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第2章 入学前編
2 執事の仕事
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俺の歳にしては異例のことらしいが、今の俺はユーリス専属の執事をしている。
家全体の財産管理とかの重要な仕事はスチュワードがやるので、俺の仕事は主にユーリスの世話や持ち物の管理だ。
使用人仲間はみんなよかったと褒めてくれるけど、その頭には「ドラ息子の面倒を引き受けてくれて」と付く。絶対に。
この仕事は相変わらずブラックだ。まず何よりユーリスのワガママに振り回される。朝は早いし夜は遅い。休暇願いは全部却下される。奴に。
ただ、6年経って屋敷の雰囲気はだいぶ良くなった。来たばかりの頃の怯えた様子は使用人達の間に無い。
公爵は相変わらず仕事に厳しいが、態度がだいぶ丸くなったからだ。それは多分ユーリスが父親とあの頃より仲良くやれているからだろう。
そうしたこともあって、周囲のユーリスに対する迷惑な子供を見る目はいつしかおバカなペットを見守るような生暖かいものになった。
外野から見てる分には微笑ましいらしいそのペットの世話係に放り込まれたのが俺、と。
けどそれもあと少しの話。
秋になればユーリスが全寮制の王立学園に入学する。
そして来年の春には主人公が転校してきてゲームの開始地点に世界が追いつくんじゃないだろうか。
ゲームではルコなんて執事は出てこなかった。
つまりユーリスが入学すれば、俺は当面専属執事の役目から解放されるはずだ。
その日が待ち遠しすぎる。
本当に。
いつものように2時間ほど雑務をこなし、用意しておいた衣服を持って自室に戻った。
ノスニキの姿はないが、まだベッドがこんもりしているのでユーリスは寝てるようだ。
「ユーリス様。そろそろ起きてください。お召し替えお持ちしましたよ。」
近づくと独特の匂いが鼻に付く。ベッドサイドを見るとクシャクシャになった俺のハンカチが2枚落ちていた。
この野郎またやりやがった。
しかも今日は二回も。
無言で窓を開けて空気を入れ替える。足元のちょっと重みを感じる布をつまみあげて部屋の隅に置いた洗い物カゴに放った。
ユーリスの性癖が少しおかしいのは6年前からわかっていたが、どうして人の部屋でこうも頻繁にマスをかくのか。人としてどうかと思う。そのハンカチを洗って使い、ベッドで寝る俺の身になってくれ。
同じこと、女性に出来ますか?
頼むから俺に対しても同等の羞恥を感じて欲しい。
本当にブラックすぎる。
バリッと布団を剥いで寝こけている顔を見下ろす。スッキリした顔してるのよけい腹立つんだけど。
16歳になってますます美形に磨きがかかってるけど、人の部屋で勝手にオナってザーメンついたハンカチ床に散らかしたヤツの顔なこと俺は忘れない。
躊躇いなく形のいい鼻をつまんで綺麗な薄紅の口を手のひらで塞いだ。
「…………っぷはぁっ!」
しばらく抑えていると顔が青ざめてきて、目覚めた頃合いで手を離した。
「な……何か息苦しい……」
「うつ伏せで寝ていましたよ。」
そう言うと軽く上体を起こした自分の体をユーリスが見下ろす。
「……本当?」
「はい。」
「そっか。」
はいおバカ。
ちゃっちゃと着替えさせてユーリスの部屋に連れて行き、洗面と整髪をする。手配していた朝食が届けられたので配膳してメインディッシュに被せられたクロッシュを外した。ナプキンを首に掛けてやればユーリスが祈りの言葉の後食事に手をつける。
食べている間は食後の紅茶を淹れる時間だ。
匂いにつられたのか、ノスニキが閉じた扉をするりと通り抜けて入ってきた。こちらに近寄ってちょこんと座るので、小皿にミルクを注いで前に置く。
下がった頭を軽く撫でていると、
「ルコ!僕もミルクおかわり!」
まだ十分入っていたはずのグラスを空にしてユーリスが要求してきた。
そちらにもミルクを注ぎにいく。
「今日はこの後地学の講義です。その後哲学と占星学の講義が続きます。」
食後の紅茶を飲んでる間に午前中の予定を伝える。
「ん。」
「昼食を召し上がったら、ノスガルデルタ様の訓練のため裏の林へ参りましょう。訓練メニューは考えていますか?」
「んールコと同じでいい。」
「ご自分で考えないと意味がないですよ。」
「だって、考えてもルコと同じだから。」
「どうしてわかるんですか。」
「分かるぞ。賭ける?」
「何をですか。」
「僕の案とルコの案、同じだったら僕のお願いを聞く。」
