エデンの園を作ろう

春秋花壇

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13 超高級老人ホーム

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入居時1億。

そんな超高級老人ホームが日本にもあるという。

子ども食堂や低級老人には想像さえできないような話。

今日何を食べようと10円安い卵を買いに3k先のスーパーまで行っている人には、別世界の話。

貧乏人は貧乏人で楽しむ方法はいくらでもあるのだから、摩訶不思議な世の中だ。

毒子の経営するエデンの園では、雪をかき集めて鎌倉やイグールを作り、バーンと寝っ転がってスノーエンジェルを作ってる。小さな雪の球で雪合戦してる。見渡す限りの水田はきらきらきらめく白銀の世界に笑顔がはじける。70過ぎのお年寄りが、飛び走り転げまわってお腹を抱えてはーはーしてる。お上品な超高級老人ホームの人たちには、これもまた想像もできないことなのかもしれない。


天上楽
都心から少し離れた高台に、ひっそりと佇む超高級老人ホーム「天上楽」。その名の通り、まるで天国のような設備とサービスが揃い、選ばれし高齢者たちが優雅な暮らしを送っていた。

入居者は、かつて政財界や芸能界で名を馳せた人物、あるいは莫大な財を成した大富豪たちばかり。広々とした個室には、高級家具や調度品が並び、専属の介護スタッフが24時間体制で世話を焼く。

食事は、一流ホテルのシェフが監修したメニューを提供。旬の食材を使った繊細な料理は、入居者の舌を唸らせる。

娯楽施設も充実しており、映画館、図書館、音楽ホール、温泉、プールなど、あらゆるものが揃っている。趣味のサークル活動も盛んで、絵画、陶芸、音楽、ダンスなど、多彩なプログラムに参加できる。

天上楽は、単なる老人ホームではなく、人生の晩年を最高に楽しむためのリゾート地のような場所だった。

しかし、その華やかな表向きの顔とは裏腹に、天上楽には暗い影も存在していた。

入居者たちは、過去の栄光にしがみつき、互いにマウントを取り合っていた。プライドの高い彼らは、些細なことでいがみ合い、諍いを起こすことも少なくなかった。

また、孤独を抱える入居者も多かった。家族は遠く離れて暮らしており、訪ねてくることもほとんどない。広い部屋で一人、虚しさに苛まれる日々を送っていた。

そんな天上楽に、一人の女性が入居してきた。名前は桜井美津子。かつては人気女優として活躍した人物だった。

美津子は、華やかな芸能界を引退後、一人暮らしを送っていた。しかし、年齢とともに体調が衰え、介護が必要となった。娘は海外に住んでおり、面倒を見ることはできなかった。

美津子は、仕方なく天上楽に入居を決めた。

最初は、周囲の入居者たちとの生活に馴染めなかった。プライドの高い彼らは、美津子に対して冷ややかな視線を向けていた。

しかし、美津子は持ち前の明るさと優しさで、徐々に周囲の心を開いていく。

美津子は、入居者たちと一緒に映画を見たり、歌を歌ったり、楽しい時間を過ごした。時には、過去の栄光を語り合い、互いの苦悩を共有することもあった。

美津子が入居して以来、天上楽に活気が戻ってきた。入居者たちは、彼女の存在によって、孤独や虚しさから解放され、生き生きと輝き始めた。

ある日、美津子は体調を崩し、病床に伏した。死期が近いことを悟った美津子は、娘に連絡を取り、久しぶりに再会を果たした。

娘は、母親が老人ホームに入居していたことを知らなかった。美津子は、娘に心配をかけまいと、あえて何も言わなかったのだ。

娘は、母親の変わり果てた姿を見て、涙を流した。そして、これまで母親を放置してきたことを深く後悔した。

美津子は、娘の手を握り、優しい声で語りかけた。

「あなたに会えて、本当に良かった。これからは、あなたの人生を歩んでください。」

娘は、母親の言葉を胸に、新たな一歩を踏み出す決意をした。

数日後、美津子は静かに息を引き取った。

美津子の死は、天上楽に大きな悲しみをもたらした。しかし、彼女の温かい笑顔と優しい言葉は、入居者たちの心に永遠に残るだろう。

美津子の死後、天上楽は大きく変わった。入居者たちは、互いを支え合い、共に生きる喜びを分かち合うようになった。

天上楽は、単なる老人ホームではなく、人生の真の意味を教えてくれる場所となった。
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