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第17日目 命がけの野外パーティー準備 その①

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『おはようございます。17日目の朝が始まりました。3日後にエタニティス学園の一大イベントの野外パーティーが開催されます。今日、明日はこちらのパーティ会場の飾りつけがお仕事の中に含まれます。こちらは通常業務より多くのポイントを獲得する事が出来ますので、是非お勧めします。それでは本日も頑張って下さい。』

「ふ~ん・・・。野外パーティーがあるのか・・・。そう言えば以前ダンが言っていた野外パーティーって・・・ひょっとしてこの事かあ・・・。昨日のメッセージでは攻略キャラとの距離を縮められるようなイベントがあります、何て書いてあったけど・・・メイドの私には関係ないイベントじゃない。」

まあ、別に私は野外パーティーなんかこれっぽっちも興味が無い。いや、それどころかきっと私達従業員はそのパーティーで馬車馬の如く働かされるに決まってる。

「ああ・・・嫌だなあ・・・パーティー会場で仕事なんて言ったら、当然エリスを知ってる人達に会って・・嫌な目に遭いそうな気がするよ・・・。はああ・本当に憂鬱だ・・・。」

ブツブツ言いながら起きる私。さて・・・仕事に行きますか・・・。


 今朝もいつものように厨房でダンのお手伝いを済ませると、従業員一同、トビーに呼び出された。

「皆、知っての通り、3日後に学院の野外パーティーのイベントが開催される。そこで、我々スタッフの中から準備の為に2名こちらの仕事に行って貰いたいのだが・・・誰か希望者はいるか?」

トビーは全員を見渡しながら言う。

「はい!」
私は元気よく手を上げた。
なにせこの仕事はポイントが多く貰えるらしいから、引き受けるのは当然でしょう!
しかし、私以外は誰も手を上げない。挙句の果てに・・・。
トビーは何故か絶句したように私を見るし、アンにダン、ニコルも私を見て口をぽかんと開けている。

 そしてトビーは私が手を上げているにも関わらず、視線を逸らしてさらに言う。

「え~と・・・誰も希望者はいないのか?それならこちらから指名するぞ・・。」

すると、途端に辺りがざわざわと騒ぎ出す。おのれ・・・トビーめ。・・私の存在を無視するつもりか?!

「はい!トビーさんっ!私さっきから手を上げているじゃないですかっ!」

私は手を上げながら大声でトビーに呼びかけた。すると何故か半分涙目になって私を見るトビー。

「エ・・・エリス・・・。君は・・またそんな我儘を言ってこの僕を困らせるつもりかい・・?」

涙目の中にも熱を込めた瞳、甘ったるい声で私に訴えて来る様はまさしく鳥肌ものだ。な・・・何なんだ・・・?一体あの男は・・・?!
他の人達もトビーを白い目で見ている。
しかし、そこに口を出したのがジャネットだった。

「あら・・・いいんじゃないの?こうして自分からやりたいって志願しているんだから・・いくらトビーのお気に入りだからって・・・えこひいきは良く無いわよ?」

言いながらジャネットはジロリとトビーを睨みつける。

「ああ。俺もそう思うな、トビー。大体、本人がやりたいって言ってるんだから、やらせてやればいいじゃないか。」

ジョージも腕組みをしながら言う。

「「おい!ジョージッ!!」」

すると何故かダンとニコルが同時に席を立ち、ジョージを睨み付ける有様だ。
う~ん・・・謎だ。もしかすると・・・この仕事も実はとんでもない内容なのだろうか・・・?
立候補したけど、既に後悔の念が押し寄せて来る。

「よ・・・よし、分かった。それならこの仕事はエリスに任せる。それでは後の1人は・・・お前だっ!ジョージッ!お前にこの仕事をやらせるからなっ?!」

ビシイッとジョージを指さすトビー。

「ええええええっ?!そ、そんな・・・!横暴だっ!こんなのは特権乱用だっ!」

イケメン男ジョージは長い髪を振り乱しながら喚く。
あ~あ・・・。折角のイケメン男なのに・・・台無しだ。全く残念極まりない。

「うるさい!俺に逆らうなっ!俺はリーダーだっ!エリスに詳しく仕事内容を教えてやるんだぞ?いいか・・・決してサボったり手を抜いたりしてエリスの足を引っ張るんじゃないぞ・・・。」

