100 / 204
第98話 本館へ向けて
しおりを挟む
その日の午後の出来事だった。
いつも通りフルーツのみの昼食を食べ、産まれて来る子供の為の産着を縫っていると扉がノックされた。
コンコン
『エルザ、入ってもいいかな?』
その声はフィリップだった。
「どうぞ、中へ入って」
声を掛けるとすぐに扉が開かれ、フィリップが部屋の中に入って来た。
「フィリップ、どうかしたの?仕事中じゃなかったの?」
産着を縫う手を休めると、フィリップは私が縫い物をしていたことに気付いた。
「あれ…?エルザ。ひょっとして今何か縫っていたの?もしかして忙しいのかな?」
フィリップが隣に座ってきた。
「いいえ、特に忙しいわけでは無いから大丈夫よ。今ね、赤ちゃんの産着を縫っていたの」
「そうか。そう言えば今エルザは生まれて来くる子供の為に色々繕っている最中だったよね?」
そしてフィリップはまだ膨らんでいない私のお腹にそっと触れると笑みを浮かべた。
「…本当にまだ信じられないよ。エルザのお腹の中に僕達の子供がいるなんて…夢みたいだよ。早く…会いたいな…」
フィリップの声は何処か寂しげに聞こえる
まさか…私達の子供が産まれてくるまで、生きていられる自信がないのだろうか…?
「フィリップ…お願いよ。どうか…どうか、私達の赤ちゃんが産まれてくるまでは…絶対に逝かないで…?」
フィリップの頬に両手を当てると私は訴えた。
「エルザ…大丈夫だよ。絶対に君と僕の子供に会うまでは…絶対に死んだりしないから」
そしてフィリップは私を抱きしめると、キスをしてきた。
フィリップ…。
長いキスの後フィリップは私からそっと離れると尋ねてきた。
「エルザ、今から両親の元へ君の妊娠と…僕の病気の事を報告に行こうと思うんだ。…一緒に来てくれるかい?」
フィリップが私の右手を握りしめてきた。…その手が少し震えていた。
私も怖いけど…きっとフィリップはもっと怖いに違いない。
だから私は空いている手をフィリップの上に重ねると頷いた。
「ええ、貴方が一緒に来て欲しいと望むなら…何処だって私は一緒に行くわ。だって貴方を愛しているから」
「ありがとう…エルザ。僕も君を…愛している。それじゃ、一緒に本館へ行こう?」
「ええ」
そして私達はしっかり手をつなぎ合って、本館へ向った。
****
ガラガラガラガラ…
馬車の中、フィリップが心配そうに尋ねてきた。
「エルザ、お腹の具合は大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。チャールズさんが大きなクッションを用意してくれたから、馬車の振動が少しも気にならないわ。それよりフィリップ。貴方こそ大丈夫なの?身体の痛みは平気?」
「うん、大丈夫だよ。痛み止めは持参しているし…それに…」
何故かそこでフィリップは話を切った。
「フィリップ?」
するとフィリップは笑顔で私語りかけてきた。
「そう言えば、最近母がラベンダーのハーブティーがお気に入りらしいよ。エルザの影響だろうね。多分僕達に今日振る舞うお茶もラベンダーティーかもしれないね?」
「え?ええ。そうね」
返事をしながら私は思った。
…何故だろう?
今、フィリップは意図的に話を中断した気がする…。
でも、多分気の所為だろう…。
このときの私は自分にそう、言い聞かせた―。
いつも通りフルーツのみの昼食を食べ、産まれて来る子供の為の産着を縫っていると扉がノックされた。
コンコン
『エルザ、入ってもいいかな?』
その声はフィリップだった。
「どうぞ、中へ入って」
声を掛けるとすぐに扉が開かれ、フィリップが部屋の中に入って来た。
「フィリップ、どうかしたの?仕事中じゃなかったの?」
産着を縫う手を休めると、フィリップは私が縫い物をしていたことに気付いた。
「あれ…?エルザ。ひょっとして今何か縫っていたの?もしかして忙しいのかな?」
フィリップが隣に座ってきた。
「いいえ、特に忙しいわけでは無いから大丈夫よ。今ね、赤ちゃんの産着を縫っていたの」
「そうか。そう言えば今エルザは生まれて来くる子供の為に色々繕っている最中だったよね?」
そしてフィリップはまだ膨らんでいない私のお腹にそっと触れると笑みを浮かべた。
「…本当にまだ信じられないよ。エルザのお腹の中に僕達の子供がいるなんて…夢みたいだよ。早く…会いたいな…」
フィリップの声は何処か寂しげに聞こえる
まさか…私達の子供が産まれてくるまで、生きていられる自信がないのだろうか…?
「フィリップ…お願いよ。どうか…どうか、私達の赤ちゃんが産まれてくるまでは…絶対に逝かないで…?」
フィリップの頬に両手を当てると私は訴えた。
「エルザ…大丈夫だよ。絶対に君と僕の子供に会うまでは…絶対に死んだりしないから」
そしてフィリップは私を抱きしめると、キスをしてきた。
フィリップ…。
長いキスの後フィリップは私からそっと離れると尋ねてきた。
「エルザ、今から両親の元へ君の妊娠と…僕の病気の事を報告に行こうと思うんだ。…一緒に来てくれるかい?」
フィリップが私の右手を握りしめてきた。…その手が少し震えていた。
私も怖いけど…きっとフィリップはもっと怖いに違いない。
だから私は空いている手をフィリップの上に重ねると頷いた。
「ええ、貴方が一緒に来て欲しいと望むなら…何処だって私は一緒に行くわ。だって貴方を愛しているから」
「ありがとう…エルザ。僕も君を…愛している。それじゃ、一緒に本館へ行こう?」
「ええ」
そして私達はしっかり手をつなぎ合って、本館へ向った。
****
ガラガラガラガラ…
馬車の中、フィリップが心配そうに尋ねてきた。
「エルザ、お腹の具合は大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。チャールズさんが大きなクッションを用意してくれたから、馬車の振動が少しも気にならないわ。それよりフィリップ。貴方こそ大丈夫なの?身体の痛みは平気?」
「うん、大丈夫だよ。痛み止めは持参しているし…それに…」
何故かそこでフィリップは話を切った。
「フィリップ?」
するとフィリップは笑顔で私語りかけてきた。
「そう言えば、最近母がラベンダーのハーブティーがお気に入りらしいよ。エルザの影響だろうね。多分僕達に今日振る舞うお茶もラベンダーティーかもしれないね?」
「え?ええ。そうね」
返事をしながら私は思った。
…何故だろう?
今、フィリップは意図的に話を中断した気がする…。
でも、多分気の所為だろう…。
このときの私は自分にそう、言い聞かせた―。
178
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる