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第2章 入学前編
4 アッシュタール
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誰か冗談だって言ってくれ。
絶対反対すると思っていた公爵があっさり旅行を認めたのは100歩譲ってあるとしよう。
調子に乗ったユーリスが、せっかくだから旅行に持っていく持ち物や衣類一式を全てオーダーメイドで新調すると言い出して俺の仕事がバカみたいに増えたのもわかる。でもふざけんな。
けどそれ以上に、どうして手配した馬車が車寄せの隅っこでオロオロしていてエントランスの真ん前には公爵とアッシュタール号がいるんだ?
「二人とも乗れ。ルコ、荷物は鞍の1番後ろに金具があるからそこに固定しなさい。ノスの籠もだ。」
ユーリスが軽い足取りで葦毛の巨体に近寄ると、アッシュタールがスッと身をかがめた。
そのまま位置が低くなった背中の真ん中によじ登っていく。
下男が旅行鞄やノスニキの入った籠を荷台に括りつけた。
「旦那様、恐れながら、これはどういうことでございましょうか。」
「紫紺の森にある別邸に行くのだろう?私が連れていく。何だユーリス、話していなかったのか?」
「忘れてた。」
ほう!れん!!そう!!!
「ルコ、早く乗れよ!父上も。早く行こう?」
「あの、私は馬車で参ります。恐れ多くも私がアッシュタール様に乗るなど……」
「こいつと馬車では速さが違いすぎる。馬車だとどれくらいかかる予定だ。」
「8時間ほどかと。」
「こいつなら1時間かからない。」
「しかし……」
「ルコが来るのに8時間もかかったら僕のお昼ご飯は?」
うるさい。
「何だ、私のアッシュに乗るのは嫌か?」
公爵が片眉をあげて聞いてくる。
「まさか……」
ブルっとアッシュタールが鼻を鳴らしてこちらを見た。初めて会った頃にはなかった、美しい金色のツノが眉間に生えている。
重厚な体、しなやかに仕上がった筋肉。
ファンタジーゲームをやり倒したゲーマーの中に、こんなかっこいいユニコーンに乗りたくない奴がいるか?
いや、いるわけない。
雇った御者に詫びて予定代金全額を支払い、俺はアッシュタールの背中に恐る恐る乗った。その巨大な体躯は男が3人乗ってもビクともしない。
「鞍は今回新調したやつだからまだ硬いかもしれんが、我慢しろ。」
なるほど、この3人乗りの鞍は今回作ったのか……わ、わざわざ?
「他の馬具も新しいやつだろ?」
「まあ、せっかくだからな。」
お、親子……
「動くぞ、落ちるな。」
そう言われてユーリスが先頭の公爵の腰に手を回す。
俺は、
俺は……
「ほら、ルコ、僕に掴まって。」
目の前にはユーリスの背中。
仕方がないのでアッシュタールに乗る時より慎重に腕を目の前の体に回す。
ユーリスから抱きつかれたり引っ付かれたりして仕事の邪魔をされる事はしょっちゅうだけど、自分から抱きついたことはほぼない。
あの時以来だ。会ったばっかりのころの……いや、その事は考えるな。
へそあたりの高さに回した腕を少し高い位置にあげた。
腕を下げると更に下にあるものを意識してしまいそうになるから。
小さくて後ろからすっぽり包めた背中が、今は俺より少し広いんじゃないかって思うくらい。
あーもうだから、考えるなって。
「ね、ルコ、腕もうちょっと上。」
「はい。」
この位置は嫌だったかと更に腕を上にずらす。
「これでよろしいですか?」
「うーん……もうちょっとかな。耳貸して。」
「?」
言葉の続きを聞くために、身を乗り出して耳をユーリスに寄せる。
「ちゃんと乳首触って?」
耳に吹きかけるように小さく囁かれた。
はぁ?
とガチトーンで返す前にクンっと慣性が体を後ろに引っ張る感覚がする。
倒れそうになって慌てて緩んでた腕に力を込めた。
アッシュタールのスピードはぐんぐん上がって、街道に出る頃には近くの景色が目で追えないほどになる。
この景色の流れ方、すごく懐かしい。
高速道路で走ってる時みたいだ。
自動車よりは揺れるけど、まるで車内にいるみたいに逆風を感じない。
不思議に思って首を伸ばして前をみると、新幹線の先頭みたいな流線型のシールドがアッシュタールを覆っていた。
凄いな。スピードを出すための最適な技を身につけてる。
ゲームでは、この技は一切出てこなかった。
この世界はまるきりゲームの通りじゃない。きっと守護獣のことも、ゲームをやり込んだ俺でも知らないことがまだまだあると思う。
そして、今はもっとそれが知りたいって、思い始めてる。
そのためにはここでずっと働いてるわけにはいかない。
絶対反対すると思っていた公爵があっさり旅行を認めたのは100歩譲ってあるとしよう。
調子に乗ったユーリスが、せっかくだから旅行に持っていく持ち物や衣類一式を全てオーダーメイドで新調すると言い出して俺の仕事がバカみたいに増えたのもわかる。でもふざけんな。
けどそれ以上に、どうして手配した馬車が車寄せの隅っこでオロオロしていてエントランスの真ん前には公爵とアッシュタール号がいるんだ?
