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15 旅立ちの準備
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「『ウィスタリア』地区へ向かうなら夜に出た方がいいな。闇夜に紛れたほうが行動しやすい」
ジェイクは私に付き添うことを決めると、計画を練り始めた。
「夜ですか?でも夜は危険なのでは?明るいうちに出発した方が良いと思いますけど」
ここ、『ナース』地区は東は川、西は深い森に囲まれている。夜ともなれば森の中に潜む夜行性の危険動物たちが蠢く時間だ。
しかし、ジェイクは首を振った。
「いや、それは駄目だ。さっきも話しただろう?ここ『ナース』地区には下っ端の兵士たちの駐屯地が沢山あるんだ。奴らは今回の戦争の為に集められた、ならず者達ばかりだからね」
ジェイクの言葉に熱がこもって来る。
「本来であれば、この集落を守る為に駐屯しているのに彼らは俺達を守るどころか強奪ばかりしている。食料を奪ったり、若い女性たちを平気で手籠めにするような最低な連中だ。おおよそ騎士道の欠片すら持ち合わせてなんかいない。そんな奴らに見つかったらどうするんだ?」
「そ、それは……」
その言葉に思わずゴクリと息を飲む。
本来の私であれば、そのような不届き者達が現れても太刀打ち出来ただろう。それだけ自分の腕に自信がある。
けれど今のこの姿はどうだろう。色白で華奢な身体。それに人目を引くような美しい容姿をしている。
「ユリアナのような女性は、奴らの恰好な餌食になるに決まっている」
ポツリと口にするジェイク。
「確かに……そうかもしれませんね。でも、夜に移動なんて。森の中を移動するのは危険なのではありませんか?」
するとジェイクはフッと笑った。
「ユリアナ、君はここの地形がどのような物か忘れてしまったのかい?」
「いいえ……東は川で……あ! まさか……?」
私はあることに気が付いた。
「そう、この川をずっと下っていけば『ウィスタリア』地区へ辿り着ける。闇夜に紛れて川を下るんだ。馬で駆けるよりも余程早く着くはずだ」
「ですが、船はあるのですか?」
この小屋には船など無いし、物置のような物も無い。
「無いよ。だから作るのさ」
「え……?作る……?」
「うん、小舟を作ろうと思うんだ」
私はジェイクの言葉に目を見開いた――
****
その日から私とジェイクのイカダ作りが始まった。ジェイクはいつでも川を下れるように川辺から葦草を沢山集めていたのだ。
私達は寝る間も惜しんで何日も掛けて葦草で船を作り続け……五日目に葦船が完成した。
「やっと完成したな」
ジェイクが完成した小舟を見て嬉しそうに声を掛けてきた。
「はい、そうですね。でも本当に葦草で船を作れるのですね」
出来上がった葦船は人が二人乗るのに丁度良い大きさだった。深さも高さもあるので濡れずに川を下ることが出来そうだ。
「よし、それじゃ今夜早速出発しよう。すぐに旅立ちの準備をしないとな」
「え?どういうことですか?まさか、当分ここへは戻らないつもりですか?」
「そうだよ。俺はユリアナと行動を共にすると決めているからね。女性が一人で行動するにはあまりにも危険な世の中だ。それに俺は家族もいないから、この地に未練も無いんだ」
「ジェイクさん……」
そう言えば、今迄ジェイク自身のことには気に留めたことが無かった。自分のことだけで精一杯だったからだ。
「ありがとうございます……ジェイクさん」
「気にすることはないさ。俺は何処だって暮らしていける人間だから」
その後、私達はお世話になった集落の人達の家に挨拶に回った。皆、ジェイクがいなくなることに別れを惜しんでいた。その中には私もお世話になった女性もいた。
私は彼女に改めてお礼を述べ……女性は餞別にと、私に自分の服を一着プレゼントしてくれた。
そして……ついに私とジェイクが旅立つ時が訪れた――
ジェイクは私に付き添うことを決めると、計画を練り始めた。
「夜ですか?でも夜は危険なのでは?明るいうちに出発した方が良いと思いますけど」
ここ、『ナース』地区は東は川、西は深い森に囲まれている。夜ともなれば森の中に潜む夜行性の危険動物たちが蠢く時間だ。
しかし、ジェイクは首を振った。
「いや、それは駄目だ。さっきも話しただろう?ここ『ナース』地区には下っ端の兵士たちの駐屯地が沢山あるんだ。奴らは今回の戦争の為に集められた、ならず者達ばかりだからね」
ジェイクの言葉に熱がこもって来る。
「本来であれば、この集落を守る為に駐屯しているのに彼らは俺達を守るどころか強奪ばかりしている。食料を奪ったり、若い女性たちを平気で手籠めにするような最低な連中だ。おおよそ騎士道の欠片すら持ち合わせてなんかいない。そんな奴らに見つかったらどうするんだ?」
「そ、それは……」
その言葉に思わずゴクリと息を飲む。
本来の私であれば、そのような不届き者達が現れても太刀打ち出来ただろう。それだけ自分の腕に自信がある。
けれど今のこの姿はどうだろう。色白で華奢な身体。それに人目を引くような美しい容姿をしている。
「ユリアナのような女性は、奴らの恰好な餌食になるに決まっている」
ポツリと口にするジェイク。
「確かに……そうかもしれませんね。でも、夜に移動なんて。森の中を移動するのは危険なのではありませんか?」
するとジェイクはフッと笑った。
「ユリアナ、君はここの地形がどのような物か忘れてしまったのかい?」
「いいえ……東は川で……あ! まさか……?」
私はあることに気が付いた。
「そう、この川をずっと下っていけば『ウィスタリア』地区へ辿り着ける。闇夜に紛れて川を下るんだ。馬で駆けるよりも余程早く着くはずだ」
「ですが、船はあるのですか?」
この小屋には船など無いし、物置のような物も無い。
「無いよ。だから作るのさ」
「え……?作る……?」
「うん、小舟を作ろうと思うんだ」
私はジェイクの言葉に目を見開いた――
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その日から私とジェイクのイカダ作りが始まった。ジェイクはいつでも川を下れるように川辺から葦草を沢山集めていたのだ。
私達は寝る間も惜しんで何日も掛けて葦草で船を作り続け……五日目に葦船が完成した。
「やっと完成したな」
ジェイクが完成した小舟を見て嬉しそうに声を掛けてきた。
「はい、そうですね。でも本当に葦草で船を作れるのですね」
出来上がった葦船は人が二人乗るのに丁度良い大きさだった。深さも高さもあるので濡れずに川を下ることが出来そうだ。
「よし、それじゃ今夜早速出発しよう。すぐに旅立ちの準備をしないとな」
「え?どういうことですか?まさか、当分ここへは戻らないつもりですか?」
「そうだよ。俺はユリアナと行動を共にすると決めているからね。女性が一人で行動するにはあまりにも危険な世の中だ。それに俺は家族もいないから、この地に未練も無いんだ」
「ジェイクさん……」
そう言えば、今迄ジェイク自身のことには気に留めたことが無かった。自分のことだけで精一杯だったからだ。
「ありがとうございます……ジェイクさん」
「気にすることはないさ。俺は何処だって暮らしていける人間だから」
その後、私達はお世話になった集落の人達の家に挨拶に回った。皆、ジェイクがいなくなることに別れを惜しんでいた。その中には私もお世話になった女性もいた。
私は彼女に改めてお礼を述べ……女性は餞別にと、私に自分の服を一着プレゼントしてくれた。
そして……ついに私とジェイクが旅立つ時が訪れた――
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