転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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3章5 新しい自分として

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――午前8時

鏡の前に向かって、自室で出掛ける準備をしていると部屋の扉がノックされた。

『クラリス、私だ。入ってもいいかい?』

「はい、どうぞ」

顔を上げて返事をすると扉が開かれ、先生が姿を現した。

「もう出かける準備は終わったようだね」

「はい、先生」

返事をすると、先生が顔をしかめる。

「コラ、先生じゃないだろう?」

「あ……そうでしたね、お兄様」

「そう。君はクラリスとなったあの日から、私の妹になったのだからね」

「すみません。自分の名前は大分慣れたのですけど……まだ、お兄様と呼ぶのは慣れていなくて」

「いいよ。そのうち慣れるだろう。それに今日から君は『ニルヴァーナ』大学の寮生として暮らしていくのだからね。そうなるとあまり会う機会も無くなってしまうし。ところで勉強の方は大丈夫そうかな?」

「はい。何とかついていけると思います」

私の言葉に先生……もとい、兄は満足そうに笑う。

「そうだね、クラリス。君は本当に優秀だ。それに12歳で6年間も眠り続けていたとは思えないくらい精神年齢もしっかりしている。年相応にみえるよ」

「ありがとうございます」

精神年齢が年相応なのは当たり前だ。今の私は前世の頃と、ほぼ同じ年齢に達しているのだから。

勉強の方も同じだ。
ここが日本で作られたゲーム『ニルヴァーナ』の世界だからであろう。学習内容も私が今まで学んできたことと、殆大差が無かったのだ。

「だけど、この3ヶ月君は良く頑張ったね。初めは身体を動かすこともままならなかったのに、一生懸命リハビリを頑張って普通の生活が出来るようになったのだから。本当に努力家だ。兄として誇りに思うよ」

兄は笑いながら、私の頭を撫でる。初めはこの態度に戸惑いもあったが、今では大分慣れてきた。
何しろ3ヶ月間、このレナー伯爵邸で一緒に暮らしてきたのだから。

「それでお兄様、入学式に行く時間はまだ早いですが……何か他に用事でもあったのですか?」

「そう、そのことだけどね……君の両親が来たんだよ。寮生活に入る前に、会っておきたいって」

「え!? お父様とお母様が!?」

私は思わず声を上げてしまった。


****


 両親は応接室に通されていた。

「お父様! お母様!」

部屋に飛び込むと、2人は驚いたように立ち上がった。

「「ユニスッ!!」」

最初に父が私を抱きしめてきた。

「ユニス、会いたかったよ。元気だったか?」

「はい、お父様」

顔を上げて返事をする。
3ヶ月ぶりの再会で父の顔は今にも泣きそうになっていた。

「ユニス、私にも顔を見せて頂戴」

「はい、お母様」

父か離れると今度は母に抱きしめられた。

「ユニス……姿は変わってしまったけれど、それでも私には分かるわ。だって、私達はあなたの親なのだから」

母はボロボロ涙を流している。

「そうだよ、ユニス。お前は私達の大切な娘だ」

ユニス……そう呼んでくれるのは、もう両親だけだ。今の私は本当の自分の名を名乗ることさえ許されないのだから。
それどころか、今まで両親に会うのも禁止されていた。
魔術協会は私がユニス・ウェルナーであることを徹底的に隠そうとしていたからだ。

「お父様、お母様。よく私に会うことが許されましたね?」

「昨日、先生から連絡が入ったのだよ。明日ユニスの入学式前に会いに来て欲しいと」

「そうだったのですか?」

父の言葉に驚いた。
あれほど私が両親に会いたいと訴えても聞き入れてくれなかった兄が……。

するとそこへ兄がフラリと部屋に入ってきた。

「折角の親子水入らずのところ、申し訳ありませんが……そろそろお引き取り願えますか? そろそろ大学へ行かなくてはならないので」

「……分かりました。ところで先生、ユニスに声をかけなければ我々も入学式を見学に行っても良いのですよね?」

父が神妙な面持ちで尋ねる。

「ええ、クラリスに接触さえしなければ構いませんよ」

兄は、両親の前でわざと「クラリス」と呼ぶ。
もう「ユニス」はこの世には存在しないと言われているような気がしてならなかった。

「ありがとうございます、先生」

母は丁寧に挨拶すると、再び私を抱き寄せてきた。

「ユニス、大学入学おめでとう」

「! は、はい……お母様」

最後に父とも抱き合い、両親はレナー家を後にしていった。


****

 入学式には兄が付き添うことになっていた。

既に生活必需品は寮に全て送ってある。
待ち合わせ場所のエントランスへ行くと、既にスーツ姿の兄の姿があった。

「お待たせしてすみません」

「いや、私も来たばかりだ。では、行こうか?」

兄が扉を開けると、既に馬車が屋敷の前に待機していた。

あの馬車に乗って行くのか……。
そんなことを考えていると、突然馬車の扉が開いて中から人が降りてきた。

「え……?」

私は降りてきた2の人物を見て、思わず目を見張った――

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