トビーは恐ろしい形相でジョージを睨み付けると、今度は急に笑顔になってツカツカと近付いて来ると、私をじっと見つめながら甘ったるい声で言った。

「いいかい、エリス。君は・・・とても真面目な女性だから、きっとこの仕事も全身全霊を掛けて頑張るだろう・・・。だけど、これは僕からの忠告だよ。真面目に仕事をする事はないんだ・・・。時には手を抜く事も大事だよ。何、少々手抜きをしたって構わないんだからね?」

「は、はあ・・・。わ・・分かりました・・・。」

引きつった笑みを浮かべながら返事をする私。
しかし・・・従業員の責任者のトップがそんな事を言っていいのだろうか?
私はこの先の学園の行く末を案じるのだった。


「全く・・・何故俺がこんなきつい仕事をしなくてはならなんだ・・!」

私とジョージは今野外パーティー会場の舞台となる、学園から500m程離れた場所にある湖を目指して荷馬車に乗って向かっていた。
荷台には沢山の道具が積まれている。
荷物を良く見ると・・・主にホームセンターの園芸コーナーで売られているかの様なアイテムが殆どを占めている。

「あの~クライスさん。私達は今日一体どのような仕事をするのでしょうか?」

ずっと仏頂面のジョージの隣に黙って座っているのもいたたまれず、彼に話しかけてみた。

「何だよ・・・。お前・・・やっぱり何も知らないで・・この仕事を引き受けたんだな?」

ますますジョージは不機嫌になってゆく。

「は。はあ・・・。」
そんな事言ったって、誰も仕事内容を教えてくれなかったじゃ無いのよっ!私は心の中で毒づいた。

「きょうの俺達の仕事は湖の周りの草刈りだ。まあ湖自体はそれ程大きくは無いからあまり問題は無いのだが・・後は・・・周辺に木が多く生えているからハチの巣が無いか・・・チェックしてまわる。」

ハチの巣・・・?何だか嫌な予感がしてきた。

「あ・・あの・・・もしや・・ハチの巣を見つけたとしたら・・・?」

恐る恐るジョージに尋ねる。

「そんなのは駆除するに決まっているだろう?」

「誰がですか?」

「俺達に決まってる!ったく・・・だからこの仕事やりたくなかったんだ。」

ジョージは益々不機嫌になって来る。

「そ、そんな!私・・・蜂の駆除なんて無理ですよっ!やった事も無いし!」

「ああ、俺だってそうだ!だから・・・仮に蜂の巣を見つけたら・・・。」

「見つけたら?」

「・・・見なかったことにするんだ。」

「はい?あの・・もう一度仰って頂けますか?」

余りにも意外過ぎる答えに思わず聞き直してしまった。

「何だよ、同じ事を何度も言わせるなよ。いいか?蜂の巣を見つけたら見なかった事にする。ただ、それだけの事だ。リーダーだってお前に言ってただろう?時には手を抜く事も大事だって。」

「え・・・?」
つ、つまり・・あの台詞はそう言う意味だったのか・・・・手を抜くところは抜くと言う意味は・・・蜂の巣を見つけた場合、駆除せずに見なかった事にしろと・・・。でもそれで今迄被害は出なかったのだろうか・・?だけど・・・そんな・・ハチの巣があっても目をつむるなんて真似、私には・・・・!

「はい、分かりました。見なかった事にしておきますね。」
ニッコリと笑って返事をする。
誰だって蜂は怖い。今日・明日と蜂の巣は見つからなかった事にして・・・当日運悪く蜂が暴れれば・・あら、いつの間に蜂の巣が・・・と胡麻化せば良いのだっ!

