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飼い犬に飛びかかられたら倒れて、頭を打ったら前世の記憶を取り戻して、自分が前世で読んだ商業BL小説『宮廷の秘密』の悪役令息に転生していたことに気がついた。
上質なシーツが敷かれたベッドの中で、前世の記憶やら今の自分の人生やらがたんこぶでズキズキする頭を駆け巡る。
この展開、信じられないような、このうえなく知ってるような。
こんな話を、無料の小説投稿サイトで腐るほど読んだ。
俺は腐男子の読み専だったから腐ってるのは自分なんだけど。
前世の記憶はあるけど、今世の記憶も消えていない。
今の俺は小説の中で主人公の敵役になる、クート・シンハー伯爵令息だ。
今は12歳。
小説の時間軸では19歳だから、7年後に俺は生涯幽閉の憂き目に遭うはずだ。
「ぼっちゃま、目が覚めたのですね!1日寝てらしたんですよ。お身体はいかがですか?」
乳母のユリアが部屋に入ってきて目を丸くした。
「ああ、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫。」
俺の言葉に、ユリアが驚愕の表情を見せた後に涙ぐんだ。
「ぼっちゃま、頭を打っていい子になられたのですか?ばあやはこんな日がきっと来ると信じておりました。」
そうだった。クートは高飛車で高慢ちきな嫌な奴なんだった。でも、俺そんな態度取るの嫌だな。ストレスやばそう。
「セブ様も、たいそう心配されてお帰りにならずにぼっちゃまの回復を待ってらっしゃるんですよ。もしぼっちゃまが頭をぶつけずお元気だったら二人で花撒き祭りに行ってこれましたのに。」
セブ・シュナイダー第3王子は俺の婚約者だ。男同士でも結婚する。ここはBL小説の世界だから。
でも、仲は決して良くない。むしろどちゃどちゃに悪い。
俺が頭を打って倒れたのだって、定例の顔見せに渋々来たセブとささいな喧嘩になり、逆上した俺が飼い犬をセブにけしかけようとして逆襲に遭ったからだ。
まさか懐に忍ばせたハムを俺に向かって投げるなんて。
まあ前世を思い出した今となっては、セブ様は大好きな小説の推しカプの片割れ。最高の攻めだけどね。
彼は、シナリオでは小説の主人公であるルロット・ピラートと宮廷で出会い切ない恋に落ちるんだ。
で、クートは婚約者を取られプライドが傷ついたからルロットを殺そうとして、実は隣国の王様だった彼にそのまま罪を問われて生涯幽閉される。
何で一国の王が身分を隠して他国の宮廷に来たかって?
知るかよBLはファンタジーなんだから。
そんな細かいことはどーだっていい。
大事なのはセブルロがたいそう尊くてシコい最高なカプだってことだけだ。二人の恋愛模様を完璧に表現している『宮廷の秘密』は俺にとって至高の名作だ。
更に、原作小説はエッチシーンもとても濃厚でエッチだ。
頭がパーンなるくらいはわわな恋愛とねっちりしたエロがあれば、BLに緻密なディテールなど俺は問わない。
とにかく、ルロットが過去にレイプされたトラウマがセブの愛で癒えてく描写が極上で……。
……………。
え、今日って、クートが12歳の年の花撒き祭りの日?
ルロットが叔母さんの屋敷を抜け出して向かった祭りでガラの悪い男共に拉致されてレイプされる日じゃね?
ルロたん、将来は王様になるけど子供の時はちょっとお家騒動で微妙な立場だったから、肩身が狭くてしばらくこの国に嫁いだ叔母の所に身を寄せてたんだよな。
「ばあや!お、僕、セブにお礼言って来る!」
俺は跳ね起きて寝巻きのままで台所に向かい、目についたフライパンを引っ掴んでゲストルームに走った。
「セブさまっ、セブ!」
バーンと扉を開けたら、ソファに座って本を読んでたセブがビクっとしてこちらを見た。
美少年だなぁ。
前世を思い出した今、視界に映る人には尊みしか感じない。
艶々のブルネットの髪に深い緑の瞳は、飽きるほど見つめた表紙絵のままだ。
顔立ちは絵画の天使みたいに整ってるし、子供ながらスタイルも抜群とか死にそう。
はぁ、来世でセブ様のショタVer.ボーナスカラーイラストが拝めるなんて俺はどれだけ徳を積んだんだ。
全く心当たりはない。
物語のクートもプライドが邪魔して素直になれないだけで、セブの事は好きだったように描写されていたし、この惚れ惚れする気持ちは前世の俺と現世のクートの総意だろう。
「お前起きたのか。やっと帰れる。お前の乳母が引き留めてきてウザすぎたぞ。首にしとけ。」
「花撒き祭りに行こう!」
俺がセブの悪態を無視して言うと、セブは眉間に皺を寄せた。
「はぁ?何でお前なんかと……。あとなんでフライパン持ってんだ。」
「今日絶対行きたいんだ!セブと!一生のお願い!!」
俺はフライパンを握りしめて懇願した。
しばらく無言のセブを見やると、しかめ面で頬を赤くしている。
怒られるかな。
「い、いい……けど。そんなに言うなら行ってやるよ。……え、寝巻きで?フライパン持って?」
「このままでいい!早く二人で行きたい!護衛も時間かかるからいらない!」
怪訝そうなセブをグイグイ引っ張って急かす。
早くしないと、ルロットが襲われちゃう。それが物語の大事なシナリオだとは分かってるけど、自分の推しが酷い目に遭うって知ってて見過ごせるわけがない。
「ちっ……そんなに急ぐなら、早駆けで行くか?」
「ありがとう!セブ乗馬上手いもんね!」
「ま、まあな。クートには無理だろ。」
「うん!俺はあんまり上手くないから乗せてくれたら嬉しい!ありがとう!」
ちょっと性格は俺様で難ありだけど、セブはBLの攻めだけあってスペックは無茶苦茶高い。
そこがいい。ツンケンしたイケメンが受けにメロメロになるのとかなんぼあっても良いですからね。
「……んだよ、調子狂う。」
顰めっ面のセブと厩舎に向かい、裏口から屋敷を抜け出して祭りが催されている市街まで走った。
早駆けの馬の背中がガクガクゆれるので、フライパンを胸に抱え必死にセブにしがみつきながら、何度も読み返した小説内の描写を思い出す。
確か、メイン通りにあった黄色と赤の縞模様をしたテント屋根の出店で、ルロットは叔母さんへのお土産に白い薔薇の花束を買ったんだ。
その直後、ガラの悪い男共に近くの暗い路地裏に連れ込まれ、そこに入り口のあった空き家で陵辱されてしまう。
花を買った時間は確か、四時半の教会の鐘が鳴った後だ。
だから馬の足ならまだギリギリ間に合う時間だろう。
幸いクートの記憶のおかげで街中には土地勘があるから、メイン通りにある花屋の出店を探すのにそんなに時間はかからないはずだ。
街中にさしかかり、セブの馬が足を止めた隙に飛び降りた。
「はぁ?おい、クート……」
「ごめん!ちょっとここで馬に乗ったまま待ってて!」
「はぁ!?」
「絶対だよ!!」
そう叫んで、メイン通りを目指して走る。
何も知らないセブを危ない救出作戦に巻き込む事は出来ない。
助けてもらうために官警に駆け込もうか?と走りながら考えた所で4時半の鐘が鳴った。
駄目だ。今から憲兵を説得していたんじゃきっと間に合わない。
つまり、やっぱ俺が一人で現場に殴り込んでルロットを助けるしかない。
ぎゅっとフライパンを握りしめた。
あった。黄色と赤の縞模様のテントだ!
「ねえ!さっき銀髪ですみれの瞳の子供が白薔薇の花束を買わなかった!?」
屋台のおじさんに叫ぶように尋ねる。
「ん?来たよ。綺麗な子だったね。友達かい?」
「どっち!どっち行った!?」
「え、あっちだけ……」
「ありがと!」
最後まで聞かず指された方向に走る。
すると、少し走ったところの人ごみの隙間に薔薇の花束が落ちていた。
その近くの暗い路地に飛び込めば、傷んだ木製ドアが薄暗い中に見えた。
そこに全速力で走り、飛び込む勢いで全力で肩で体当たりする。
ドン!と衝撃はあったけど、不思議と痛みは感じなかった。
錆びた錠が壊れ、扉が勢いよく開く。
「わっ!」
ならず者の誰かの声がしたけど、脇目も振らずに奥に見えたベッドに駆け寄る。
感覚が研ぎ澄まされて、全てがスローモーションに見えた。
見張り役の男たちが突然の事に立ち尽くしているのを視界の端に捉えながら、ベッドで何かにのしかかる男に飛びかかり思いっきり頭の横をフライパンで薙ぎ払った。
ゴッと鈍い音がして、薙ぎ倒された勢いで男がベッドから崩れ落ちる。
その先に気を失って倒れている幼いルロットが見えて、フライパンを放り出してその軽い体を一気に背負い込んだ。
火事場の馬鹿力ってやつかもしれない。
クートの能力は平凡でフィジカルは平均的な少年程度しかないはずだから。
俺はルロットを背負いながらもスローモーションで迫ってくる仲間のならずもの達の間をすり抜け、伸びてくる腕を間一髪で交わし続けて部屋から飛び出しそのままメイン通りに辿り着けた。
そこからは必死で、人混みを縫いながらひた走る。
男たちが追って来てるかもわからなかった。
けど、振り返ったら追いつかれる気がした。
走って走って、どうにかセブと別れた場所まで走ったらセブは律儀に乗馬したまま待っていた。
まじか。俺の言う事聞くとか。
いや、違うな。きっとルロットというセブの未来の最愛の相手がいるから、奇跡が起きてるんだ。
やっぱりセブルロしか勝たん。
一瞬でそこまで考えながら、目を見張ってこちらを見るセブに最後の力で走り寄り、ぐったりしているルロットを抱き上げて差し出した。
「ほら、受け取って!」
「は?」
「いいから!」
状況が理解できないまま、俺の剣幕に押されてセブがルロットを馬上に引き上げる。
「早く行って!」
とにかく、いつならず者がここまで来るかわからないし二人を逃さねば。
「いや、お前は……」
「いいから!大切な人なんだよ!!絶対セブが守って!」
そう、この子は君の大切な人なんだよセブ。今はまだ分からないだろうけど。
俺が言えば、セブは口を引き結んで来た方向に馬を走らせた。
曲がり角に入り、姿が見えなくなる。
とりあえず、あのまま俺の屋敷まで行けば安全なんじゃないか。
ルロットが連れ去られてから間もなかったし、乗っていた男にもルロットにも着衣の乱れはなかったはずだ。きっとレイプは未遂だろう。
少し安心したら、一気に頭がくらくらしてくる。
本来の体力以上に体を動かしたせいで酸欠を起こしてるのかもしれない。
祭りが丁度佳境でメインエリアに人が集中しているからか、はずれた場所にあるここは周りに人気もなく助けを求めることもできそうになかった。
意識がぼうっとし始めたところで、乱暴に腕を掴まれて引っ張られた。
ふらつきながら振り返ると、ならず者の一人が顔を歪めてこちらを見ている。
「てめぇ、舐めた真似しやがって。」
ガッと頬を殴られて膝から崩れ落ちる。
覆い被さられてさらなる追撃をされそうになった時に、何か大きな塊が男にぶつかり男は弾き飛ばされた。
運悪く飛んだ先に煉瓦の壁があり、男は頭をぶつけたようで呻きながら疼くまる。
「クート、立て!逃げるぞ!」
セブの姿が視界に入り、腕を掴まれて引き起こされた。
飛び込んで来た塊はセブだったのか。
どうにか歩き、セブに導かれて辿り着いた馬に跨る。
素早く馬を走らせその場は逃れることが出来た。
「せ、ぶ……あの子は……?」
姿が見えなかったので、頬の痛みに耐えながら尋ねる。
「は?知らないやつだし、戻ってくる時置いて来た。」
「ばっ!そこに行くぞ!お前、かけがえのない人に何てことを!」
セブの言葉に一気に頭に血が巡り叫んだ。知らないからって適当なことして!後になって後悔するのはお前だぞ!
