婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…

矢野りと

文字の大きさ
16 / 19

16.新たな婚約者候補は襲われる

しおりを挟む
いきなり夕方に祖父が屋敷へと乗り込んできた。

あの夜会のあとに『三人の婚約者候補達から選ぶことは無理です、問題が有り過ぎます!!』と書いた長い手紙を送ったのでそれを読んで来たのだろう。

相変わらずの突撃の訪問だったから逃げ出す間もなかった。

なんだか晩ごはんの時間帯に大きなしゃもじを持った人に突撃訪問を受ける人達の気持ちが分かった気がする。
不意打ちは本当に困るものだ。
本当なら断りたいが、屋敷の前で居座られたら居留守だって使えない…。


 むむっ、こんなことなら両親と一緒に出掛ければ良かったわ。
 お兄様を心配するんじゃなかった…。


両親は友人夫妻に招かれて留守にしている。
私も誘われたが、フワフワしている兄がちょっとだけ心配だからと仏心を出して残ってしまったのだ。

ちょっとフワフワしているだけなら命の危険はない、切り捨てるべきだった。

後悔時すでに遅し…。



きっと新たな婚約者候補達の釣書が山ほど持ってきているに違いないと思いため息が出てきた。
祖父が優良物件なんて持ってくるわけがない。ひ孫誕生のスピードと顔だけを重視するから、おのずと訳ありしか集まらないのだろう。

何度繰り返しても選べないという結果になる気しかしない。

 もう勘弁してください!
 このままだと…お祖父様を毒薬で物理的にってしまいそう。
 
 うーん??でも呪いでも物理的にでも結果が同じならいいかしら?

 過程は重要ではないわよね?
 私が求めているのは結果?だから。
 まあ…挑戦してもいいかな…。
 たぶん…いいよね?!


バレなければいいのではないかと、甘い誘惑に負けそうになる私は悪くないはずだ。


そんなことを考えながら、祖父が待つ応接室へと向かった。
その手にはまだ毒薬はない。
こんな優しい私を誰かに褒めてもらいたい。



「お待たせいたしました、お祖父様」

心の中で毒薬を握りしめ笑顔で登場する。

『ほっほほほー』まさに完璧な令嬢だ。

 
 今日、お祖父様の運命が決まる。
 生か…はたまた死か…。
 それはお祖父様の態度で決まる。

 私は実行するのみ。
 
 つまり決めるのはお祖父様だ。
 計画者?は祖父自身で私はただの実行犯?。
 ということは罪が重いのはお祖父様に決定!!



人間追い込まれるのと独自の理論で自己防衛に励むようだ。
きっと祖父が相手にならこれくらい許される。


いざ勝負と、部屋にいる祖父に目を向けるとなんと祖父の隣にはあのトナがいた。

 え、ええっ…!どうして彼が!
 なんで、どうして…。
 でも…嬉しいな、うふふ。

わけが分からずに驚きと喜びでワタワタとしてしまう。すると祖父はそんな私に驚くべきことを告げてきた。

「あー、なんだな。彼はお前の新たな婚約者候補だ。
お勧めとは言い難いが、ひ孫の誕生の数には自信があると言うのでな連れてきた。まあまだまだ釣書は用意してあるから断ってもいいぞ。エミリアが決めなさい」

生まれて初めてお祖父様が良いことを言った。

…信じられない。


 これは夢…?
 きっと夢よね。だってお祖父様がトナを連れてきたうえに婚約者にしていいなんて。
 彼もニコニコと笑ってくれている…。
 なんて都合に良い夢なんだろうか。
 
 いいよね、夢ならいいわよね…なにしても。


私はフラフラとしながらトナに向かって歩いていく。

彼の前まで来ると彼のほうが背が高いので目的が達成できないことを知る。でもここで諦めはしない、夢の中でも全力投球だ。
おもむろに近くにあった足置きをズズッと引き寄せその上にあがる。


完璧だった、目の前には愛おしいトナの顔がある。
むんずと彼の頬を両手で挟み逃げられないようにする。ぎょっとする彼にもお構いなしだ。
こんな表情は見慣れている。


 大丈夫、これは夢だからなんでも許される。
 なんだって叶う、叶えちゃう!!