 大分・・・私もずるい人間になって来たかもしれないと感じた瞬間であった。


 湖に着いた私達は早速芝刈り機を持って馬車から降りた。


「う・・・うわあああ・・・。」

私は思わず大きな声を上げてしまった。
で・・でかいっ!私はてっきり大きな池レベルと考えていたのだが・・・なにこれっ!野球場位の広さの湖じゃないのっ!こ・・この周囲の草刈りをしろというのか・・・しかもたった2人きりで・・・。

「あ、あの!クライスさん!」
思わず声が裏返ってしまった。

「何だよ、今度は何の用だ?」

「あ、あの~も・・・もしやこの湖の周囲を全て草刈りをする・・・と言う事なのでしょうか?」

無理だ、こんなの絶対に出来っこない。

「ああ、それも・・・しなくていい。」

「へ?」

「いいか、会場のテントはここに設置されるから・・・このテントから左右
・・せいぜい500m範囲内の草を刈ればいい。」

え・・・?な、何という手抜きな・・・・しかし、トビーの台詞が頭の中に蘇って来る。手を抜くところは抜く・・・・。今こそ、実践する時なのだ!
私はジョージとは反対周りで草刈りをしていたが・・・本当にそんな草刈りの方法で良いのだろうか?!
しかし・・・私はやはり、根が真面目な日本人。手抜きと言うよりはこれではまるでサボりの様だ。
う~ん・・・何か草刈りに有効なアイテムは無いだろうか・・・。腕時計式操作パネルで、ピッピッと検索をし・・・おあつらえ向きなアイテムを発見した。

『固形燃料型芝刈り』

こちらのアイテムはボウボウに伸び切った草を炎で綺麗に均一な長さに焼き払う事が出来る便利な草刈りアイテムです。周囲10Kまでが有効範囲です。ぜひ、ご利用下さい。尚、こちらは一度使えばアイテムボックスから消えてしまいます。


うわあ・・・何て便利なアイテムなんだ・・・だけど、私が持っているポイントは現在600ポイントのみ。どうしよう足りるかな・・・?
恐る恐る必要ポイントをチェックすると・・なんと必要ポイントは500。
やった!これなら・・・交換できるっ!

私は迷わず。『交換』をタップした。
出てきたのは長い杖の様なチョークに手のひらサイズの固形燃料。
そして取説が一冊。

私は早速取説を読んだ―。


「クライスさーん!」
私は手を振って時計回りに草刈り作業を行っているジョージに駆け寄ると言った。

「クライスさん、すみませんが馬車に乗ってこの湖を1周して下さい!お願いします!絶対に・・・損な話では無いので!」

「何だよ、全く忙しい時に・・・・。」

しかし、ブツブツ言いながらもジョージは馬車を出してくれた。そして湖の周りを1周する。
その間、私は長いチョークを使って地面に印を書いていく・・・。

「おい、お前・・、さっきから何をしてるんだ?」

訝し気にジョージは尋ねて来たが。、私は意味深な笑みを浮かべると言った。

「まあ、見ていてくださいよ。じきに・・面白いショーをお見せしますから。」

思わせぶりな台詞をジョージに言うがこれは実は詭弁だ。仮に・・うまく草を燃やせなかった場合は所詮これはショーだと言えば胡麻化せると思ったからだ。

やがて馬車は1周した。

「ふふふ・・・では見ていてくださいね?」

私は言うと、『固形燃料型芝刈り』を地面の上に投げ捨てた。

途端に炎が辺りを包む。

「ウワアアアアッ?!」

当たり一帯が炎に包まれるので、悲鳴を上げるジョージ。私も予想外に燃え盛る炎を見て、思わず叫びそうになり口を押えた。
やがて炎は湖の周囲を覆いつくし・・・・一瞬で鎮火した。

そして・・・あれ程草ぼうぼうに伸び切っていた湖周辺の草は・・・・綺麗に刈り取られていたのだ。

「す・・・すごい・・・・。」

ジョージは感嘆の声を上げている。
よ・・良かった・・・成功して・・。本当は自信無かったんだよね。
しかし、私はそんな事をおくびにも出さずに笑顔で言った。

「どうですか?クライスさん。」

するとジョージは私に振り向いた。その顔は・・・笑顔だった

「ああ。見直したよ。エリス。」

え?いつの間にか・・エリスって呼んでるよ。
そして・・・私はジョージの頭の上にハートのゲージが徐々に姿を現してくるのを見た。

ま・・・まさか・・・ジョージ迄・・こ、攻略対象に・・・?

好感度の数字は30を指していた—。
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