余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

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ヤンの章 ① アゼリアの花に想いを寄せて

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「あら?ヤン何処かへ出かけるの?今日は日曜日で学校はお休みじゃない」

朝、出かける準備をしていた僕にシスターアンジュが声を掛けてきた。


「はい、アゼリア様のお墓参りに行ってきます。今日は15日ですから」

「あ…そうだったわね。今日はアゼリアの月命日だったわ…」

シスターアンジュが思い出したかのように言う。

「ね~アゼリア様って誰?」

去年この教会にやってきたばかりのまだ5歳のカレンが不思議そうに首を傾げた。

「アゼリア様って方はね、昔この教会で赤ちゃんだった時少しだけ暮らしていた方で、その後大人になってからはこの国の王太子様のお嫁さんになった方なのよ。でも。病気になって20歳の時に亡くなってしまった方なの。生きていれば私と同じ年齢ね。神秘的な緑の瞳のとってもきれいな方だったのよ」

「…」

シスターアンジュの話を複雑な気持ちで聞きながら僕は教会を出た。


「アゼリア様は赤いアゼリアの花が好きだったな…」

教会の周りにはアゼリアの花が沢山植えられている。それはここの教会出身のヨハン先生とオリバーさんの意向で植えられたのだと聞いている。
一番花が大きくて色が鮮やかなアゼリアの花を10本摘み取り、アゼリア様のお墓へ向かった。


 とても青い空が美しい5月。

教会の裏手には小高い丘がある。昔は『見晴らしの丘』と呼ばれていたらしいけれども今では『アゼリアの丘』と呼ばれ、王族の敷地になっていた。勿論誰でもこの丘に立ち入る事が出来る。
そしてこの『リンデン』の町が一望出来る場所にアゼリア様とアゼリア様のご両親のお墓が建っている。そしてこのお墓の周囲にもアゼリアの花が咲き乱れている。


僕はアゼリアのお墓の前に立つと言った。

「アゼリア様…また会いに来ましたよ」

僕はアゼリアの花束をそっとアゼリア様の眠るお墓の上に置いた。
早いもので、僕が大好きだったアゼリア様が亡くなって10年の歳月が流れていた。
僕は18歳になり、今年高校を卒業したら今住んでいる教会を出て一人暮らしをする事になっている。

「アゼリア様、聞いて下さい。僕…アゼリア様のように勉強を頑張って学年1の成績を持っているんですよ。本当は僕もヨハン先生やカイ先生、それにマルセル先生のような医者になりたかったんですけど…お金が集まらなくて医学部に進学するのを諦めてしまいました。アゼリア様の命を奪った白血病の治療の研究をしたかったのに…」

いや、本当はそうじゃない。僕はアゼリア様の贖罪の為に医者を目指したかったんだ。あの時、僕がアゼリア様の異変に気付いていれば…すぐにヨハン先生を呼びに行って命を助けることが出来たかもしれない。なのに僕はアゼリア様が亡くなっているとは気づきもしなかったんだ。


「アゼリア様…。許して下さい…僕は貴女を見殺しにしてしまいまいした…」

そして僕は今日もアゼリア様のお墓の前で許しを請う―。


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