自分で自分を全力で応援する。


勇気を出して彼の唇に自分の唇をそっと優しく重ねる。初めてだったからこれでいいか分からない。

だから何度も角度を変えて口づけを交わす。なんだか夢にしては生温かく凄く気持ちがいい。

 うぁ~、なにこれ。
 ドキドキとふわふわでボーとしちゃう。
 夢の中でもこんなに素敵なんだ…。
 遠慮しないで良かったわ。
 

名残惜しいけどそっとトナから唇を離す。

夢とはいえ、これ以上気持ちの良いことを続けていたら私は次に進もうとしてしまう。それにはまだ勉強が足りない、もっと兄がベットの下に隠し持っているお宝を熟読して自信をつけてから挑戦しよう。



「もう終わりか?エミリア。このなもんじゃ俺は満足できねーぞ、もっとしてくれ」

ちょっと意地悪そうにニヤリとするトナの顔が目の前にある。


…なんか嫌な予感がする。


ギギギっと音を立てながら首を祖父に向けると。

「これはすぐにでもひ孫誕生が期待できるな。
エミリア、遠慮はいらん。その調子で全力で頑張れ!多少順番が前後しても儂がなんとでもしてやるからな。心配はいらん」


…夢じゃなかった。


生まれて初めて私は貴族令嬢の十八番『儚げに失神』を使うことにした。

…もうこれしかない。

真っ赤な顔で彼の腕に収まりながら私は心の中で必死に穴を掘り進める。望み通りになったけど、今はこの現実から逃げる手段を必死になって探していた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

文中に『突撃!隣の○ごはん』という番組に関する表現があります。意味が変わらない読者様はお調べください♪
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた

今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。 二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。 ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。 その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。 が、彼女の前に再びアレクが現れる。 どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…

【完結】順序を守り過ぎる婚約者から、婚約破棄されました。〜幼馴染と先に婚約してたって……五歳のおままごとで誓った婚約も有効なんですか?〜

よどら文鳥
恋愛
「本当に申し訳ないんだが、私はやはり順序は守らなければいけないと思うんだ。婚約破棄してほしい」  いきなり婚約破棄を告げられました。  実は婚約者の幼馴染と昔、私よりも先に婚約をしていたそうです。  ただ、小さい頃に国外へ行ってしまったらしく、婚約も無くなってしまったのだとか。  しかし、最近になって幼馴染さんは婚約の約束を守るために(?)王都へ帰ってきたそうです。  私との婚約は政略的なもので、愛も特に芽生えませんでした。悔しさもなければ後悔もありません。  婚約者をこれで嫌いになったというわけではありませんから、今後の活躍と幸せを期待するとしましょうか。  しかし、後に先に婚約した内容を聞く機会があって、驚いてしまいました。  どうやら私の元婚約者は、五歳のときにおままごとで結婚を誓った約束を、しっかりと守ろうとしているようです。

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥
恋愛
 ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。  ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。  同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。  ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。  あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。  だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。  ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

(完結)貴女は私の親友だったのに・・・・・・

青空一夏
恋愛
私、リネータ・エヴァーツはエヴァーツ伯爵家の長女だ。私には幼い頃から一緒に遊んできた親友マージ・ドゥルイット伯爵令嬢がいる。 彼女と私が親友になったのは領地が隣同志で、お母様達が仲良しだったこともあるけれど、本とバターたっぷりの甘いお菓子が大好きという共通点があったからよ。 大好きな親友とはずっと仲良くしていけると思っていた。けれど私に好きな男の子ができると・・・・・・ ゆるふわ設定、ご都合主義です。異世界で、現代的表現があります。タグの追加・変更の可能性あります。ショートショートの予定。

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!! 婚約破棄から幸せになる物語です。

処理中です...