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2, セブ視点
しおりを挟む屋敷にたどり着いてもバカが背中にしがみついてくるから、振り払ったら気絶していたらしく馬から転げ落ちた。
ただでさえバカ、もといクートと俺がいなくなった屋敷は大騒ぎだったのに、クートが満身創痍で帰ってきたものだから更に火をつけたように騒がしくなった。
何があったかと問われても、全く分からない。
珍しく必死で一緒に祭りに行きたいと頼んでくるからつき合ってやったら、置き去りにされた上戻ってきたらボロボロで知らない子どもを抱えていた。しかも、連れてくる過程で揉めたのか大人に襲われてたし。
元々婚約した3年前から生意気なやつではあったけど、こんなに不可解な事をするやつではなかったのに、何なんだいったい。
クートが連れてきた子どもも、ずっと気を失ったままらしい。
連れてくる間に観察した限りでは顔を強く殴られた痕と首を絞められた痕が残っていたので、暴行されて気絶したのだろう。
首から下げたロケットペンダントにルロットの名前とリーゲレ伯の紋章が刻印されていたそうで、使いの者が伯の屋敷へ向かっている。
素直に考えれば街で暴行されていたルロットを居合わせたクートが助けたという話になるんだろうけど、細かい点に不可思議な所が多すぎる。
思い返せば頭をぶつけた後目が覚めてからのクートの言動はルロットが危ない目に遭っていると知っているとも取れるものだった。
けど、だとしたら何故半日気絶していたあいつが知ってるんだ。
それに、知っていたとしてあいつは赤の他人を自分を犠牲にして助けるような殊勝な性格じゃない。
俺が知る限り、クートとリーゲレ伯家の接点なんてないから、あの子供をわざわざ助ける理由が分からない。
「でも、大切な人って言ってたよな……。」
ルロットに対して、クートは大切な人とかかけがえのない人と言っていた。
何故か、胸にもやもやとしたものが広がる。
俺と祭りに行きたいとか、やっと素直になって可愛げが出て来たと思ったのに。何だか気にくわない。
ゲストルームで色々考えていたら、ユリアが訪ねてきた。
「セブ様、今よろしいでしょうか。」
「ああ。別に興味はないけど、クートはどんな感じなんだ。」
俺が聞けば、ユリアが涙ぐんだ。
「本当にお労しい状況ででございます。肩は強く打ったのか亜脱臼したうえに無理に使ったせいで炎症が酷くて。そのショックで高熱が出ております。」
「そうか。俺が一緒にいたのに、すまなかった。」
いつもはやかましいユリアの落ち込んだ姿に罪悪感が募る。クートのことも、心配で胸が痛んだ。
「セブ様のせいではございません。しかし、暫くは安静が必要ですので、今回の定例訪問はこれにて。」
「ああ。また見舞いに来る。大事にして欲しい。」
自然とそんな言葉が出て、ユリアもすこし驚いていた。
「それと、ルロット様がお目覚めになりました。直に迎えも参るとお伝えしたのですが、お帰りになる前にセブ様にお礼をされたいとの事です。」
俺もルロットの事は気になっていたから、帰る前に彼の部屋に立ち寄る事にした。
対面したルロットは少し顔色は悪いけど体に異常は無さそうだ。
銀髪で色白で、とても可愛い顔立ちをしている。
クートはこういうタイプが好きなのか、と思うとなんだかさっきのもやもやが更に濃くなる感覚がした。
ルロットは顔を合わせるなりその形の良いすみれ色の瞳で俺を見て、意外そうな表情を浮かべる。
「えっと、貴方はシンハー伯爵家の人ですか?」
「いや、違う。俺はこのシュナイダー王国の第三王子、セブだ。シンハー伯の長男、クートと婚約していて、今日は彼を訪ねてきていた。」
クートの名前を出しても反応はない。俺が婚約者と名乗ってもキョトンとしているし、クートと面識があるとは思えないな。
「あの……王子、恐れ入りますが僕を助けてくれた金髪の方は、いますか?」
ルロットが、頬をバラ色に染めながら尋ねてくる。
どうやら、クートに助けられた記憶はあるようだ。
とても愛らしい様に少し焦りを感じた。
会わせたくないな、と反射的に思う。