「……お前なんなの?」
「俺は何でもいいから!頼む、一生のお願い!あの子のとこに戻って!」
「……ちっ」
セブ自身も運命を感じ始めてるのか、彼は普段は聞かない俺の言葉に大人しく従ってルロットを放置した茂みに戻り、まだ目覚めない美少年を馬に乗せて抱えた。
美少年のセブとルロットのツーショットイラストに大変に満足した俺は、屋敷に帰る途中セブにしがみつきながら疲労と安心で意識を失ったのだった。
上質なシーツが敷かれたベッドの中で、前世の記憶やら今の自分の人生やらがたんこぶでズキズキする頭を駆け巡る。
この展開、信じられないような、このうえなく知ってるような。
こんな話を、無料の小説投稿サイトで腐るほど読んだ。
俺は腐男子の読み専だったから腐ってるのは自分なんだけど。
前世の記憶はあるけど、今世の記憶も消えていない。
今の俺は小説の中で主人公の敵役になる、クート・シンハー伯爵令息だ。
今は12歳。
小説の時間軸では19歳だから、7年後に俺は生涯幽閉の憂き目に遭うはずだ。
「ぼっちゃま、目が覚めたのですね!1日寝てらしたんですよ。お身体はいかがですか?」
乳母のユリアが部屋に入ってきて目を丸くした。
「ああ、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫。」
俺の言葉に、ユリアが驚愕の表情を見せた後に涙ぐんだ。
「ぼっちゃま、頭を打っていい子になられたのですか?ばあやはこんな日がきっと来ると信じておりました。」
そうだった。クートは高飛車で高慢ちきな嫌な奴なんだった。でも、俺そんな態度取るの嫌だな。ストレスやばそう。
「セブ様も、たいそう心配されてお帰りにならずにぼっちゃまの回復を待ってらっしゃるんですよ。もしぼっちゃまが頭をぶつけずお元気だったら二人で花撒き祭りに行ってこれましたのに。」
セブ・シュナイダー第3王子は俺の婚約者だ。男同士でも結婚する。ここはBL小説の世界だから。
でも、仲は決して良くない。むしろどちゃどちゃに悪い。
俺が頭を打って倒れたのだって、定例の顔見せに渋々来たセブとささいな喧嘩になり、逆上した俺が飼い犬をセブにけしかけようとして逆襲に遭ったからだ。
まさか懐に忍ばせたハムを俺に向かって投げるなんて。
まあ前世を思い出した今となっては、セブ様は大好きな小説の推しカプの片割れ。最高の攻めだけどね。
彼は、シナリオでは小説の主人公であるルロット・ピラートと宮廷で出会い切ない恋に落ちるんだ。
で、クートは婚約者を取られプライドが傷ついたからルロットを殺そうとして、実は隣国の王様だった彼にそのまま罪を問われて生涯幽閉される。
何で一国の王が身分を隠して他国の宮廷に来たかって?
知るかよBLはファンタジーなんだから。
そんな細かいことはどーだっていい。
大事なのはセブルロがたいそう尊くてシコい最高なカプだってことだけだ。二人の恋愛模様を完璧に表現している『宮廷の秘密』は俺にとって至高の名作だ。
更に、原作小説はエッチシーンもとても濃厚でエッチだ。
頭がパーンなるくらいはわわな恋愛とねっちりしたエロがあれば、BLに緻密なディテールなど俺は問わない。
とにかく、ルロットが過去にレイプされたトラウマがセブの愛で癒えてく描写が極上で……。
……………。
え、今日って、クートが12歳の年の花撒き祭りの日?
ルロットが叔母さんの屋敷を抜け出して向かった祭りでガラの悪い男共に拉致されてレイプされる日じゃね?
