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第1章 6 邂逅
しおりを挟む オスカー・オブ・ウィンザード・・・!
私は息を飲んで、正面に座ったオスカーを見つめた。彼を見ているだけで、70年前の記憶が鮮明に蘇って来る。不当な扱い・・そして暴力・・最後には流刑島へ置いてきぼりにされたあの記憶が・・・!だけど、私は70年間の記憶がある。あの永久に続くとも思える辛い生活を長い間耐えて生き抜いてきたのだ。精神力だって鍛えられている。だから臆することなく私は真っすぐにオスカーの目を見つめると言った。
「お初にお目にかかります。オスカー・オブ・ウィンザード王太子様。アイリス・イリヤと申します。」
そして深々と頭を下げた。
「フン・・・。何がお初にお目にかかります、だ。一度も俺の前に姿を見せなかった女のいう台詞か?」
オスカーは真っ赤な髪をかき上げ、乱暴に足を組むと吐き捨てるように言った。そう、オスカーの考えでは自分が婚約者である私に会いに行くのではなく、私が足を運ぶのを当然だと思っていたのだ。勿論、当時のイリヤ家はそんな事は露とも知らなかった。常識的に考えて男性が婚約者の家に足を運ぶのが当然の事だったからである。
「それについては、大変申し訳ない事をしてしまったと深く反省しております。どうぞお許し下さい。」
謝罪の言葉を述べたが、オスカーはそれでは満足しない様子で私をじろりと睨み付けると言った。
「俺は謝罪の言葉を聞きたいわけじゃない。何故、婚約者である俺の前に13年もの間一度も挨拶に来なかったのかを聞いているのだ。」
やはり、その事を聞いて来たか・・・。しかし、オスカーは肝心な事を忘れている。
王家へ参上するには、私たちは招待を受けない限りは伺う事が出来ないと言う事を。父や兄たちは国王から直々に声がかかり、城へ参上した事はあったが、私には一度も声がかかった事が無かったからだ。そしてオスカーは一度も13年間私に城へ来るようにと声を掛けてくれた事は無かった。
「恐れ入りますが、オスカー様。私達のように王族の方々より身分の低い者は王宮からお声がかからない限り、お伺いする事が出来ないのでございます。私は一度もお声を掛けて頂いた事がございません。なのでお城に参上する事が出来なかったのでございます。」
するとそれを聞いたオスカーは驚いたような顔つきをした。
「な・・何・・・?そうだった・・・のか?」
「はい、さようでございます。」
するとオスカーが小さく呟く声を私は聞き逃さなかった。
「何だ・・・俺はまたてっきり・・・俺に会うのが嫌だとばかり・・。」
しかし、私はその独り言をあえて聞こえないふりをした。昔の私だったら、ここで大人げない態度を取っていたかもしれない。だが・・・70年という歳月は私を大人へと成長させた。オスカーがこのような暴君ぶりな人間になったのはコンプレックスが原因だったのだ。ウィンザード家で赤毛の髪を持つ人間はオスカーしかいない。
他の王族たちは全員ブロンドヘアーである。この世界では古くから赤毛の人間は差別を受けて生きていたからだ。その差別の対象となるべき人間が王家に生まれてしまったからだ。オスカーには5人の兄姉達がいて、彼は一番末っ子の王子であった。本来なら末っ子として可愛がられて育つ立場であるはずが、赤毛として生まれてきてしまったが為に、1人離宮で育てられてきた。彼が歪んだ正確に育ってしまったのは周りの環境も悪かったのだ。
だが・・・それでも私は彼に心を許すつもりも無ければ、同情するつもりも・・ましてや流刑島に流されるつもりも毛頭無い。
私は私の本来の人生を取り戻すために時間を超えて、ここに戻って来たのだから―。
私は息を飲んで、正面に座ったオスカーを見つめた。彼を見ているだけで、70年前の記憶が鮮明に蘇って来る。不当な扱い・・そして暴力・・最後には流刑島へ置いてきぼりにされたあの記憶が・・・!だけど、私は70年間の記憶がある。あの永久に続くとも思える辛い生活を長い間耐えて生き抜いてきたのだ。精神力だって鍛えられている。だから臆することなく私は真っすぐにオスカーの目を見つめると言った。
「お初にお目にかかります。オスカー・オブ・ウィンザード王太子様。アイリス・イリヤと申します。」
そして深々と頭を下げた。
「フン・・・。何がお初にお目にかかります、だ。一度も俺の前に姿を見せなかった女のいう台詞か?」
オスカーは真っ赤な髪をかき上げ、乱暴に足を組むと吐き捨てるように言った。そう、オスカーの考えでは自分が婚約者である私に会いに行くのではなく、私が足を運ぶのを当然だと思っていたのだ。勿論、当時のイリヤ家はそんな事は露とも知らなかった。常識的に考えて男性が婚約者の家に足を運ぶのが当然の事だったからである。
「それについては、大変申し訳ない事をしてしまったと深く反省しております。どうぞお許し下さい。」
謝罪の言葉を述べたが、オスカーはそれでは満足しない様子で私をじろりと睨み付けると言った。
「俺は謝罪の言葉を聞きたいわけじゃない。何故、婚約者である俺の前に13年もの間一度も挨拶に来なかったのかを聞いているのだ。」
やはり、その事を聞いて来たか・・・。しかし、オスカーは肝心な事を忘れている。
王家へ参上するには、私たちは招待を受けない限りは伺う事が出来ないと言う事を。父や兄たちは国王から直々に声がかかり、城へ参上した事はあったが、私には一度も声がかかった事が無かったからだ。そしてオスカーは一度も13年間私に城へ来るようにと声を掛けてくれた事は無かった。
「恐れ入りますが、オスカー様。私達のように王族の方々より身分の低い者は王宮からお声がかからない限り、お伺いする事が出来ないのでございます。私は一度もお声を掛けて頂いた事がございません。なのでお城に参上する事が出来なかったのでございます。」
するとそれを聞いたオスカーは驚いたような顔つきをした。
「な・・何・・・?そうだった・・・のか?」
「はい、さようでございます。」
するとオスカーが小さく呟く声を私は聞き逃さなかった。
「何だ・・・俺はまたてっきり・・・俺に会うのが嫌だとばかり・・。」
しかし、私はその独り言をあえて聞こえないふりをした。昔の私だったら、ここで大人げない態度を取っていたかもしれない。だが・・・70年という歳月は私を大人へと成長させた。オスカーがこのような暴君ぶりな人間になったのはコンプレックスが原因だったのだ。ウィンザード家で赤毛の髪を持つ人間はオスカーしかいない。
他の王族たちは全員ブロンドヘアーである。この世界では古くから赤毛の人間は差別を受けて生きていたからだ。その差別の対象となるべき人間が王家に生まれてしまったからだ。オスカーには5人の兄姉達がいて、彼は一番末っ子の王子であった。本来なら末っ子として可愛がられて育つ立場であるはずが、赤毛として生まれてきてしまったが為に、1人離宮で育てられてきた。彼が歪んだ正確に育ってしまったのは周りの環境も悪かったのだ。
だが・・・それでも私は彼に心を許すつもりも無ければ、同情するつもりも・・ましてや流刑島に流されるつもりも毛頭無い。
私は私の本来の人生を取り戻すために時間を超えて、ここに戻って来たのだから―。
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