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第64話 新婚だから
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17時―
「セシル、本当にここで夕食を食べていかないのかい?」
仕事を終えて席を立ったセシルにフィリップが尋ねた。
「うん、今夜は本館で食事をするよ。ひょっとすると父さんと母さんが戻ってくるかも知れないし…実は、2人からあまりここへ来ないように釘を刺されていたんだよ」
「そ、そうなの?」
セシルのその言葉にドキリとした。
まさか、お義父様とお義母様は私とセシルが良好な家族関係を築く事を妨げようと、そんな事を言ったのだろうか?
「でも言われてみれば確かに両親の話は尤もかもしれないよな?何と言っても2人は新婚なんだし、俺が入ればお邪魔かもしれないからな」
何も事情を知らないセシルは無邪気に笑う。
「…そうかも知れないね。僕達は新婚だから父も母も気を利かせたのかも知れない」
フィリップはセシルの考えに同意した。
「フィリップ…」
一体、フィリップはいつまで自分の病気のことをお義父様やお義母様…それにセシルに黙っているつもりなのだろう?
「それじゃ、また」
「うん、また」
フィリップとセシルは互いに握手を交わした。
「じゃあな、エルザ」
セシルは私の頭を撫で…ハッとした様子でフィリップを見た。すると彼はじっとセシルを見つめている。
「あ…ご、ごめん。兄さん。別に今のは深い意味じゃなく…」
「そうだねセシル。分かっているよ」
けれどフィリップは私の側に寄ると、意味深に肩を抱き寄せてきた。
その行動に私の胸はドキリとする。
「あ…アハハハ…。そ、それじゃあ…」
セシルは頭をかきながら、そそくさと書斎を後にした―。
「…うっ…」
フィリップはセシルの足音が遠ざかっていくと、胸を押さえて身体をかがめた。
「大丈夫?!フィリップ!苦しいの?」
見ると、フィリップの顔が青ざめている。
「う、うん…。い、痛みが強くて…」
フィリップは青ざめた顔で私を見た。苦しいはずなのに…無理に笑みを浮かべている。
「フィリップ…もう私には貴方の病状が分かっているのだから…お願い、私の前でそんなに無理しないで?」
「ご、ごめん…それじゃ…少し横になるよ…。エルザ…悪いけど…あのソファ…座面を引き出すと…ベッドに変わるんだ…。頼めるかな…?」
「ええ、分かったわ。フィリップはここのソファに座って待っていて?」
一人用のソファに座らせると、私は急いでフィリップが教えてくれたソファの座面を引き出して、ベッドにすると彼の元へ戻った。
「フィリップ、ベッドにしてきたわ。立てる?」
「う、うん…」
手を貸してフィリップを立たせると、私は彼の身体を支えながらベッドへ向かった。
「ふぅ…」
ベッドに身を横たえたフィリップの側に寄ると私は尋ねた。
「…辛い?フィリップ…」
「ん…だ、大丈夫…と言いたいところだけど…正直に言えば辛い…かな…。セシルの前では…具合が悪いところを…まだ見せられなくて…」
荒い息を吐きながらフィリップが答える。
「私に何か出来ることはない?」
彼の枕元に膝をついた。
「そ、それじゃ…書斎机の上にあるベルで…チャールズを…呼んでくれないかな…?」
フィリップは私を見つめた。
「分かったわ、すぐに呼ぶわね?」
そして私はベルを鳴らして、チャールズさんを呼んだ。
チャールズさんはすぐにやってくると、青い顔でベッドに横たわるフィリップを見て驚いて駆け寄ってきた。
「フィ、フィリップ様!大丈夫ですかっ?!」
「チャールズ…た、頼みがある…。痛み止めのお茶と、薬を…」
「はい、承知致しました。お茶と薬ですね?すぐにお持ちします」
チャールズさんが部屋を出ていくと、私は彼の手を握りしめた。
「フィリップ…しっかりして…」
こんなに苦しそうなフィリップを見るのは辛かった。するとフィリップが口を開いた。
「ほ、本当に不思議だ…エルザに手を握って貰えると…痛みが和らいでくる…もう暫くこのままで…いさせてもらえるかな…?」
「ええ。私の手がフィリップの役に立つなら、喜んで」
そして私はフィリップの手を両手でそっと包み込んだ―。
「セシル、本当にここで夕食を食べていかないのかい?」
仕事を終えて席を立ったセシルにフィリップが尋ねた。
「うん、今夜は本館で食事をするよ。ひょっとすると父さんと母さんが戻ってくるかも知れないし…実は、2人からあまりここへ来ないように釘を刺されていたんだよ」
「そ、そうなの?」
セシルのその言葉にドキリとした。
まさか、お義父様とお義母様は私とセシルが良好な家族関係を築く事を妨げようと、そんな事を言ったのだろうか?