ルロたん、将来は王様になるけど子供の時はちょっとお家騒動で微妙な立場だったから、肩身が狭くてしばらくこの国に嫁いだ叔母の所に身を寄せてたんだよな。
「ばあや!お、僕、セブにお礼言って来る!」
俺は跳ね起きて寝巻きのままで台所に向かい、目についたフライパンを引っ掴んでゲストルームに走った。
「セブさまっ、セブ!」
バーンと扉を開けたら、ソファに座って本を読んでたセブがビクっとしてこちらを見た。
美少年だなぁ。
前世を思い出した今、視界に映る人には尊みしか感じない。
艶々のブルネットの髪に深い緑の瞳は、飽きるほど見つめた表紙絵のままだ。
顔立ちは絵画の天使みたいに整ってるし、子供ながらスタイルも抜群とか死にそう。
はぁ、来世でセブ様のショタVer.ボーナスカラーイラストが拝めるなんて俺はどれだけ徳を積んだんだ。
全く心当たりはない。
物語のクートもプライドが邪魔して素直になれないだけで、セブの事は好きだったように描写されていたし、この惚れ惚れする気持ちは前世の俺と現世のクートの総意だろう。
「お前起きたのか。やっと帰れる。お前の乳母が引き留めてきてウザすぎたぞ。首にしとけ。」
「花撒き祭りに行こう!」
俺がセブの悪態を無視して言うと、セブは眉間に皺を寄せた。
「はぁ?何でお前なんかと……。あとなんでフライパン持ってんだ。」
「今日絶対行きたいんだ!セブと!一生のお願い!!」
俺はフライパンを握りしめて懇願した。
しばらく無言のセブを見やると、しかめ面で頬を赤くしている。
怒られるかな。
「い、いい……けど。そんなに言うなら行ってやるよ。……え、寝巻きで?フライパン持って?」
「このままでいい!早く二人で行きたい!護衛も時間かかるからいらない!」
怪訝そうなセブをグイグイ引っ張って急かす。
早くしないと、ルロットが襲われちゃう。それが物語の大事なシナリオだとは分かってるけど、自分の推しが酷い目に遭うって知ってて見過ごせるわけがない。
「ちっ……そんなに急ぐなら、早駆けで行くか?」
「ありがとう!セブ乗馬上手いもんね!」
「ま、まあな。クートには無理だろ。」
「うん!俺はあんまり上手くないから乗せてくれたら嬉しい!ありがとう!」
ちょっと性格は俺様で難ありだけど、セブはBLの攻めだけあってスペックは無茶苦茶高い。
そこがいい。ツンケンしたイケメンが受けにメロメロになるのとかなんぼあっても良いですからね。
「……んだよ、調子狂う。」
顰めっ面のセブと厩舎に向かい、裏口から屋敷を抜け出して祭りが催されている市街まで走った。
早駆けの馬の背中がガクガクゆれるので、フライパンを胸に抱え必死にセブにしがみつきながら、何度も読み返した小説内の描写を思い出す。
確か、メイン通りにあった黄色と赤の縞模様をしたテント屋根の出店で、ルロットは叔母さんへのお土産に白い薔薇の花束を買ったんだ。
その直後、ガラの悪い男共に近くの暗い路地裏に連れ込まれ、そこに入り口のあった空き家で陵辱されてしまう。
花を買った時間は確か、四時半の教会の鐘が鳴った後だ。
だから馬の足ならまだギリギリ間に合う時間だろう。
幸いクートの記憶のおかげで街中には土地勘があるから、メイン通りにある花屋の出店を探すのにそんなに時間はかからないはずだ。
街中にさしかかり、セブの馬が足を止めた隙に飛び降りた。
「はぁ?おい、クート……」
「ごめん!ちょっとここで馬に乗ったまま待ってて!」
「はぁ!?」
「絶対だよ!!」
そう叫んで、メイン通りを目指して走る。
何も知らないセブを危ない救出作戦に巻き込む事は出来ない。
助けてもらうために官警に駆け込もうか?と走りながら考えた所で4時半の鐘が鳴った。
駄目だ。今から憲兵を説得していたんじゃきっと間に合わない。
つまり、やっぱ俺が一人で現場に殴り込んでルロットを助けるしかない。
ぎゅっとフライパンを握りしめた。
あった。黄色と赤の縞模様のテントだ!
「ねえ!さっき銀髪ですみれの瞳の子供が白薔薇の花束を買わなかった!?」
屋台のおじさんに叫ぶように尋ねる。
「ん?来たよ。綺麗な子だったね。友達かい?」
「どっち!どっち行った!?」
「え、あっちだけ……」
「ありがと!」
最後まで聞かず指された方向に走る。
すると、少し走ったところの人ごみの隙間に薔薇の花束が落ちていた。
その近くの暗い路地に飛び込めば、傷んだ木製ドアが薄暗い中に見えた。
そこに全速力で走り、飛び込む勢いで全力で肩で体当たりする。
ドン!と衝撃はあったけど、不思議と痛みは感じなかった。
錆びた錠が壊れ、扉が勢いよく開く。
「わっ!」
ならず者の誰かの声がしたけど、脇目も振らずに奥に見えたベッドに駆け寄る。
感覚が研ぎ澄まされて、全てがスローモーションに見えた。
見張り役の男たちが突然の事に立ち尽くしているのを視界の端に捉えながら、ベッドで何かにのしかかる男に飛びかかり思いっきり頭の横をフライパンで薙ぎ払った。
ゴッと鈍い音がして、薙ぎ倒された勢いで男がベッドから崩れ落ちる。
その先に気を失って倒れている幼いルロットが見えて、フライパンを放り出してその軽い体を一気に背負い込んだ。
火事場の馬鹿力ってやつかもしれない。
クートの能力は平凡でフィジカルは平均的な少年程度しかないはずだから。
俺はルロットを背負いながらもスローモーションで迫ってくる仲間のならずもの達の間をすり抜け、伸びてくる腕を間一髪で交わし続けて部屋から飛び出しそのままメイン通りに辿り着けた。
そこからは必死で、人混みを縫いながらひた走る。
男たちが追って来てるかもわからなかった。
けど、振り返ったら追いつかれる気がした。
走って走って、どうにかセブと別れた場所まで走ったらセブは律儀に乗馬したまま待っていた。
まじか。俺の言う事聞くとか。
いや、違うな。きっとルロットというセブの未来の最愛の相手がいるから、奇跡が起きてるんだ。
やっぱりセブルロしか勝たん。
一瞬でそこまで考えながら、目を見張ってこちらを見るセブに最後の力で走り寄り、ぐったりしているルロットを抱き上げて差し出した。
「ほら、受け取って!」
「は?」
「いいから!」
状況が理解できないまま、俺の剣幕に押されてセブがルロットを馬上に引き上げる。
「早く行って!」
とにかく、いつならず者がここまで来るかわからないし二人を逃さねば。
「いや、お前は……」
「いいから!大切な人なんだよ!!絶対セブが守って!」
そう、この子は君の大切な人なんだよセブ。今はまだ分からないだろうけど。
俺が言えば、セブは口を引き結んで来た方向に馬を走らせた。
曲がり角に入り、姿が見えなくなる。
とりあえず、あのまま俺の屋敷まで行けば安全なんじゃないか。
ルロットが連れ去られてから間もなかったし、乗っていた男にもルロットにも着衣の乱れはなかったはずだ。きっとレイプは未遂だろう。
少し安心したら、一気に頭がくらくらしてくる。
本来の体力以上に体を動かしたせいで酸欠を起こしてるのかもしれない。
祭りが丁度佳境でメインエリアに人が集中しているからか、はずれた場所にあるここは周りに人気もなく助けを求めることもできそうになかった。
意識がぼうっとし始めたところで、乱暴に腕を掴まれて引っ張られた。
ふらつきながら振り返ると、ならず者の一人が顔を歪めてこちらを見ている。
「てめぇ、舐めた真似しやがって。」
ガッと頬を殴られて膝から崩れ落ちる。
覆い被さられてさらなる追撃をされそうになった時に、何か大きな塊が男にぶつかり男は弾き飛ばされた。
運悪く飛んだ先に煉瓦の壁があり、男は頭をぶつけたようで呻きながら疼くまる。
「クート、立て!逃げるぞ!」
セブの姿が視界に入り、腕を掴まれて引き起こされた。
飛び込んで来た塊はセブだったのか。
どうにか歩き、セブに導かれて辿り着いた馬に跨る。
素早く馬を走らせその場は逃れることが出来た。
「せ、ぶ……あの子は……?」
姿が見えなかったので、頬の痛みに耐えながら尋ねる。
「は?知らないやつだし、戻ってくる時置いて来た。」
「ばっ!そこに行くぞ!お前、かけがえのない人に何てことを!」
セブの言葉に一気に頭に血が巡り叫んだ。知らないからって適当なことして!後になって後悔するのはお前だぞ!
「……お前なんなの?」
「俺は何でもいいから!頼む、一生のお願い!あの子のとこに戻って!」
「……ちっ」
セブ自身も運命を感じ始めてるのか、彼は普段は聞かない俺の言葉に大人しく従ってルロットを放置した茂みに戻り、まだ目覚めない美少年を馬に乗せて抱えた。
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