上 下
9 / 65
第2章 入学前編

2 執事の仕事

しおりを挟む
俺の歳にしては異例のことらしいが、今の俺はユーリス専属の執事をしている。
家全体の財産管理とかの重要な仕事はスチュワードがやるので、俺の仕事は主にユーリスの世話や持ち物の管理だ。

使用人仲間はみんなよかったと褒めてくれるけど、その頭には「ドラ息子の面倒を引き受けてくれて」と付く。絶対に。

この仕事は相変わらずブラックだ。まず何よりユーリスのワガママに振り回される。朝は早いし夜は遅い。休暇願いは全部却下される。奴に。

ただ、6年経って屋敷の雰囲気はだいぶ良くなった。来たばかりの頃の怯えた様子は使用人達の間に無い。
公爵は相変わらず仕事に厳しいが、態度がだいぶ丸くなったからだ。それは多分ユーリスが父親とあの頃より仲良くやれているからだろう。

そうしたこともあって、周囲のユーリスに対する迷惑な子供を見る目はいつしかおバカなペットを見守るような生暖かいものになった。
外野から見てる分には微笑ましいらしいそのペットの世話係に放り込まれたのが俺、と。

けどそれもあと少しの話。
秋になればユーリスが全寮制の王立学園に入学する。
そして来年の春には主人公が転校してきてゲームの開始地点に世界が追いつくんじゃないだろうか。

ゲームではルコなんて執事は出てこなかった。
つまりユーリスが入学すれば、俺は当面専属執事の役目から解放されるはずだ。

その日が待ち遠しすぎる。
本当に。



いつものように2時間ほど雑務をこなし、用意しておいた衣服を持って自室に戻った。
ノスニキの姿はないが、まだベッドがこんもりしているのでユーリスは寝てるようだ。

「ユーリス様。そろそろ起きてください。お召し替えお持ちしましたよ。」

近づくと独特の匂いが鼻に付く。ベッドサイドを見るとクシャクシャになった俺のハンカチが2枚落ちていた。

この野郎またやりやがった。
しかも今日は二回も。

無言で窓を開けて空気を入れ替える。足元のちょっと重みを感じる布をつまみあげて部屋の隅に置いた洗い物カゴに放った。

ユーリスの性癖が少しおかしいのは6年前からわかっていたが、どうして人の部屋でこうも頻繁にマスをかくのか。人としてどうかと思う。そのハンカチを洗って使い、ベッドで寝る俺の身になってくれ。
同じこと、女性に出来ますか?
頼むから俺に対しても同等の羞恥を感じて欲しい。
本当にブラックすぎる。

バリッと布団を剥いで寝こけている顔を見下ろす。スッキリした顔してるのよけい腹立つんだけど。
16歳になってますます美形に磨きがかかってるけど、人の部屋で勝手にオナってザーメンついたハンカチ床に散らかしたヤツの顔なこと俺は忘れない。

躊躇いなく形のいい鼻をつまんで綺麗な薄紅の口を手のひらで塞いだ。

「…………っぷはぁっ!」

しばらく抑えていると顔が青ざめてきて、目覚めた頃合いで手を離した。

「な……何か息苦しい……」

「うつ伏せで寝ていましたよ。」

そう言うと軽く上体を起こした自分の体をユーリスが見下ろす。

「……本当?」

「はい。」

「そっか。」

はいおバカ。

ちゃっちゃと着替えさせてユーリスの部屋に連れて行き、洗面と整髪をする。手配していた朝食が届けられたので配膳してメインディッシュに被せられたクロッシュを外した。ナプキンを首に掛けてやればユーリスが祈りの言葉の後食事に手をつける。
食べている間は食後の紅茶を淹れる時間だ。

匂いにつられたのか、ノスニキが閉じた扉をするりと通り抜けて入ってきた。こちらに近寄ってちょこんと座るので、小皿にミルクを注いで前に置く。
下がった頭を軽く撫でていると、

「ルコ!僕もミルクおかわり!」

まだ十分入っていたはずのグラスを空にしてユーリスが要求してきた。
そちらにもミルクを注ぎにいく。

「今日はこの後地学の講義です。その後哲学と占星学の講義が続きます。」

食後の紅茶を飲んでる間に午前中の予定を伝える。

「ん。」

「昼食を召し上がったら、ノスガルデルタ様の訓練のため裏の林へ参りましょう。訓練メニューは考えていますか?」

「んールコと同じでいい。」

「ご自分で考えないと意味がないですよ。」

「だって、考えてもルコと同じだから。」

「どうしてわかるんですか。」

「分かるぞ。賭ける?」

「何をですか。」

「僕の案とルコの案、同じだったら僕のお願いを聞く。」

いっつもいっつもワガママ聞いてるんですがそれは……

「よろしいですよ。」

ソファに寝そべったノスニキがくあぁっとあくびをした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。 昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。 タイトルを変えてみました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

処理中です...