いっつもいっつもワガママ聞いてるんですがそれは……
「よろしいですよ。」
ソファに寝そべったノスニキがくあぁっとあくびをした。
家全体の財産管理とかの重要な仕事はスチュワードがやるので、俺の仕事は主にユーリスの世話や持ち物の管理だ。
使用人仲間はみんなよかったと褒めてくれるけど、その頭には「ドラ息子の面倒を引き受けてくれて」と付く。絶対に。
この仕事は相変わらずブラックだ。まず何よりユーリスのワガママに振り回される。朝は早いし夜は遅い。休暇願いは全部却下される。奴に。
ただ、6年経って屋敷の雰囲気はだいぶ良くなった。来たばかりの頃の怯えた様子は使用人達の間に無い。
公爵は相変わらず仕事に厳しいが、態度がだいぶ丸くなったからだ。それは多分ユーリスが父親とあの頃より仲良くやれているからだろう。
そうしたこともあって、周囲のユーリスに対する迷惑な子供を見る目はいつしかおバカなペットを見守るような生暖かいものになった。
外野から見てる分には微笑ましいらしいそのペットの世話係に放り込まれたのが俺、と。
けどそれもあと少しの話。
秋になればユーリスが全寮制の王立学園に入学する。
そして来年の春には主人公が転校してきてゲームの開始地点に世界が追いつくんじゃないだろうか。
ゲームではルコなんて執事は出てこなかった。
つまりユーリスが入学すれば、俺は当面専属執事の役目から解放されるはずだ。
その日が待ち遠しすぎる。
本当に。
いつものように2時間ほど雑務をこなし、用意しておいた衣服を持って自室に戻った。
ノスニキの姿はないが、まだベッドがこんもりしているのでユーリスは寝てるようだ。
「ユーリス様。そろそろ起きてください。お召し替えお持ちしましたよ。」
近づくと独特の匂いが鼻に付く。ベッドサイドを見るとクシャクシャになった俺のハンカチが2枚落ちていた。
この野郎またやりやがった。
しかも今日は二回も。
無言で窓を開けて空気を入れ替える。足元のちょっと重みを感じる布をつまみあげて部屋の隅に置いた洗い物カゴに放った。
ユーリスの性癖が少しおかしいのは6年前からわかっていたが、どうして人の部屋でこうも頻繁にマスをかくのか。人としてどうかと思う。そのハンカチを洗って使い、ベッドで寝る俺の身になってくれ。
同じこと、女性に出来ますか?
頼むから俺に対しても同等の羞恥を感じて欲しい。
本当にブラックすぎる。
バリッと布団を剥いで寝こけている顔を見下ろす。スッキリした顔してるのよけい腹立つんだけど。
16歳になってますます美形に磨きがかかってるけど、人の部屋で勝手にオナってザーメンついたハンカチ床に散らかしたヤツの顔なこと俺は忘れない。
躊躇いなく形のいい鼻をつまんで綺麗な薄紅の口を手のひらで塞いだ。
「…………っぷはぁっ!」
しばらく抑えていると顔が青ざめてきて、目覚めた頃合いで手を離した。
「な……何か息苦しい……」
「うつ伏せで寝ていましたよ。」
そう言うと軽く上体を起こした自分の体をユーリスが見下ろす。
「……本当?」
「はい。」
「そっか。」
はいおバカ。
ちゃっちゃと着替えさせてユーリスの部屋に連れて行き、洗面と整髪をする。手配していた朝食が届けられたので配膳してメインディッシュに被せられたクロッシュを外した。ナプキンを首に掛けてやればユーリスが祈りの言葉の後食事に手をつける。
食べている間は食後の紅茶を淹れる時間だ。
匂いにつられたのか、ノスニキが閉じた扉をするりと通り抜けて入ってきた。こちらに近寄ってちょこんと座るので、小皿にミルクを注いで前に置く。
下がった頭を軽く撫でていると、
「ルコ!僕もミルクおかわり!」
まだ十分入っていたはずのグラスを空にしてユーリスが要求してきた。
そちらにもミルクを注ぎにいく。
「今日はこの後地学の講義です。その後哲学と占星学の講義が続きます。」
食後の紅茶を飲んでる間に午前中の予定を伝える。
「ん。」
「昼食を召し上がったら、ノスガルデルタ様の訓練のため裏の林へ参りましょう。訓練メニューは考えていますか?」
「んールコと同じでいい。」
「ご自分で考えないと意味がないですよ。」
「だって、考えてもルコと同じだから。」
「どうしてわかるんですか。」
「分かるぞ。賭ける?」
「何をですか。」
「僕の案とルコの案、同じだったら僕のお願いを聞く。」
いっつもいっつもワガママ聞いてるんですがそれは……
「よろしいですよ。」
ソファに寝そべったノスニキがくあぁっとあくびをした。
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