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第81話 呼び止めるフィリップ
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「よし、食後のコーヒーも飲んだことだし…屋敷に戻るよ。兄さんに頼まれた仕事もたまっているし」
セシルが立ち上がった。
フィリップがセシルに割り振った仕事…。
少しでも彼の仕事の量を減らしてあげて、もっと治療に専念させたり身体を休める時間を増やしてあげたい…。
私は…愛するフィリップの役に立ちたかった。
「ねぇ、セシル。お願いがあるの」
「お願い?」
セシルが首を傾げた。
「ええ、私にも…この間のように、また仕事を手伝わせて貰いたいのよ」
「え…?でもな…父さんが…」
「お義父様がどうかしたの?」
「あ、ああ。父さんは封建的な考えの持ち主でね…女性が仕事をするのをよく思っていないんだよ。だから母さんだって働いたことは一度も無いんだ」
「そうだったの?だけど、私は商人の娘よ?母は父の仕事を手伝って、書類の整理や数字の計算をしたりと一緒になって働いてるわ」
「確かに、貴族社会でも働いている女性は沢山いるけれども父があまり良い顔をしないからな…。でも近々自分が今持っている仕事を全て兄さんに引き継いで、そろそろ隠居を考えているようだけれども…」
「え?そうなの?!」
その言葉を聞き、自分の体から血の気が引く気配を感じた。
そんな…。
フィリップは胃癌で余命が残り少ないのに…?これでは益々彼の負担が増えてしまう。
「どうしたんだ?エルザ…顔色が悪いぞ?」
「そ、そんなこと無いわよ。セシルの気の所為じゃないの?」
「いいや、エルザ。俺の目はごまかせないぞ?何年幼馴染をやってると思ってるんだ?本当は何か隠し事しているだろう?」
セシルが真剣な表情で私を見つめる。
「隠し事なんて…本当に何もしていないわ」
「いいや、嘘だね。一体何を隠しているんだ?正直に言えよ」
セシルは何だか妙だった。
いつもならあっさり引き下がるのに、今日に限ってしつこく追求してくる。
「だから、隠しごとなんて…」
「ひょっとして…兄さんのことじゃないのか?」
私の言葉の上にセシルが重ねてきた。
「!」
思わずその言葉に反応する。
「やっぱりな…。兄さんのことだったのか…。何となくそうじゃないかと思っていたけど…昨日も何だか様子がおかしかったしな…」
「違うわ、フィリップのことじゃないわよ」
視線をそらせて返事をした。
ずっとフィリップは自分の病気のことを隠し続けてきた。私がバラすわけには…。
「エルザ、俺の目を見ろ!」
不意にセシルが私の両肩を掴み、無理やり自分の方を向かせた。
その時―。
「セシル、エルザと一緒に食事をとって欲しいとは頼んだけど…一体僕の妻に何をしているんだい?」
部屋の入り口から突然フィリップの声が聞こえてきた。見ると、彼は扉に寄りかかって私達の様子をじっと見ていた。
フィリップは医者に行ってきたお陰だろうか…顔色がよく、元気そうに見えた。
「あ…兄さん。お、お帰り」
バツが悪そうにセシルが私の肩から手を離した。
「フィリップッ!お帰りなさいっ!」
彼に駆け寄ると、彼の胸に顔を埋めた。
「ただいま、エルザ」
フィリップは私を抱きとめてくれた。
「ごめんなさい…セシルに貴方の様子がおかしいことに気付かれてしまったの」
私はセシルに聞こえないように小声で言った。
「そうだったのかい?」
フィリップも小声で問いかけてきたのでセシルに気付かれない為に、無言で頷いた。
すると背後でセシルの声が聞こえてきた。
「やれやれ…全く、これだから新婚夫婦は…。俺はお邪魔のようだから帰ることにするよ。それじゃ」
セシルがダイニングルームから出ていこうとした時、フィリップが私を抱き寄せたまま彼に声を掛けた。
「ちょっと待ってくれないか?セシル」
「何?」
「セシルに…大事な話があるんだ」
