出ていけ、と言ったのは貴方の方です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
2 / 14

第2話 父の目論見

しおりを挟む
――翌日

「何ですか……こんな朝から仕事をさせるなんて……フワァァァアア……」

大欠伸をしながら、ヘンリーは自分の前に置かれた山積みの書類を恨めしそうに見つめる。

「何が、こんな朝からだ。時計を見てみるがいい、もう10時を過ぎているのだぞ? 領民たちは太陽が登る前から働いているのだ。彼らを少し見習って、お前も働け。いずれはお前がここの領主になるのだぞ?」

「大丈夫ですよ。父上はまだ45歳ではありませんか、まだまだ健康で働き盛りではありませんか」

「黙って、仕事をしろ。その書類に目を通して問題なければサインをするのだ。私はこれから領地を見て回らなければならない。しっかり仕事をするのだぞ」

ビリーはそれだけ言い残すと、大股で書斎を出ようとし……足を止めた。

「いいか、ヘンリー。今日中にその書類に目を通さなければ……お前のツケは支払わん。分かったな」

「え!? そ、そんな! 父上! 幾ら何でも……」

――バタンッ!

しかし、彼がまだ話の途中にビリーは出ていってしまった。

「……な、何だよ……人がまだ話をしている最中だっていうのに……」

そして恨めしそうに書類の山に目をやる。

「ふん! サインしろ……か。いいだろう。サインぐらい……何枚だって書いてやるさ!」

ヘンリーは万年筆を握りしめると、次から次へとサインをし続けた。
……勿論、書類に目を通すことなどなく――



****


 ビリーが屋敷に戻ってきたのは17時を過ぎていた。

書斎に行ってみると、ヘンリーが最後の書類にサインをしているところだった。

「おお、ヘンリーよ。きちんと仕事をしていたようだな?」

「ええ、当然じゃないですか。何しろ、ツケ代がかかっているのですからね……はい! 終わりました!」

万年筆を置くと、ヘンリーは書類の束に重ねた。

「よくやった。ヘンリー。見直したぞ。お前はやれば出来る息子だ」

「なら、父上。ツケ代を貰えるのですね?」

「そのことなら心配するな。もう私が支払っておいた。善良な領民を待たせるわけにはいかないからな」

「本当ですか!? さすがは父上! ありがとうございます。では、今日の仕事は無事に終わったということで出掛けてきます! 食事のことならご心配なく。外で食べてきますから!」

ヘンリーは席を立つと、足早に書斎を出て行った。


――バタン

扉が閉ざされると、ビリーはポツリと呟く。

「……行ったか……マイク」

「はい、旦那様」

音もなく現れるマイク。

「ヘンリーのサインした書類を確認するのを手伝ってくれ」

「はい、かしこまりました」

マイクは先程までヘンリーのいた椅子に座ると、二人は無言で書類をペラペラとめくり始め……。

「ありました! 旦那様!」

マイクが1枚の書類を見つけ出した。

「でかしたぞ、マイク! 早速見せてくれ」

ビリーは書類を受け取り、目を通すと満足気に頷く。

「……よし、確かにサインしてあるな」

「はい、旦那様」

二人はどこか嬉しそうに見える。

「ふははははは……っ! 完璧だ! 愚かな息子め……今まで私を舐めきったことを悔やむがいいわ!」

「ええ、旦那様!」

ビリーとマイクの高笑いが書斎に響き渡る。


そして、翌日事件が起こった――

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ

月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。 泣くのも違う。怒るのも違う。 ただ静かに消えよう。 そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。 画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。 相手に気付かれた? 見られた? 「未練ある」って思われる!? 恐怖でブロックボタンを連打した夜。 カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...