずく。おや?ひょっとすると・・・。
「あ、あの・・エリスさんに大事なお話があるので・・彼女をお借りしてもよろしいでしょうか・・・?」
ベソがおっかなびっくりジョージに話かける。
「断る。お前たちのように・・怪しげな覆面を被っている輩にエリスを託せるか。」
あ~確かに言われてみればそうかもしれないな・・・。だけど・・・。
「あの、すみません。少し3人だけでお話しする時間を下さい。それじゃあ・・・。」
ジョージに有無を言わさずに私はノッポとベソの背中を押して、ジョージから離れた場所に移動すると2人に尋ねた。
「ねえ・・・私に会う為にわざわざここまで来たって言う事は・・・何かあったんでしょう?」
「流石はエリスさん!察しが早くて助かります!」
ベソが嬉しそうな声を上げる。
「・・・で?何があったの?あまり3人だけで話をしていると彼に妙な目で見られるかもしれないから・・・・。」
私はチラリとジョージを見ると言った。
「ああ・・彼は先ほどエリスさんの攻略対象になった男性ですね?・・・なかなかやりますねえ?」
ノッポが意味深な事を言ってくる。
「・・・そんな事はどうでもいいから、早く要件を伝えてよ。」
するとベソが小声で言った。
「エリスさん・・・。実は・・またウィルスが出たんです。しかも・・何という偶然か・・場所はここなんですよっ!」
「え・・・ええっ?!」
そ、そんな、どうしよう・・・。肝心の白銀のナイト達はここにはいない・・・。どうすれば・・・・!
なのに肝心の2人は・・・・ポンッポンッとそれぞれ互いに私の肩に手を置くと言った。
「頑張って下さい、エリスさん。今の貴女の『害虫駆除』のスキルレベルは10です。そして<火山雷(サンダーストーム)>という必殺技を使う事が出来ます。」
ノッポの声は真剣みを帯びている。
「サ・・サンダーストーム・・・?一体それはどういう攻撃なの・・・?」
「ええ、通常の雷よりも数倍の静電エネルギー威力を持っています。その攻撃範囲は周囲1kにまで達するそうですよ。しかも素晴らしい事に・・・周りの木々や建物などには一切影響を与えず、ウィルスだけを的確に捉えて雷攻撃を与えることが出来るのです!」
ベソは興奮を抑えきれないように大声で話す。
そこで私は一つ疑問に思って尋ねてみた。
「ねえ・・・ひょっとするとここに出てくる『害虫』って・・全てウィルスなの?」
「「・・・。」」
途端に黙り込む2人。あ・・・やっぱりね・・・・。
「それじゃ・・・。」
私がそこまで言いかけた時、突如として私たちから少し離れた場所に待機していたジョージが悲鳴を上げた。
「うわああああっ!!は、蜂だっ!!」
「「「え?!」」」
慌てて振り向く私達。すると、あろうことかジョージが大量の蜂に追いかけられているではないか。
しかも、その蜂の大きさが半端ではない。まるでバスケットボール並の大きさなのである。あ・・・あんなのに刺されたら・・・間違いなく命の危険が・・・!!
「エ・・エリスさん!早く何とかして下さいよっ!」
「俺たちまで巻き添え食いますよっ!」
く・・こ、この二人は・・こんな小柄の私の背後に隠れてしまった。
「あ・・・貴方たち・・・覚えていなさいよ・・・っ!」
私は言うが早いか叫んだ。
「害虫駆除っ!」
すると私の右手にはあの杖が現れ、しっかりと握りしめられている。
「ジョージッ!早くこっちへ逃げて下さいっ!」
私は手招きをしてジョージに向かって叫ぶと、私に気が付いたのか駆け寄ってくる。
「エリス!危ないっ!一緒に逃げようっ!」
私に駆け寄るとジョージは手を伸ばしてきた。
「いいえ!私が今からあの蜂どもを駆除しますっ!ジョージは彼らと安全な場所に隠れていて下さいっ!」
言うが早いか、私は蜂の群れに向かって突っ込んでゆき・・・
「サンダーストーム!」
叫んで杖を振りかざす・・。
すると辺りは急に暗雲が立ち込め・・雷雲が突如として頭上に現れた。そして
ピカッ!目もくらむような激しい光と共に、無数の雷がウィルス向かって降り注ぐ!
