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第63話 心は一つに
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2人で涙を流しながら暫く抱き合っていたけれども、やがてフィリップが口を開いた。
「そろそろ…仕事に戻らないとセシルが心配しているかもしれない」
「でも…身体の方は大丈夫なの?本当は具合が悪くて部屋に戻っていたのでしょう?」
「…そうだよ。でも今は体調も落ち着いているからね。それにセシルにはいずれ僕の仕事全てを引き継いで貰わないといけないから、早々休んでもいられないんだ…」
フィリップは立ち上がろうとしたので、私は先に立ちあがるとフィリップに手を貸してあげた。
「私につかまって?」
「…ありがとう」
少し足元のおぼつかないフィリップに手を貸して、立ち上がらせた。
「…ねぇフィリップ。お願いがあるの…」
「お願い…?」
怪訝そうに私を見つめるフィリップ。
「私にも貴方の仕事を手伝わせて?少しでも…貴方の負担を減らしてあげたいの」
「え?」
「大丈夫、こう見えても私はブライトン商会の娘で両親の事業の手伝いをしてきたのよ?帳簿だってつけることが出来るし、計算も得意なの。だから…お願い。私にもお手伝いさせて?」
「エルザ…」
フィリップは私をじっと見つめ…ためいきをついた。
「本当は…君にはもっと優雅な生活をさせてあげたかったのに…夫人同士のお茶会や、社交界パーティに参加させてあげたり…。それに、2人で演奏会や何処かへ出かけたり…」
「フィリップ…」
「だけど…ごめん。今の僕には…とてもそんな余裕は無いんだ。まだ体の自由が利くうちに、セシルに全ての業務を引き継いで貰わないとならないから…」
フィリップは私の髪に触れながら、悲し気な顔で見つめる。
「そんなこと気にしないで。私は貴方のそばにいられるだけで十分幸せなのだから」
彼の手をキュッと握った。
「ありがとう、エルザ。それじゃ…僕の仕事を手伝ってくれるかい?」
「ええ。喜んで」
私は笑みを浮かべてフィリップに返事をした―。
****
「ごめん、セシル。待たせてしまったね」
書斎に2人で戻るとセシルの机の上に乗っていた書類は半分程に片付いていた。
「あれ?話は済んだのかい?もう少しゆっくりしていても良かったのに」
「いえ大丈夫よ。それよりセシル。私もフィリップの仕事を手伝わせてもらうことになったから、これからもよろしくね」
私はセシルに声を掛けると、彼は怪訝そうな顔をみせた。
「え?そうなのか?…いいのかい?兄さん」
「ああ、いいんだ。2人で話し合って決めたことだからね。それじゃ早速だけどエルザにはこの資料をアルファベット順に並べて、ファイリングしてくれるかな?僕の隣においで。ここに空いている椅子が一脚あるから」
「ええ」
早速フィリップの近くに椅子を寄せると、彼が資料を私の前においてくれた。
「それじゃお願いできるかな?」
優しい笑みを浮かべながらフィリップが尋ねてくる。
「ええ、頑張るわ」
その時、視線を感じて顔を上げるとこちらをポカンとした顔で見つめるセシルがいた。
「どうかしたの?セシル」
「い、いや…。少し席を外していた間に一体2人の間に何があったのかな~…て思っただけだよ」
「何がって?」
フィリップが首を傾げる。
「う~ん…そうだな…新婚夫婦みたいだなと思ってね」
「新婚夫婦…」
フィリップが神妙な顔つきでポツリと言葉を口にした。
確かに今までの私とフィリップの関係は歪だった。夫婦とはとても言えない関係だっただろう。
でも今は違う。私とフィリップ…すれ違っていた2人の心が一つになれたのだから。
「ええ、そうよ。私達は新婚だもの」
私は笑みを浮かべた。
「そっか…。何があったかは知らないけれど…良かった、安心したよ」
「セシル…」
フィリップがじっとセシルを見つめている。やっぱり、セシルは気づいていたんだ。私とフィリップの歪な関係に…。
「よし、それじゃ仕事再開するか」
セシルが私たちに声をかけた。
「そうだな」
「ええ」
そして私たちは3人で協力して仕事を始めた。
フィリップ…私、これから貴方の支えになれるように頑張るから。
私はそっとフィリップの横顔を見つめ、心の中で語りかけた―。
