余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

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ヤンの章 ② アゼリアの花に想いを寄せて

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 アゼリア様のお墓参りを終わらせて教会へ戻り、扉を開けた。

「ただいま…」

「あ!帰って来たわね!」

部屋の奥から聞覚えのある声が聞こえ、すぐにその人物が僕の前に現れた。

「随分遅かったじゃないの?待ちくたびれちゃったわ」

「メ、メロディ…」

そこに立っていたのは僕と同じ高校に通うメロディだった。背中にはカレンをおんぶしている。

「お帰りなさーい。ヤンお兄ちゃん」

メロディが大好きなカレンはニコニコしながら僕を見る。

「メロディ、いいのかい?毎週末ここへ来ているけど…オリバーさんやローラさんに何も言われないのかい?」

溜息をつきながら尋ねると、メロディは頬を膨らませた。

「何言ってるの?私はもう18よ?子供じゃないのよ?いつまでも父さんと母さんの言う事を聞く年齢じゃないし」

「そう言えばメロディは高校を卒業したら、この『リンデン』を離れるんだっけね」

メロディはピアノの才能がある。子供の頃から何回もピアノコンクールに入賞し、ついに審査員の目に留まって音楽で有名な『ハイネ』の音楽大学に進学する事が決定している。

「え~…メロディお姉ちゃん…何処か行っちゃうの?」

カレンが悲し気に言う。

「あ、行くと言ってもまだ先の話だし…どうなるか分からないから。ほ、ほら。おやつ持ってきたから皆で食べましょ」

メロディは慌てた様にカレンに説明すると、部屋へと入って行った。そして僕もその後を追う。


「あら、お帰りなさいヤン。メロディがローラさんの手作りクッキーを沢山持ってきてくれたのよ?これから皆でお茶を飲む所なの。一緒にどう?」

シスターアンジュが声を掛けて来た。
テーブルには既に子供たちが席に着いている。

「ヤン!ほら皆で一緒に食おうぜ?」

ディータが僕を呼ぶ。彼は16歳で僕よりも2歳年下だ。

「早く来ないと無くなっちゃうぞ~」

14歳のヨナスが意地悪そうに言う。

「何言ってるの?ヨナス!ヤンお兄ちゃんにもちゃんと分けてあげるのよ!」

12歳のマリーがヨナスを睨み付けた。

「うるせっ!年下のくせにっ!」

「何よっ!ガキッ!」

この2人はまさに犬猿の仲と言っていい。今のところこの教会に身を寄せているのは僕、ディータ、ヨナス、マリー、そしてカレンの5人だ。そしてシスターアンジュと一緒に暮らしてる。

「はいはい、みんな静かにするのよ~騒ぐとおやつ抜きよ」

パンパンと手を叩きながらメロディが注意すると彼らは皆静かになる。

「本当にメロディが手伝ってくれると楽だわ。それじゃお茶を入れて来るわね」

シスターアンジュが厨房に行こうとするのをメロディが声を掛けた。

「シスターアンジュ、お手伝いします!」

「そう?ありがとう。助かるわ」

昨年、病気でシスターエレナが亡くなってからは、シスターアンジュが1人で教会を切り盛りしている。だからメロディは週末は必ずここに手伝いに来てくれている。


 教会で暮らしていると、様々な死に出会う。

不慮の事故や病気…。

喪服に身を包み、泣き崩れなら故人に別れを告げる人々を見る度に僕はアゼリア様の事を思い出す。

僕の目の前で静かに息を引き取っていったアゼリア様。

シスターエレナの死は受け入れる事が出来たのに、アゼリア様の事だけは…。


10年経っても…僕は未だにアゼリア様の死から立ち直れないでいた―。
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