「キャアアアアッ!!」
そのあまりの威力に私は悲鳴を上げた。何これ!こんなこの世の終わりに見間違うような攻撃力なんて聞いてないっ!まるで魔王に放つ魔法攻撃の様だ!
雷はむちゃくちゃに暴れるように、的確に蜂めがけて落ちてゆき・・・・・その後20分間も雷攻撃は続いた。
そしてその間私はどうしていたかと言うと、余りの破壊力に腰を抜かして動けなくなっていたのは言うまでもない。
やがて、火山雷は過ぎ去り・・・暗雲は消え去り、青空が現れた。
「こ、怖かった・・・。」
私もようやく腰が抜けたのが治まったので立ち上がり、3人の役立たずな男性陣を探し・・・木の陰から現れた。
「エ、エリス・・・。」
ジョージは私を呆然と見つめていたが・・・突然駆け寄ってくると、いきなり私を強く抱きしめてきた。
「「あ!!」」
それを見て私では無く何故かノッポとベソが声を上げる。
「な・な・何ですかっ?!いきなり・・・!」
私は慌ててジョージを強く押して自分から引き離し・・絶句した。
ま・・・まずい・・・。ジョージの好感度が・・・・180を示している!
「エリス・・・何て勇ましい姿だったんだ・・・!俺はもうすっかりお前の・・!」
そこまで言いかけた時、「ベソ」と「ノッポ」が私の両腕をガシイッと掴んでくると言った。
「さあ、エリスさん。今日の仕事は終了です。一緒に学園へ戻りましょう!」
ノッポが私に言う。
おお!天の助け!
「え?エリス・・・・?」
ジョージの顔が悲し気に歪むも、好感度に変化は無し。
「それではジョージさん。貴方は片づけをお願いします。エリスさんは我々が馬車で学園までお送りしますので。さ、行きましょう。エリスさん。」
ベソがいつにもまして雄弁に語り、私の肩に手を置く。
・・・図々しいなあ・・。
しかし私はおくびにも出さず、ジョージに言う。
「すみません。ジョージ、それでは片付けお願いします。私は一足先に学園へ戻っていますね。」
そして彼らと一緒に馬車に乗り込み・・・。
「はあ~」
ため息をついた。
「すごい!大活躍でしたね!エリスさん!」
「ええ。本当に素晴らしかったです!」
ノッポとベソが交互に称賛するが・・・私は振り向くと彼らに言った。
「ねえ、今日はもう疲れたから・・・遼に戻って休ませてもらうね?職場の人達には貴方たちから説明してよね?」
そしてその後は一言も口を利き力もなく、学園に帰って来た。
私は自室に戻るとベッドの上に倒れこんだ。
疲れた・・・もう今日は動きたくない・・・。
『お疲れさまでした。第17日目、終了致しました。<害虫駆除>のスキルレベルが25になりました。
必殺技<天罰>を使えるようになりました。この技は通常のモンスター攻撃にも有効です。是非、ご活用下さい。』
満面の笑顔で私に語り掛けて来るジョージ。
おおっ!イケメンオーラが半端ないっ!
「そ、そうですか・・・。それは良かったです・・・。」
「それだけじゃない・・・。エリス。お前が炎を操り、雑草を燃やし尽くすその姿には・・・神々しさ迄感じた程だ。」
ジョージが言葉を重ねる度に私に対する好感度がジワジワあがり・・・今は好感度40になってしまった!
な・・・何故?!私からは何も話さず、相手が勝手に話を進めているだけなのに・・何故好感度が上がってしまう?!
