挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第122話 棺の中のフィリップ

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 人々の騒めく声が聞こえてくるが、私は気にとめるのをやめることにした。

今から愛するフィリップとの最後の別れの刻を迎えるのだから、今はそのことだけを考えなければ。

セシルが私の身体を労わって、ゆっくりと車椅子を押してくれている。
そして私達はフィリップの眠っている棺に辿り着いた。

「立てるか?エルザ」

セシルが背後から声を掛けてきた。

「え、ええ…」

肘掛けに両手を置いて、立とうとしたけれどもズキリと下腹部に痛みが走った。

「う…」

「やっぱり無理するな。俺が立たせてやる」

背後からセシルに支えられて、何とか立ち上がった。
でも、たったそれだけのことなのに背後ではざわめきが大きくなった。

「見たか…今の…」
「やっぱりね…」
「弟も弟だな」
「夫を亡くしたばかりなのに…」

わざと聞こえよがしに言っているのか、彼等の言葉が一つ一つ私の傷ついた心を更に深く抉っていく。

「チッ…なんて奴等だ…だが、気にするなよ?」

セシルが忌々しげに小声で言う。

「ええ…」

それだけ返事をするのがやっとだった。
そして私はセシルに支えられながら、フィリップが眠っている棺の中を覗き込んだ。

「!!」

棺の中を見た途端…私の中に衝撃が走った。

フィリップは白い花に囲まれて目を閉じていた。
両手を胸の前で組み、頬は痩せてしまっていたけれども死化粧のお陰が、血色もよく…まるで静かに眠っているようにしか見えなかった。

「兄さん…」

セシルの嗚咽混じりの声が背後で聞こえる。

「フィ、フィリップ…」

そっと右手でフィリップの頬に触れた。

冷たい…。
フィリップの身体はとても冷え切っていた。そこには生きていた頃の温かな温もりが完全に消えていた。今、目の前にあるのは魂の抜けたフィリップの身体だけだった。

「フィリップ…私よ…」

無駄とは知りつつ、呼びかけずにはいられなかった。

「お願い…目を開けて…?私を…み、見てよ…」

私の目には涙が浮かび、目が霞んでフィリップの顔がよく見えない。

「フィリップ…お、お願いだから…目を…目を開けて…?」

涙が後から後から溢れて止まらない。悲しすぎて、どうにかなってしまいそうだ。

棺の中に私の涙がぽたりぽたりと落ちていく。

「エルザ…もう、兄さんは…」

セシルが私を止めようとしている。

分かっている。
フィリップが…死んでしまったことは…もう二度と目を覚まさないことくらい…。

「フィリップ…ずっとずっと…貴方を愛しているわ…」

私は棺の中で眠るフィリップに顔を近づけ…最後の別れのキスをした。
その触れた唇の冷たさが余計私の涙を誘う。

私は泣きながら…少しの間、フィリップに別れのキスをした。


やがて棺から顔を離した私は、最後に花を添えた。

「フィリップ…もう、痛みから開放されたのよね…どうか、安らかに…眠って下さい…」

お別れの言葉を述べて、涙をハンカチで拭った時…辺りが静まりかえっていることに気が付いた。

何気なく参列者たちを振り返った時…私は息を呑んだ。

あれだけ私とセシルの仲を面白おかしく囁いていた人々が、今はハンカチで目を拭ったり、赤い目をしてすすり泣く女性の姿まであったのだ。

え…?どういうこと…?

「エルザ…お前の姿が…参列者たちの心に突き刺さったんだ」

するとセシルが教えてくれた。彼の顔も…涙で濡れていた。

「セシル…」

「席に…戻ろう。お前は世間の誤解を…解いたんだよ」

「…ええ…」

再びセシルに車椅子に乗せられた瞬間、突然酷い目眩に襲われた。

そして、そこから先の記憶が途絶えてしまった―。
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