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第44話 ハーブティーの秘密
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自室へ戻り、カウチソファに横たわっていても頭痛は少しも治まらなかった。こんな時、実家なら私の状態を家族も家政婦さん達もよく把握しているので鎮痛効果のあるハーブティーを淹れてきて貰えるのに…。この屋敷では私が持病の偏頭痛を持っている事を知る人は誰もいない。
「誰かが部屋に来てくれればお願い出来るのだけど…」
額を押さえながら呟くものの、そこでふと思った。
もし、この部屋に誰かが来てくれたとして…頭痛を訴えてもハーブティーを用意できるとは思えない。
「大丈夫…数時間程休めばきっと痛みは引くはず…」
私はクッションを抱えて痛みに耐えていた、その時―。
コンコン
「エルザ、俺だ。…いるか?」
扉の奥でセシルの声が聞こえた。
「セ…シル…」
何とか声を振り絞って返事をするも、恐らく私の声は彼の耳には届いていないだろう。
「エルザ?いるんだろう?具合が悪そうだと執事から聞いたんだ。…入るぞ」
その言葉と同時に扉が開かれ、部屋の中にセシルが現れた。
「エルザ?どうしたんだ?」
セシルは私が偏頭痛持ちであることを知らない。
「セシ…ル…」
彼は大股で私が横たわるカウチソファに近づくと、跪いて声を掛けてきた。
「エルザ?顔色が悪いぞ?そんなに具合が悪いのか?」
「わ、私…。あ、頭が痛くて…それで横に…」
それだけ答えるのが精一杯だった。私の頭はズキンズキンと脈打つ様な痛みを伴っている。
「何だって?頭が痛むのか?…分かった、ちょっと待っていてくれ」
セシルは素早く立ち上がると部屋を出ていってしまった。
「セシル…?」
彼は一体どこへ行ったのだろう…?けれど今の私は悪化する片頭痛に耐えるだけで精一杯だった―。
「ん…?」
あれから、ほんの僅かの時が流れた。目を閉じていると、部屋の中にラベンダーの香りが漂って来た。
「ラベンダー…?」
ゆっくり目を開けるとハーブティーの乗ったトレーを持ってこちらに近づいてくるセシルの姿が目に入った。
「セシル…。もしかしてそれは…?」
「ああ、鎮痛効果のハーブティーだ」
セシルは私の前にあるサイドテーブルにカップに注がれたハーブティーをそっと置いてくれた。
「起き上がれるか?」
セシルが静かに声を掛けてきた。
「え、ええ…」
絶え間なくやって来る痛みに耐えながら両手を使って何とか起き上がる。そしてカップに目をやった。
「エルザが片頭痛の時に飲んでいるフィーバーフューとラベンダーミックスのハーブティーを淹れてきた。飲むだろう?」
心なしか、セシルの声がいつもより優しく聞こえる。
「ええ、勿論飲むわ」
カップを両手に抱えるように持つと、まずはその香りを吸い込んだ。それだけで心がリラックスしてくる。
そしてカップに口を付けるとゆっくり、味わうようにハーブティーを飲んだ。
「…美味しい…少し痛みが和らいできた気がするわ…」
「そうか、良かったな」
セシルは私の向かい側に座ると目を細めて私を見た。全てのハーブティーを飲み終えると彼に声を掛けた。
「ごめんなさい…又横になってもいいかしら?」
「当然だろう?ここはエルザの部屋だし、第一具合が悪いんだから」
「…ありがとう」
そして再びカウチソファに横たわり、クッションを抱えるとセシルを見た。
「…セシル」
「何だ?」
「どうして…知っていたの?私が頭が痛い時…このハーブティーを飲んでるって」
するとセシルは言いにくそうに答えた。
「俺も知らなかったんだ…。ただ…兄さんが知っていた」
「え…?フィリップが…?」
「ああ、そうなんだ。もしエルザが頭痛を訴えてきたら、このハーブティーを淹れてあげて欲しいと、ここ…離れの使用人たち全員に伝えていたんだよ…」
「え…?」
私はその言葉に耳を疑った―。
「誰かが部屋に来てくれればお願い出来るのだけど…」
額を押さえながら呟くものの、そこでふと思った。
もし、この部屋に誰かが来てくれたとして…頭痛を訴えてもハーブティーを用意できるとは思えない。
「大丈夫…数時間程休めばきっと痛みは引くはず…」
私はクッションを抱えて痛みに耐えていた、その時―。
コンコン
「エルザ、俺だ。…いるか?」
扉の奥でセシルの声が聞こえた。
「セ…シル…」
何とか声を振り絞って返事をするも、恐らく私の声は彼の耳には届いていないだろう。
「エルザ?いるんだろう?具合が悪そうだと執事から聞いたんだ。…入るぞ」
その言葉と同時に扉が開かれ、部屋の中にセシルが現れた。
「エルザ?どうしたんだ?」
セシルは私が偏頭痛持ちであることを知らない。
「セシ…ル…」
彼は大股で私が横たわるカウチソファに近づくと、跪いて声を掛けてきた。
「エルザ?顔色が悪いぞ?そんなに具合が悪いのか?」
「わ、私…。あ、頭が痛くて…それで横に…」
それだけ答えるのが精一杯だった。私の頭はズキンズキンと脈打つ様な痛みを伴っている。
「何だって?頭が痛むのか?…分かった、ちょっと待っていてくれ」
セシルは素早く立ち上がると部屋を出ていってしまった。
「セシル…?」
彼は一体どこへ行ったのだろう…?けれど今の私は悪化する片頭痛に耐えるだけで精一杯だった―。
「ん…?」
あれから、ほんの僅かの時が流れた。目を閉じていると、部屋の中にラベンダーの香りが漂って来た。
「ラベンダー…?」
ゆっくり目を開けるとハーブティーの乗ったトレーを持ってこちらに近づいてくるセシルの姿が目に入った。
「セシル…。もしかしてそれは…?」
「ああ、鎮痛効果のハーブティーだ」
セシルは私の前にあるサイドテーブルにカップに注がれたハーブティーをそっと置いてくれた。
「起き上がれるか?」
セシルが静かに声を掛けてきた。
「え、ええ…」
絶え間なくやって来る痛みに耐えながら両手を使って何とか起き上がる。そしてカップに目をやった。
「エルザが片頭痛の時に飲んでいるフィーバーフューとラベンダーミックスのハーブティーを淹れてきた。飲むだろう?」
心なしか、セシルの声がいつもより優しく聞こえる。
「ええ、勿論飲むわ」
カップを両手に抱えるように持つと、まずはその香りを吸い込んだ。それだけで心がリラックスしてくる。
そしてカップに口を付けるとゆっくり、味わうようにハーブティーを飲んだ。
「…美味しい…少し痛みが和らいできた気がするわ…」
「そうか、良かったな」
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「ごめんなさい…又横になってもいいかしら?」
「当然だろう?ここはエルザの部屋だし、第一具合が悪いんだから」
「…ありがとう」
そして再びカウチソファに横たわり、クッションを抱えるとセシルを見た。
「…セシル」
「何だ?」
「どうして…知っていたの?私が頭が痛い時…このハーブティーを飲んでるって」
するとセシルは言いにくそうに答えた。
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「え…?フィリップが…?」
「ああ、そうなんだ。もしエルザが頭痛を訴えてきたら、このハーブティーを淹れてあげて欲しいと、ここ…離れの使用人たち全員に伝えていたんだよ…」
「え…?」
私はその言葉に耳を疑った―。
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