こ・・このままではまずい!わたしは自分から話題を振る事にした。
「そうですか・・・。でも何故ここまで雑草刈りが大変で、ほんの一部しか整える事が出来ないのに・・・毎年何故わざわざこの場所で学園側はパーティーを開催するのでしょうか?」
「さあな。俺達庶民には貴族の考えは一生理解出来ないよ。あ・・でもエリス。お前は別だからな?今は貴族の称号も取られてしまっているし、それに・・・メイドとして一生懸命働く姿は・・・むしろ好感を持てる。」
うっ!どうやら私はまずい事を言ってしまったようだ。その証拠にジョージの好感度は今は45に上がってしまっている。
「そ、そうですか・・・。所でクライスさん。」
するとジョージが言った。
「エリス。今日から俺の事はクライスでは無く、ジョージと呼んでくれ。さん付けも不要だ。」
照れ隠しなのだろうか・・・?ジョージが早口で一気にまくしたてた。
「で、ではジョージ・・。」
「うん、何だい、エリス?」
笑みを浮かべて私を見るジョージ。・・・一体何なんだ?この妙な・・・くだりは。
「草刈りが終わったので・・・次は蜂の巣の駆除ですよね?」
「ああ、そうだ。蜂の巣の駆除は午後から始めるから。まあ駆除なんて言われてるけど、実際には蜂の巣があるか見回るだけだからな。もし、蜂の巣のある木が見つかったら、これを使うんだ。」
言いながらジョージは麻の紐を取り出した。
「え~と・・・この紐をどうするんですか?」
「ああ。蜂の巣のある木にくくり付けておく。」
「はあ、それで・・・?」
「それだけだ。」
「え?!何の為に紐をくくり付けておくんですか?!」
「決まっているだろう?会場の人達に紐の付いている木の下には近づかないように注意を促す為だよ。」
「え?そうなんですか?それじゃあ、蜂の巣の駆除と言うのは建前で、蜂の巣がある木を見つけて注意喚起を促すための作業なんですね?」
「・・・。」
しかし何故か沈黙するジョージ。
「ジョージ、黙っていては分からないですよ。」
促すと、ようやくジョージは重そうな口を開いた。
「いや・・・本当の仕事は蜂の巣の駆除だ。」
「はあ・・・。」
「だが、我々素人に蜂の巣の駆除等出来るはずが無いだろう?!」
「まあ・・・確かに・・。危険そうですしね。」
「そうなんだ。それなのに学園は・・・いつも無理難題を俺たちに押し付けやがって・・・。だから、我々は・・・・手抜きをする事にしたんだ!」
ビシイッと私を指さしながら堂々と宣言するジョージに呆れる私。
うわあ・・・やはりこの学園で働かされている私たちは・・・・ブラック企業で働かされている従業員のようなものなんだ・・・。
「と、言う訳でエリス。昼休憩に入ろう。」
ジョージの言葉に私は面食らった。
「え・・・?昼休憩ですか?」
「ああ、そうだ。」
「まだ・・・10時半ですよ?」
「確かにな。だから今日の昼休憩は2時間半取る事が出来る。」
笑顔で言うジョージ。
「な・・何言ってるんですかっ!それじゃサボりと変わらないですよ?!」
「別にサボりなんかじゃ無いぞ?午前中の仕事の分が終わったから休憩するだけなんだから。」
「そ・・・それなら!学園に戻って昼休憩を取りましょうよ!」
私は必死で言った。
冗談じゃない。元がモブキャラの彼等は異常な位好感度が上がりやすい。今私の目の前にいるジョージの好感度は45。2時間半も2人きりで昼休憩をすごせば・・・下手をすると好感度がマックスに上がってしまう可能性もあるかもしれない。そんな事になれば、そのまま告白イベントへとなだれ込んでしまう・・・。
駄目だ!今の段階でそんな展開になろうものなら、ゲームオーバーになって私はこの世界に閉じ込められてしまうかもしれない・・・!
「いいじゃ無いか。エリス、俺達は普段こんな少ない人数で働かされているんだぞ?少々サボるくらいは許される事だとは思わないか?」
しかし、ジョージは私の焦りの気持ちなどお構いなしに語る。
かくなる上は・・・!
「わ・・分かりましたっ!なら私は蜂の巣を見て回ってきます。ジョージさんはどうぞそのままお昼休憩に入って下さい!」
「ええっ?!エリス・・・。君は何所までまじめな女性なんだ・・・。でもそういう真面目な処も・・・。」
う!まずい・・・!好感度が上がってしまう・・!じっと見つめてくるジョージの姿に焦る私。
しかし、丁度その時・・・。
「エリスさーんっ!」
「探しましたよっ!」
おおっ!なんともタイミングよく『ノッポ』と『ベソ』がこちらへ向かって駆けてくるではないかっ!