「二人とも乗れ。ルコ、荷物は鞍の1番後ろに金具があるからそこに固定しなさい。ノスの籠もだ。」
ユーリスが軽い足取りで葦毛の巨体に近寄ると、アッシュタールがスッと身をかがめた。
そのまま位置が低くなった背中の真ん中によじ登っていく。
下男が旅行鞄やノスニキの入った籠を荷台に括りつけた。
「旦那様、恐れながら、これはどういうことでございましょうか。」
「紫紺の森にある別邸に行くのだろう?私が連れていく。何だユーリス、話していなかったのか?」
「忘れてた。」
ほう!れん!!そう!!!
「ルコ、早く乗れよ!父上も。早く行こう?」
「あの、私は馬車で参ります。恐れ多くも私がアッシュタール様に乗るなど……」
「こいつと馬車では速さが違いすぎる。馬車だとどれくらいかかる予定だ。」
「8時間ほどかと。」
「こいつなら1時間かからない。」
「しかし……」
「ルコが来るのに8時間もかかったら僕のお昼ご飯は?」
うるさい。
「何だ、私のアッシュに乗るのは嫌か?」
公爵が片眉をあげて聞いてくる。
「まさか……」
ブルっとアッシュタールが鼻を鳴らしてこちらを見た。初めて会った頃にはなかった、美しい金色のツノが眉間に生えている。
重厚な体、しなやかに仕上がった筋肉。
ファンタジーゲームをやり倒したゲーマーの中に、こんなかっこいいユニコーンに乗りたくない奴がいるか?
いや、いるわけない。
雇った御者に詫びて予定代金全額を支払い、俺はアッシュタールの背中に恐る恐る乗った。その巨大な体躯は男が3人乗ってもビクともしない。
「鞍は今回新調したやつだからまだ硬いかもしれんが、我慢しろ。」
なるほど、この3人乗りの鞍は今回作ったのか……わ、わざわざ?
「他の馬具も新しいやつだろ?」
「まあ、せっかくだからな。」
お、親子……
「動くぞ、落ちるな。」
そう言われてユーリスが先頭の公爵の腰に手を回す。
俺は、
俺は……
「ほら、ルコ、僕に掴まって。」
目の前にはユーリスの背中。
仕方がないのでアッシュタールに乗る時より慎重に腕を目の前の体に回す。
ユーリスから抱きつかれたり引っ付かれたりして仕事の邪魔をされる事はしょっちゅうだけど、自分から抱きついたことはほぼない。
あの時以来だ。会ったばっかりのころの……いや、その事は考えるな。
へそあたりの高さに回した腕を少し高い位置にあげた。
腕を下げると更に下にあるものを意識してしまいそうになるから。
小さくて後ろからすっぽり包めた背中が、今は俺より少し広いんじゃないかって思うくらい。
あーもうだから、考えるなって。
「ね、ルコ、腕もうちょっと上。」
「はい。」
この位置は嫌だったかと更に腕を上にずらす。
「これでよろしいですか?」
「うーん……もうちょっとかな。耳貸して。」
「?」
言葉の続きを聞くために、身を乗り出して耳をユーリスに寄せる。
「ちゃんと乳首触って?」
耳に吹きかけるように小さく囁かれた。
はぁ?
とガチトーンで返す前にクンっと慣性が体を後ろに引っ張る感覚がする。
倒れそうになって慌てて緩んでた腕に力を込めた。
アッシュタールのスピードはぐんぐん上がって、街道に出る頃には近くの景色が目で追えないほどになる。
この景色の流れ方、すごく懐かしい。
高速道路で走ってる時みたいだ。
自動車よりは揺れるけど、まるで車内にいるみたいに逆風を感じない。
不思議に思って首を伸ばして前をみると、新幹線の先頭みたいな流線型のシールドがアッシュタールを覆っていた。
凄いな。スピードを出すための最適な技を身につけてる。
ゲームでは、この技は一切出てこなかった。
この世界はまるきりゲームの通りじゃない。きっと守護獣のことも、ゲームをやり込んだ俺でも知らないことがまだまだあると思う。
そして、今はもっとそれが知りたいって、思い始めてる。
そのためにはここでずっと働いてるわけにはいかない。
32
↓めちゃくちゃ世話になっている
B L ♂ U N I O N
B L ♂ U N I O N
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