「でも言われてみれば確かに両親の話は尤もかもしれないよな?何と言っても2人は新婚なんだし、俺が入ればお邪魔かもしれないからな」
何も事情を知らないセシルは無邪気に笑う。
「…そうかも知れないね。僕達は新婚だから父も母も気を利かせたのかも知れない」
フィリップはセシルの考えに同意した。
「フィリップ…」
一体、フィリップはいつまで自分の病気のことをお義父様やお義母様…それにセシルに黙っているつもりなのだろう?
「それじゃ、また」
「うん、また」
フィリップとセシルは互いに握手を交わした。
「じゃあな、エルザ」
セシルは私の頭を撫で…ハッとした様子でフィリップを見た。すると彼はじっとセシルを見つめている。
「あ…ご、ごめん。兄さん。別に今のは深い意味じゃなく…」
「そうだねセシル。分かっているよ」
けれどフィリップは私の側に寄ると、意味深に肩を抱き寄せてきた。
その行動に私の胸はドキリとする。
「あ…アハハハ…。そ、それじゃあ…」
セシルは頭をかきながら、そそくさと書斎を後にした―。
「…うっ…」
フィリップはセシルの足音が遠ざかっていくと、胸を押さえて身体をかがめた。
「大丈夫?!フィリップ!苦しいの?」
見ると、フィリップの顔が青ざめている。
「う、うん…。い、痛みが強くて…」
フィリップは青ざめた顔で私を見た。苦しいはずなのに…無理に笑みを浮かべている。
「フィリップ…もう私には貴方の病状が分かっているのだから…お願い、私の前でそんなに無理しないで?」
「ご、ごめん…それじゃ…少し横になるよ…。エルザ…悪いけど…あのソファ…座面を引き出すと…ベッドに変わるんだ…。頼めるかな…?」
「ええ、分かったわ。フィリップはここのソファに座って待っていて?」
一人用のソファに座らせると、私は急いでフィリップが教えてくれたソファの座面を引き出して、ベッドにすると彼の元へ戻った。
「フィリップ、ベッドにしてきたわ。立てる?」
「う、うん…」
手を貸してフィリップを立たせると、私は彼の身体を支えながらベッドへ向かった。
「ふぅ…」
ベッドに身を横たえたフィリップの側に寄ると私は尋ねた。
「…辛い?フィリップ…」
「ん…だ、大丈夫…と言いたいところだけど…正直に言えば辛い…かな…。セシルの前では…具合が悪いところを…まだ見せられなくて…」
荒い息を吐きながらフィリップが答える。
「私に何か出来ることはない?」
彼の枕元に膝をついた。
「そ、それじゃ…書斎机の上にあるベルで…チャールズを…呼んでくれないかな…?」
フィリップは私を見つめた。
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そして私はベルを鳴らして、チャールズさんを呼んだ。
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「チャールズ…た、頼みがある…。痛み止めのお茶と、薬を…」
「はい、承知致しました。お茶と薬ですね?すぐにお持ちします」
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「フィリップ…しっかりして…」
こんなに苦しそうなフィリップを見るのは辛かった。するとフィリップが口を開いた。
「ほ、本当に不思議だ…エルザに手を握って貰えると…痛みが和らいでくる…もう暫くこのままで…いさせてもらえるかな…?」
「ええ。私の手がフィリップの役に立つなら、喜んで」
そして私はフィリップの手を両手でそっと包み込んだ―。
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