「ん?何だ・・・・あいつ等は・・・?」
一方のジョージは何やら不機嫌そうに彼等二人を睨み付けるように見ている。
「ノッポ、ベソ、一体どうしてここに?」
「ええ、エリスさんに大事な話が・・・。」
ノッポが私に耳打ちするように言うと、途端にジョージに襟首を掴まれ、私から引き離される。
「おい、エリスに馴れ馴れしく近づくな。」
襟首を掴まれたノッポは驚いたようにジョージの頭上を見上げ・・・何故か納得したようにうなずく。おや?ひょっとすると・・・。
「あ、あの・・エリスさんに大事なお話があるので・・彼女をお借りしてもよろしいでしょうか・・・?」
ベソがおっかなびっくりジョージに話かける。
「断る。お前たちのように・・怪しげな覆面を被っている輩にエリスを託せるか。」
あ~確かに言われてみればそうかもしれないな・・・。だけど・・・。
「あの、すみません。少し3人だけでお話しする時間を下さい。それじゃあ・・・。」
ジョージに有無を言わさずに私はノッポとベソの背中を押して、ジョージから離れた場所に移動すると2人に尋ねた。
「ねえ・・・私に会う為にわざわざここまで来たって言う事は・・・何かあったんでしょう?」
「流石はエリスさん!察しが早くて助かります!」
ベソが嬉しそうな声を上げる。
「・・・で?何があったの?あまり3人だけで話をしていると彼に妙な目で見られるかもしれないから・・・・。」
私はチラリとジョージを見ると言った。
「ああ・・彼は先ほどエリスさんの攻略対象になった男性ですね?・・・なかなかやりますねえ?」
ノッポが意味深な事を言ってくる。
「・・・そんな事はどうでもいいから、早く要件を伝えてよ。」
するとベソが小声で言った。
「エリスさん・・・。実は・・またウィルスが出たんです。しかも・・何という偶然か・・場所はここなんですよっ!」
「え・・・ええっ?!」
そ、そんな、どうしよう・・・。肝心の白銀のナイト達はここにはいない・・・。どうすれば・・・・!
なのに肝心の2人は・・・・ポンッポンッとそれぞれ互いに私の肩に手を置くと言った。
「頑張って下さい、エリスさん。今の貴女の『害虫駆除』のスキルレベルは10です。そして<火山雷(サンダーストーム)>という必殺技を使う事が出来ます。」
ノッポの声は真剣みを帯びている。
「サ・・サンダーストーム・・・?一体それはどういう攻撃なの・・・?」
「ええ、通常の雷よりも数倍の静電エネルギー威力を持っています。その攻撃範囲は周囲1kにまで達するそうですよ。しかも素晴らしい事に・・・周りの木々や建物などには一切影響を与えず、ウィルスだけを的確に捉えて雷攻撃を与えることが出来るのです!」
ベソは興奮を抑えきれないように大声で話す。
そこで私は一つ疑問に思って尋ねてみた。
「ねえ・・・ひょっとするとここに出てくる『害虫』って・・全てウィルスなの?」
「「・・・。」」
途端に黙り込む2人。あ・・・やっぱりね・・・・。
「それじゃ・・・。」
私がそこまで言いかけた時、突如として私たちから少し離れた場所に待機していたジョージが悲鳴を上げた。
「うわああああっ!!は、蜂だっ!!」
「「「え?!」」」
慌てて振り向く私達。すると、あろうことかジョージが大量の蜂に追いかけられているではないか。
しかも、その蜂の大きさが半端ではない。まるでバスケットボール並の大きさなのである。あ・・・あんなのに刺されたら・・・間違いなく命の危険が・・・!!
「エ・・エリスさん!早く何とかして下さいよっ!」
「俺たちまで巻き添え食いますよっ!」
く・・こ、この二人は・・こんな小柄の私の背後に隠れてしまった。
「あ・・・貴方たち・・・覚えていなさいよ・・・っ!」
私は言うが早いか叫んだ。
「害虫駆除っ!」
すると私の右手にはあの杖が現れ、しっかりと握りしめられている。
「ジョージッ!早くこっちへ逃げて下さいっ!」
私は手招きをしてジョージに向かって叫ぶと、私に気が付いたのか駆け寄ってくる。
「エリス!危ないっ!一緒に逃げようっ!」
私に駆け寄るとジョージは手を伸ばしてきた。
「いいえ!私が今からあの蜂どもを駆除しますっ!ジョージは彼らと安全な場所に隠れていて下さいっ!」
言うが早いか、私は蜂の群れに向かって突っ込んでゆき・・・
「サンダーストーム!」
叫んで杖を振りかざす・・。
すると辺りは急に暗雲が立ち込め・・雷雲が突如として頭上に現れた。そして
ピカッ!目もくらむような激しい光と共に、無数の雷がウィルス向かって降り注ぐ!
