罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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16 旅立ち

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 夜の九時――


 ジェイクと私は暗闇の中、葦舟が隠されている河原へと向かっていた。
 二人の背中にはそれぞれナップザックを背負っている。中身は非常食や当面必要そうな日用品である。これらは全てジェイクの家から持ち出したものだ。

「ユリアナ、5月とは言えまだ夜は冷える。船に乗るときは毛布も体に巻き付けておいた方がいい。それに顔も見られないように気を付けるんだ」

 フード付きマントを羽織った私にジェイクが声を掛けて来た。

「はい、分かりました」

 改めてフードを目深に被り、私は返事をした。


 やがて河原へとやって来た私たちは付近に生えている茂みを目指した。そこには葦で作った船を隠してあるのだ。

「それにしても今夜が丁度新月で良かった。月が出ていない分、いつもよりも周囲が暗くて助かる」

 ジェイクは振り返ると、遠くに揺らめく松明を見つめた。あの松明の先には兵士たちが駐屯している仮設小屋があるのだ。

「私達が突然いなくなったことで、集落の人達が問い詰められることは無いでしょうか?」

 親切にしてくれた集落の人達のことが心配になってきた。何しろ駐屯兵達の本来の目的はここを守る為ではない。自分たちの食糧を確保する為に居座っているようなものだ。彼らは一軒一軒、押しかけては食料を強奪している。当然私達がいなくなったことはすぐにバレることになるだろう。

 するとジェイクは首を振った。

「そのことなら特に心配する必要は無い。この集落を捨てて、別の場所へ逃げる者達は大勢いるんだ。それに、もっと悲惨な場所から逃げてここに住む人達もいる。人の入れ替わりが激しいんだよ」

「そうなのですか……それも全て戦争の影響なのでしょうね……」

 俯き加減にぽつりと言った。


 今回の戦争に対し、私は少なからず責任を感じていた。
 十年前……私がクラウス殿下の呼び出しに応じなければ、自分が死ぬことも無かったし家族が犠牲になることも無かったのではないだろうか?そしてこの戦争も…‥起こることは無かったのかもしれないと。

「どうした?ユリアナ。茂みに着いたぞ。船を出そう」

 不意にジェイクに声を掛けられ、我に返った。気付けば私たちは葦船を隠したしげみにやってきていたのだ。

「はい、ジェイク」

 返事をすると、早速私たちは茂みを手分けして取り除くと、葦船が現れた。
 実は茂みに見せかけて葦船の上に布でおおい、その上に藁や草を被せて茂みに見せかけていたのだ。

「よし、それでは船を運ぼう」

「はい」

 そして私たちは事前に用意しておいた進水台を使って葦船を川へと運んだ――



**
 
「ユリアナ。準備はいいか?」

 船に乗っている私にジェイクが尋ねて来た」

「はい。大丈夫です」

「よし、それでは出発しよう」

 ジェイクは岩場と船を繋いでいた縄を解いた。すると、船は川の流れに沿って動き始めた。

 川の流れは思っていたよりも早く、船はぐんぐん集落から遠ざかって行く。

「元気で……皆」

 ジェイクは集落に向かって別れの言葉を口にした。その横顔は……少しだけ、寂し気に見えた。



この日、私は『ウィスタリア』地区へ向けて旅立った――

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