「そろそろ…仕事に戻らないとセシルが心配しているかもしれない」
「でも…身体の方は大丈夫なの?本当は具合が悪くて部屋に戻っていたのでしょう?」
「…そうだよ。でも今は体調も落ち着いているからね。それにセシルにはいずれ僕の仕事全てを引き継いで貰わないといけないから、早々休んでもいられないんだ…」
フィリップは立ち上がろうとしたので、私は先に立ちあがるとフィリップに手を貸してあげた。
「私につかまって?」
「…ありがとう」
少し足元のおぼつかないフィリップに手を貸して、立ち上がらせた。
「…ねぇフィリップ。お願いがあるの…」
「お願い…?」
怪訝そうに私を見つめるフィリップ。
「私にも貴方の仕事を手伝わせて?少しでも…貴方の負担を減らしてあげたいの」
「え?」
「大丈夫、こう見えても私はブライトン商会の娘で両親の事業の手伝いをしてきたのよ?帳簿だってつけることが出来るし、計算も得意なの。だから…お願い。私にもお手伝いさせて?」
「エルザ…」
フィリップは私をじっと見つめ…ためいきをついた。
「本当は…君にはもっと優雅な生活をさせてあげたかったのに…夫人同士のお茶会や、社交界パーティに参加させてあげたり…。それに、2人で演奏会や何処かへ出かけたり…」
「フィリップ…」
「だけど…ごめん。今の僕には…とてもそんな余裕は無いんだ。まだ体の自由が利くうちに、セシルに全ての業務を引き継いで貰わないとならないから…」
フィリップは私の髪に触れながら、悲し気な顔で見つめる。
「そんなこと気にしないで。私は貴方のそばにいられるだけで十分幸せなのだから」
彼の手をキュッと握った。
「ありがとう、エルザ。それじゃ…僕の仕事を手伝ってくれるかい?」
「ええ。喜んで」
私は笑みを浮かべてフィリップに返事をした―。
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「ごめん、セシル。待たせてしまったね」
書斎に2人で戻るとセシルの机の上に乗っていた書類は半分程に片付いていた。
「あれ?話は済んだのかい?もう少しゆっくりしていても良かったのに」
「いえ大丈夫よ。それよりセシル。私もフィリップの仕事を手伝わせてもらうことになったから、これからもよろしくね」
私はセシルに声を掛けると、彼は怪訝そうな顔をみせた。
「え?そうなのか?…いいのかい?兄さん」
「ああ、いいんだ。2人で話し合って決めたことだからね。それじゃ早速だけどエルザにはこの資料をアルファベット順に並べて、ファイリングしてくれるかな?僕の隣においで。ここに空いている椅子が一脚あるから」
「ええ」
早速フィリップの近くに椅子を寄せると、彼が資料を私の前においてくれた。
「それじゃお願いできるかな?」
優しい笑みを浮かべながらフィリップが尋ねてくる。
「ええ、頑張るわ」
その時、視線を感じて顔を上げるとこちらをポカンとした顔で見つめるセシルがいた。
「どうかしたの?セシル」
「い、いや…。少し席を外していた間に一体2人の間に何があったのかな~…て思っただけだよ」
「何がって?」
フィリップが首を傾げる。
「う~ん…そうだな…新婚夫婦みたいだなと思ってね」
「新婚夫婦…」
フィリップが神妙な顔つきでポツリと言葉を口にした。
確かに今までの私とフィリップの関係は歪だった。夫婦とはとても言えない関係だっただろう。
でも今は違う。私とフィリップ…すれ違っていた2人の心が一つになれたのだから。
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私は笑みを浮かべた。
「そっか…。何があったかは知らないけれど…良かった、安心したよ」
「セシル…」
フィリップがじっとセシルを見つめている。やっぱり、セシルは気づいていたんだ。私とフィリップの歪な関係に…。
「よし、それじゃ仕事再開するか」
セシルが私たちに声をかけた。
「そうだな」
「ええ」
そして私たちは3人で協力して仕事を始めた。
フィリップ…私、これから貴方の支えになれるように頑張るから。
私はそっとフィリップの横顔を見つめ、心の中で語りかけた―。
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