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第67話 人知れず耐える夜
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2人きりの食卓…。
結婚式を挙げた日と変わらぬ光景ではあったけれども、私とフィリップの間に流れる空気はあの時とはまるで違う。
あの時はピンと空気が張り詰めていたけれども、今は優しい空気で満たされている。
「エルザ、今夜も君の好きな料理を並べるように厨房に頼んだんだよ?」
フィリップは優しい笑みを私に向ける。
「ありがとう。でも…いつもいつも私の好きな料理ばかり並べて貰うのは気が引けるわ。フィリップだって食べたい料理があるでしょう?」
自分の好きな鶏肉の香草焼きを切り分けながらフィリップに尋ねた。
「いいんだよ。そんな事は気にしなくても。だって君の好きな料理は僕が好きな料理でもあるからね。それに…ここのシェフにはエルザが好きな料理を全て覚えておいて貰いたいんだ…」
意味深なフィリップの言葉に私の胸は締め付けられそうになる。
「そ、そう?ありがとう」
胸の痛みを押さえながら、私とフィリップは互いの本心を明かすこと無く他愛もない話をして食事を楽しんだ。
本当は触れなければならない話はあるのに…せめて食事の席でだけは、残酷な現実から目をそむけたかったからなのかもしれない。
やがて素朴だけれども満足のいくディナー後のお茶も飲み終わるとフィリップが声を掛けてきた。
「お茶も飲んだことだし…そろそろ部屋に戻ろうか…」
「ええ…」
返事をしながらフィリップの顔を見ると、その表情は青ざめている。
「フィリップ、具合が悪いのでしょう?痛むの?」
「う、うん…。どうやら…痛みが現れてきたみたいなんだ…夜になると、どうしてもね…」
苦しげに答えるフィリップ。
「薬は何処にあるの?」
「自室に…あるよ…」
フィリップの顔が痛みで歪む。
「肩を貸してあげる。一緒に部屋に戻りましょう?」
「い、いいよ。エルザ…今呼び鈴で誰か呼ぶから…」
ベルに手を伸ばそうとするフィリップを止めた。
「お願い、私にお世話させて?フィリップのことが心配なのよ」
じっとフィリップを見つめた。
「…ありがとう。それじゃ…肩を貸してくれるかな…?部屋まで頼むよ」
「ええ、勿論よ」
そして私はフィリップの身体を支えながら、2人で彼の自室へ向かった―。
****
フィリップの部屋には既に明かりが灯されていた。
「そこの…リクライニングソファでいつも痛みが引くまで休んでいるんだ」
部屋の中央に置かれた革張りの立派なソファをフィリップが指さした。
「分かったわ、そこに座りましょう?」
「…うん…」
コクリと頷くフィリップの身体を支えながらリクライニングソファに座らせた。
ソファに身を沈めたフィリプは深いため息をつくと言った。
「そこの…テーブルに吸い飲みと薬包があるから…飲ませてくれるかな?」
震える指先でテーブルを指すフィリップ。
「ええ、分かったわ」
急いで丸テーブルに近寄ると、彼の言う通り吸い飲みと薬の包がある。
私はその2つを手に取ると、急ぎフィリップの元へ戻った。
「フィリップ…薬よ。口を開けてくれる?」
「…ありがとう」
口の中に粉薬を入れてあげると、水の入った吸い飲みを口にあてがった。
「ん…」
ゴクンゴクンと喉を鳴らして薬を飲むと目を閉じ、再びフィリップは背もたれによりかかった。
「…この痛み止めの薬は夜用でね…効き目が強いんだ」
目を閉じたまま話してくれる。
「…そうなのね?」
「エルザ…もう君は部屋に戻って休みなよ…」
けれど私は首を振った。
「いいえ…何処にもいかない。ここにいるわ」
「え…?」
彼が目を開けて私を見る。
「貴方のことが心配だから…そばにいさせて?私に言ったわよね?ずっと1人でいることが…不安だったって」
そして私は彼のそばに行くと、右手をそっと両手で包み込んだ。
「エルザ…ありがとう…」
フィリップはフッと笑い…やがて薬が効いたのか…眠りについた。
スヤスヤと寝息を立てて眠るフィリップの眉が苦しそうに歪む。
「フィリップ…辛いのね…」
額には薄っすらと汗が浮かんでいる。自分のハンカチを取り出し、そっと彼の額に浮かんだ汗を拭いてあげた。
「う…」
時折漏れてくる声は本当に辛そうだった。
「フィリップ…貴方、毎晩そうやって…人知れず苦しんでいたの?ひとりきりで…」