「キャアアアアッ!!」
そのあまりの威力に私は悲鳴を上げた。何これ!こんなこの世の終わりに見間違うような攻撃力なんて聞いてないっ!まるで魔王に放つ魔法攻撃の様だ!
雷はむちゃくちゃに暴れるように、的確に蜂めがけて落ちてゆき・・・・・その後20分間も雷攻撃は続いた。
そしてその間私はどうしていたかと言うと、余りの破壊力に腰を抜かして動けなくなっていたのは言うまでもない。
やがて、火山雷は過ぎ去り・・・暗雲は消え去り、青空が現れた。
「こ、怖かった・・・。」
私もようやく腰が抜けたのが治まったので立ち上がり、3人の役立たずな男性陣を探し・・・木の陰から現れた。
「エ、エリス・・・。」
ジョージは私を呆然と見つめていたが・・・突然駆け寄ってくると、いきなり私を強く抱きしめてきた。
「「あ!!」」
それを見て私では無く何故かノッポとベソが声を上げる。
「な・な・何ですかっ?!いきなり・・・!」
私は慌ててジョージを強く押して自分から引き離し・・絶句した。
ま・・・まずい・・・。ジョージの好感度が・・・・180を示している!
「エリス・・・何て勇ましい姿だったんだ・・・!俺はもうすっかりお前の・・!」
そこまで言いかけた時、「ベソ」と「ノッポ」が私の両腕をガシイッと掴んでくると言った。
「さあ、エリスさん。今日の仕事は終了です。一緒に学園へ戻りましょう!」
ノッポが私に言う。
おお!天の助け!
「え?エリス・・・・?」
ジョージの顔が悲し気に歪むも、好感度に変化は無し。
「それではジョージさん。貴方は片づけをお願いします。エリスさんは我々が馬車で学園までお送りしますので。さ、行きましょう。エリスさん。」
ベソがいつにもまして雄弁に語り、私の肩に手を置く。
・・・図々しいなあ・・。
しかし私はおくびにも出さず、ジョージに言う。
「すみません。ジョージ、それでは片付けお願いします。私は一足先に学園へ戻っていますね。」
そして彼らと一緒に馬車に乗り込み・・・。
「はあ~」
ため息をついた。
「すごい!大活躍でしたね!エリスさん!」
「ええ。本当に素晴らしかったです!」
ノッポとベソが交互に称賛するが・・・私は振り向くと彼らに言った。
「ねえ、今日はもう疲れたから・・・遼に戻って休ませてもらうね?職場の人達には貴方たちから説明してよね?」
そしてその後は一言も口を利き力もなく、学園に帰って来た。
私は自室に戻るとベッドの上に倒れこんだ。
疲れた・・・もう今日は動きたくない・・・。
『お疲れさまでした。第17日目、終了致しました。<害虫駆除>のスキルレベルが25になりました。
必殺技<天罰>を使えるようになりました。この技は通常のモンスター攻撃にも有効です。是非、ご活用下さい。』
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ど天然で超ドジなドアマットヒロインが斜め上の行動をしまくった結果
蓮
ファンタジー
アリスはルシヨン伯爵家の長女で両親から愛されて育った。しかし両親が事故で亡くなり叔父一家がルシヨン伯爵家にやって来た。叔父デュドネ、義叔母ジスレーヌ、義妹ユゲットから使用人のように扱われるようになったアリス。しかし彼女は何かと斜め上の行動をするので、逆に叔父達の方が疲れ切ってしまうのである。そしてその結果は……?
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
表紙に素敵なFAいただきました!
ありがとうございます!
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
傭兵アルバの放浪記
有馬円
ファンタジー
変わり者の傭兵アルバ、誰も詳しくはこの人間のことを知りません。
アルバはずーっと傭兵で生きてきました。
あんまり考えたこともありません。
でも何をしても何をされても生き残ることが人生の目標です。
ただそれだけですがアルバはそれなりに必死に生きています。
そんな人生の一幕
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる