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17.正式な婚約者

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私にとっての人生最大の黒歴史はトナにとって最高の瞬間だったようだ。

あれから寝たふりを続けている私に向かって彼は熱烈な愛の告白をしてくれている。

それはもう劇の中の場面のような盛り上がりだ、私の心の中は。身体のほうは辛うじて残り少ない理性で抑えている。


 キャーキャー、イヤーン♪
 もう照れちゃうわ。
 でも、でも、もっと言ってー!
 トナ、愛の言葉を大盛りでお願いします!


寝たふりしながらも心なかでは全力でおねだりをしている。
するとそれを察したかのように彼は熱烈なプロポーズをしてくれる。

「エミリア、愛している。これからの人生を一緒に歩いていきたいんだ。苦労を掛けると思う、危険な目にも合うこともあるかもしれない…でも絶対に守ってみせる。幸せにしてみせる、どんな時でも笑っていられるように側にいるから俺と結婚してくれ」

「・・・・・」

熱烈な愛の告白に心臓が飛び出そうになるほど嬉しいけれども、私がその告白に答えを返すことはない。
だって寝たふりをし続けている為に完全に起きるタイミングを失ってしまっていた。

もういつ起きたらいいのか分からない。

 う、うう…しまったわ。
 こんなことなら早めに起きておくべきだった。
 初めての失神のふりだから正しい起き方まで誰にも聞いてなかった…。

 もうやだ、どうしよう…。


完全に貴族令嬢失格だった。

失神すら完璧にマスターしていなかった為に起きたいのに起きられない。


人生最大の黒歴史の次は人生最大のピンチ?だった。



「クッククッ、尻に生えている尻尾だけは正直に振れまくってるぞ。寝ているはずなのなぜかブンブンと嬉しそうにな」


しまった…!

感情表現豊かな尻尾のことをすっかり忘れていた。
私は慌てて振れまくっている尻尾を押さえる為に手をお尻の下に伸ばした。

 
 あれ…???
 ない、ないわ。尻尾がない…。
 ま、まさか振れまくり過ぎでちぎれたの?!
 そんなのってあり??


何度確認しても悲しいことに尻尾は見当たらない。
どうやら遠くまで飛んでいってしまったようだ。

 さようなら、私の尻尾。
 16年間という短い付き合いだったわね。


もう悲しくて寝たふりをやめて起きてしまう。
すると目の前には笑っているトナの顔が見えた。

「エミリア、安心しろ。俺の知る限りお前に尻尾は最初からない」

「えっ…、ない…」

そうだった、私には今まで一度だって尻尾はなかった。すっかり忘れていた、ただの人間だったことを。


私を寝たフリから起こすためにトナが一芝居を打ったことを知る。こんな単純な罠に掛かった恥ずかしさからプルプルと震えてしまう。
そんな私の様子を見て『可愛いなぁ』と呟いたあとに彼は話しかけてくる。

「それでエミリア、返事はどうなんだ?」

「もちろんイエスに決まってるでしょうー!騙した罰として一生離れないんだから、どんなに嫌がっても離れてあげないわ!」

照れ隠しなのと彼をちょっとだけ困らせたくて今度は怒っているふりをする。

「はっはっは、どうしたら許してくれるんだ?」

嬉しそうに笑う彼にちょっとだけお願いをする。

「えっと…もう一度愛の告白を…してくれたら許そうかな…だめ?」

お安い御用だと彼は何度も愛の告白をしてくれた。俺の気持ちは言葉では言い尽くせないと言って何度も何度も…。

…止まらない。

もう十分だからと言ってもやめてくれない。

面倒な相手に面倒な頼み事をしたと気づいたときには後の祭り。

だから最後の方はウトウトして叱られたけど…きっと私は悪くない。






こうしてちょっとハプニングはあったけど、お祖父様お勧めではない彼と婚約することが正式に決まった。
その後彼がこの国の第三王子でいろいろと大変な立場にあることを教えてもらった。

彼は不安そうな表情で私に確認してくる。

「エミリア、後から真実を告げて悪かったな。怖いならやめてもいいぞ。今ならまだ間に合うからな」

泣きそうな子犬のような顔をしている彼は私が好きになったトナだ。

第三王子アトナ殿下だけれども私の前ではただのトナでしかない。

「ふふふ、まだ分からないの?実は私、もの凄く強いのよ。だからトナのことは私が守ってあげるわ。王子様、どんな時も守ってあげるから護衛の私から離れては駄目よ」

「ったく、敵わねーな。エミリア、どんな時でも離れないぞ。もう逃さねぇからな」





その後すぐに王家からも第三王子の婚約者として正式に発表された。

第三王子とはいえ子爵令嬢が婚約者になるなど通常ならば認められないものだが不思議と反対の声は上がらなかった。
どうやら裏で祖父が何やら動いていたらしい。
『ひ孫、ひ孫♪』と言いながら嬉々として邪魔者を排除していく祖父を見たトナは『まずいな、早く作らないと本気で消される』と呟いていた。

大丈夫ですよ、その時は私が先にお祖父様をるから。私は貴方の護衛騎士だから良い意味で有言実行です。
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