出ていけ、と言ったのは貴方の方です

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第1話 父と放蕩息子

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 ここは、のどかな田園地帯が広がる『イナカ』。

4つの村で構成されている『イナカ』の領民の数は、最近生まれたばかりの子供を含めて、322人。
主な産業は農業、領民の殆どがこの職業に就いている。

ここ『イナカ』を治める領主の名は、ビリー・バーン男爵。
常に領地を第一優先に考えて行動するところから、良き領主として領民たちから大変慕われていた。


「本当にビリー男爵は素晴らしい方ね」

「今年は不作で、いつもの半分も税を収められなかったのにお咎めされなかったよ」

「それどころか、新しい農機具を用意して下さった」

「この間は馬の出産で手が足りないところを、手伝いに来て下さったんだよ!」

「「「「本当に、ビリー男爵は素晴らしい方だ」」」」


領民たちは集まるごとに、ビリー男爵の素晴らしさに触れた。
その一方……。

「それにしても、後継ぎのヘンリー様ときたら……もう22歳になるというのに」

「ああ、全く駄目な方だね。この間は酒場で酔って暴れて店内を壊したそうじゃないか」

「その前は新婚だったトムの奥さんに手をだしたそうじゃないか?」

「あら、私の話ではネロの奥さんだったけど?」

そして領民たちは口を揃えて、こう言った。

「「「「本当に、ヘンリー様は駄目な方だ……」」」」



****


「ヘンリー! またお前は問題を起こしたのか!」

銀色の髪を振り乱した現当主、ビリーの声が書斎に響き渡る。

「だけど、それは奴らが領民のくせに俺のことを馬鹿にしたからですよ? 酒代をツケ払いにしてくれと頼んだら、前回のツケを払って頂いてからにしてください。次期領主になられるお方がお金を持っていないのですか? とふざけたことを抜かしたからですよ」

「ふざけたことを抜かしているのはお前の方だ。ヘンリー! お前はもう22歳になると言うのに、一体何をしておるのだ! 私がお前の年の頃には家庭を持ち、立派な領主として領民たちの信頼を得ていたのだぞ!」

放蕩息子をビシッと指差すビリー。

「ハッ。立派な領主? こんなヘンピな、まさに田舎領主のくせに何を言ってらっしゃるのですか? 家庭を持った? それは単に母と幼馴染の腐れ縁で結婚されただけじゃないですか?」

同じく銀髪、優男のヘンリーは肩を竦める。

「黙るのだヘンリー! とにかく、いい加減に次期当主として自覚を持て! 仕事を覚えて、世帯を持つのだ! ついでに人妻ばかりに手を出すな!」

「あ~ハイハイ。分かりましたよ……もう、行ってもいいですか? アリスと待ち合わせがあるんですよ」

「な、何……アリスだと? まさかガストンの新妻か!?」

眉間に青スジを立てて、ビリーが体を震わせる。

「ええ、よくご存知ですね? 屋根の修理を手伝ってくれと言われていたんですよ。それでは行ってきますね」

それだけ言い残すと背を向けて扉へ向かって歩き出すヘンリー。

「おい待て! 話はまだ済んでいないぞ! 第一、お前に屋根の修理など出来るはず無いだろう! ヘンリー!!」

――バタンッ!

無情に閉められる扉。
そして虚しく片手を伸ばした領主、ビリー。

「……くっ! な、何ということだ……!」

怒りでブルブル身体を震わせ、ドサリと椅子に座り込む。

すると――

「旦那様……」

書斎の本棚の一部がグルリと回転し、タキシード姿の初老の男性が現れた。彼は長年バーン家の忠実な執事として仕えている。


「聞いておったか? マイク」

「はい、旦那様。この耳でしかと」

恭しく、お辞儀をするマイク。

「ヘンリーのことをどう思う?」

「どうもこうもありませんね……末期です。正直、ヘンリー様が次期当主になれば『イナカ』は3年で滅ぶでしょう」

マイクは首を振る。

「そうか……私が間違えていた。幼い頃に母親を亡くしてしまった、あの子が不憫になり、つい甘やかして育ててしまったからな……。こうなったら、もうあの計画を実行するしか無いようだ」

「ええ。私もそう思います。これで駄目なら、もう『イナカ』はお終いです。救いようがありませんね」

「相変わらず、はっきりいい切るのだな? ……分かった。では、早速この手紙を届けてくれ。大至急だ」

ビリーは机の引き出しから一通の手紙を取り出し、執事に手渡す。

「はい、旦那様」

恭しく手紙を受け取ると、執事マイクは足早に書斎を後にした。

「ヘンリー。……悪く思うなよ。これもお前のため、親心だ」

ポツリと呟くと、ビリーは中断していた仕事を再開した――




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