「さあ。道の脇の茂みで一人で気絶している君を俺が見つけて連れ帰って来たんだ。君以外の人間は見てないな。」
とっさに嘘を吐いてしまった。
「そうなんですね。助けていただきありがとうございました。」
あからさまにがっかりした様子で、ルロットが顔を伏せる。
ルロットがクートを覚えているなら、街で俺が待たされている間2人に何が起きたかも知っているんだろうか。
「何か覚えてることがあれば、探せるんじゃないか?」
少し探りを入れてみる。
「それが、ちょっとしか覚えてなくて。街で知らない男たちに連れ去られて、殴られて、首を絞められて気絶しちゃって。気がついたら誰かの背中に背負われてた。でもちゃんと起きれなくて、目の前の金髪だけぼんやり見えてて。それで、大切な人だから守ってって聞こえて……」
ルロットが心なしかうっとりした顔で説明するので、何だか腹立たしい気分になる。
絶対クートに合わせたくないと思った。
「大した手がかりもなさそうだな。難しそう。」
俺が言えば、ルロットも力無く頷いた。
少しだけ、罪悪感が湧いてくる。
「まあ、でも、君が助かった事をその人も喜ぶだろうから、良かったんじゃないか。」
その言葉にルロットは少し笑って、程なくして迎えに来たリーゲレ家の馬車で去っていった。
一週間くらいして、クートの容態が回復したと聞いてすぐに屋敷を訪ねた。
この1週間、気がつくとクートのことを考えていた。
「セブ!来てくれてありがとう!」
いつもは澄ました態度で形だけの挨拶しかしないのに、出迎えたクートは愛想良くニコニコと笑いかけてくる。
何だか、前に雰囲気が変わったときのままだ。
まあ、そうしてればそれなりに可愛い。気もする。
普通に立って歩けてはいるが、まだ痛めた肩が回復しきらないのか布を肩から巻いて腕を釣っている。
殴られた頬も擦り傷ができうっすら瘡蓋になっていた。
殴った男にもう少し反撃してやれたら良かったと悔しくなる。
「別に、暇だったし。」
腹立たしいのを隠して、何でもない風に言った。
「嬉しいな。ずっとセブに会いたかったんだぁ。」
「……あ、っそ。」
会いたかったって、何だよ。
くそ、頬が熱い気がする。気のせいだろうけど。
気を紛らわすために花撒き祭のときの経緯を聞けば、先に花束を買って馬に乗せてから祭を見物しようと俺を置いて花市に行ったら、襲われているルロットを見つけて助けた、ともっともらしい説明をする。
散々周りにも話したからか、その口調はよどみない。
「その……ルロットのこと、大切な人って……」
「そう!あの後のこと聞きたかったんだ。ルロットに会ったんだろ?可愛かったでしょ?」
続けて言われた言葉に、期待に高まっていた心が萎む。
いや、何だよ期待って。
「はぁ?別に可愛く……」
とっさに否定しようとして冷静になる。
今否定したら、ムキになってるみたいで格好悪いんじゃないか。
それに、俺ばっかりクートの事を意識しているのが気に入らない。
「いや、そうだな。お前より全然可愛い。あーあー。ルロットが婚約者なら良かったのに。」
態と比べるようなことを言う。
嘘じゃないし。見た目だけなら、断然クートよりルロットの方が好みだ。
なのに俺はクートのことを気にしてるんだから、こいつも少しは俺の言葉に反応するべきじゃないか。
けれど、嫌な顔をするどころかクートは明るい表情になった。
「そうだよね!僕もそう思う!ね、ね、ルロット君とどんなお話したの?」
は?それって、クートも俺じゃなくてあいつと婚約したかったってこと?
「話って、別にクートに関係ないだろ。」
ルロットがクートのことを捜していた、とは言いたくなかった。
「まさか、ルロットがここに来たりしてないよな?」
俺は普段王宮にいて、この屋敷に来るには結構距離がある。
ルロットのいるリーゲレ伯爵の屋敷の方が近いから、俺のいない間に二人が仲良くなってしまうかもしれない。
「いや、訪ねてきたことはないよ。どうして?」
「どうって、良いだろ別に。クート、お前絶対勝手にルロットに会うなよ。」
俺が言えば、クートは何故か真っ赤な顔でバタバタと暴れた。
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