「大事な話…?」
「そうだよ」
フィリップは頷く。
その目には…ある決意が宿っているように見えた―。
セシルが立ち上がった。
フィリップがセシルに割り振った仕事…。
少しでも彼の仕事の量を減らしてあげて、もっと治療に専念させたり身体を休める時間を増やしてあげたい…。
私は…愛するフィリップの役に立ちたかった。
「ねぇ、セシル。お願いがあるの」
「お願い?」
セシルが首を傾げた。
「ええ、私にも…この間のように、また仕事を手伝わせて貰いたいのよ」
「え…?でもな…父さんが…」
「お義父様がどうかしたの?」
「あ、ああ。父さんは封建的な考えの持ち主でね…女性が仕事をするのをよく思っていないんだよ。だから母さんだって働いたことは一度も無いんだ」
「そうだったの?だけど、私は商人の娘よ?母は父の仕事を手伝って、書類の整理や数字の計算をしたりと一緒になって働いてるわ」
「確かに、貴族社会でも働いている女性は沢山いるけれども父があまり良い顔をしないからな…。でも近々自分が今持っている仕事を全て兄さんに引き継いで、そろそろ隠居を考えているようだけれども…」
「え?そうなの?!」
その言葉を聞き、自分の体から血の気が引く気配を感じた。
そんな…。
フィリップは胃癌で余命が残り少ないのに…?これでは益々彼の負担が増えてしまう。
「どうしたんだ?エルザ…顔色が悪いぞ?」
「そ、そんなこと無いわよ。セシルの気の所為じゃないの?」
「いいや、エルザ。俺の目はごまかせないぞ?何年幼馴染をやってると思ってるんだ?本当は何か隠し事しているだろう?」
セシルが真剣な表情で私を見つめる。
「隠し事なんて…本当に何もしていないわ」
「いいや、嘘だね。一体何を隠しているんだ?正直に言えよ」
セシルは何だか妙だった。
いつもならあっさり引き下がるのに、今日に限ってしつこく追求してくる。
「だから、隠しごとなんて…」
「ひょっとして…兄さんのことじゃないのか?」
私の言葉の上にセシルが重ねてきた。
「!」
思わずその言葉に反応する。
「やっぱりな…。兄さんのことだったのか…。何となくそうじゃないかと思っていたけど…昨日も何だか様子がおかしかったしな…」
「違うわ、フィリップのことじゃないわよ」
視線をそらせて返事をした。
ずっとフィリップは自分の病気のことを隠し続けてきた。私がバラすわけには…。
「エルザ、俺の目を見ろ!」
不意にセシルが私の両肩を掴み、無理やり自分の方を向かせた。
その時―。
「セシル、エルザと一緒に食事をとって欲しいとは頼んだけど…一体僕の妻に何をしているんだい?」
部屋の入り口から突然フィリップの声が聞こえてきた。見ると、彼は扉に寄りかかって私達の様子をじっと見ていた。
フィリップは医者に行ってきたお陰だろうか…顔色がよく、元気そうに見えた。
「あ…兄さん。お、お帰り」
バツが悪そうにセシルが私の肩から手を離した。
「フィリップッ!お帰りなさいっ!」
彼に駆け寄ると、彼の胸に顔を埋めた。
「ただいま、エルザ」
フィリップは私を抱きとめてくれた。
「ごめんなさい…セシルに貴方の様子がおかしいことに気付かれてしまったの」
私はセシルに聞こえないように小声で言った。
「そうだったのかい?」
フィリップも小声で問いかけてきたのでセシルに気付かれない為に、無言で頷いた。
すると背後でセシルの声が聞こえてきた。
「やれやれ…全く、これだから新婚夫婦は…。俺はお邪魔のようだから帰ることにするよ。それじゃ」
セシルがダイニングルームから出ていこうとした時、フィリップが私を抱き寄せたまま彼に声を掛けた。
「ちょっと待ってくれないか?セシル」
「何?」
「セシルに…大事な話があるんだ」
「大事な話…?」
「そうだよ」
フィリップは頷く。
その目には…ある決意が宿っているように見えた―。
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