彼は恐らく自分の苦しむ姿を私に見られたくないから、あえて自分の部屋と私の部屋の距離を開けあたのだろう。
どれほど不安な夜を1人で迎えてきたのかと思うと、彼が可愛そうでならなかった。
「フィリップ…私、もう貴方を1人にはしないわ…」
眠る彼の側に背もたれ付きの椅子を移動させて座ると、私も休む為に目を閉じた―。
結婚式を挙げた日と変わらぬ光景ではあったけれども、私とフィリップの間に流れる空気はあの時とはまるで違う。
あの時はピンと空気が張り詰めていたけれども、今は優しい空気で満たされている。
「エルザ、今夜も君の好きな料理を並べるように厨房に頼んだんだよ?」
フィリップは優しい笑みを私に向ける。
「ありがとう。でも…いつもいつも私の好きな料理ばかり並べて貰うのは気が引けるわ。フィリップだって食べたい料理があるでしょう?」
自分の好きな鶏肉の香草焼きを切り分けながらフィリップに尋ねた。
「いいんだよ。そんな事は気にしなくても。だって君の好きな料理は僕が好きな料理でもあるからね。それに…ここのシェフにはエルザが好きな料理を全て覚えておいて貰いたいんだ…」
意味深なフィリップの言葉に私の胸は締め付けられそうになる。
「そ、そう?ありがとう」
胸の痛みを押さえながら、私とフィリップは互いの本心を明かすこと無く他愛もない話をして食事を楽しんだ。
本当は触れなければならない話はあるのに…せめて食事の席でだけは、残酷な現実から目をそむけたかったからなのかもしれない。
やがて素朴だけれども満足のいくディナー後のお茶も飲み終わるとフィリップが声を掛けてきた。
「お茶も飲んだことだし…そろそろ部屋に戻ろうか…」
「ええ…」
返事をしながらフィリップの顔を見ると、その表情は青ざめている。
「フィリップ、具合が悪いのでしょう?痛むの?」
「う、うん…。どうやら…痛みが現れてきたみたいなんだ…夜になると、どうしてもね…」
苦しげに答えるフィリップ。
「薬は何処にあるの?」
「自室に…あるよ…」
フィリップの顔が痛みで歪む。
「肩を貸してあげる。一緒に部屋に戻りましょう?」
「い、いいよ。エルザ…今呼び鈴で誰か呼ぶから…」
ベルに手を伸ばそうとするフィリップを止めた。
「お願い、私にお世話させて?フィリップのことが心配なのよ」
じっとフィリップを見つめた。
「…ありがとう。それじゃ…肩を貸してくれるかな…?部屋まで頼むよ」
「ええ、勿論よ」
そして私はフィリップの身体を支えながら、2人で彼の自室へ向かった―。
****
フィリップの部屋には既に明かりが灯されていた。
「そこの…リクライニングソファでいつも痛みが引くまで休んでいるんだ」
部屋の中央に置かれた革張りの立派なソファをフィリップが指さした。
「分かったわ、そこに座りましょう?」
「…うん…」
コクリと頷くフィリップの身体を支えながらリクライニングソファに座らせた。
ソファに身を沈めたフィリプは深いため息をつくと言った。
「そこの…テーブルに吸い飲みと薬包があるから…飲ませてくれるかな?」
震える指先でテーブルを指すフィリップ。
「ええ、分かったわ」
急いで丸テーブルに近寄ると、彼の言う通り吸い飲みと薬の包がある。
私はその2つを手に取ると、急ぎフィリップの元へ戻った。
「フィリップ…薬よ。口を開けてくれる?」
「…ありがとう」
口の中に粉薬を入れてあげると、水の入った吸い飲みを口にあてがった。
「ん…」
ゴクンゴクンと喉を鳴らして薬を飲むと目を閉じ、再びフィリップは背もたれによりかかった。
「…この痛み止めの薬は夜用でね…効き目が強いんだ」
目を閉じたまま話してくれる。
「…そうなのね?」
「エルザ…もう君は部屋に戻って休みなよ…」
けれど私は首を振った。
「いいえ…何処にもいかない。ここにいるわ」
「え…?」
彼が目を開けて私を見る。
「貴方のことが心配だから…そばにいさせて?私に言ったわよね?ずっと1人でいることが…不安だったって」
そして私は彼のそばに行くと、右手をそっと両手で包み込んだ。
「エルザ…ありがとう…」
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額には薄っすらと汗が浮かんでいる。自分のハンカチを取り出し、そっと彼の額に浮かんだ汗を拭いてあげた。
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