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しおりを挟む恥ずかしさに鼻の頭を掻きながら官舎に戻り、自分の作業机に座る。
ああ、ヘキ様にご挨拶もせず出てきてしまった。
心残りだったけど後悔しても仕方がないので机に溜まっていた帳簿を開いた。
私の担当は後宮の支出記録監査だ。次の桃の節句のため絹を何反買ったとか、お菓子はどこの菓子司から月餅を幾つとか、とっても平和な数字が並ぶ。
「あーあ。怠け者の袁耀がこんなに俸禄もらってるなんて嫌んなっちまうよな。」
さっきのことがたびたび頭によぎる中、セイ君の名前が聞こえてきてどきりとした。
声は同期の平白(へいはく)のものだ。
仲間内でも優秀で上司ともうまく付き合える出世頭。彼は軍費支出の記録監査役の1人なので、それで話題に上がったんだろう。
立ち上がってススっと平白に近づく。
ちょうど今日の担当が武人の禄高の帳簿であるらしく、それを見ての発言だったようだ。
「袁将軍が何だって?」
「お、霖潤、サボりから帰ってきたか?」
「サボりじゃなくて、次の資料が揃うまでの休憩だよ。」
「優秀なこった。」
「それより、袁将軍は怠け者なんかじゃないだろう?それに呼ぶ時は役職をつけなよ。いつも言ってるけど失礼じゃないか。」
セイ君が戦に出てないのは単に皇帝から出陣命令が出てないだけだ。
噂によると、武焔帝は西の斎州を平定したらいよいよ大敵である北方の凱古帝国との戦を始めるつもりで有力な将軍を温存してると聞いた。
だから、セイ君に限らず戦に出ていない名将は他にもいる。
「出た出た霖潤の袁耀贔屓が。あんな粗暴なのの何がいいんだか。精々襲われないようにな。」
「袁将軍は粗暴じゃない。」
「そうか?最近宦官が襲われたり殴られたりしてるって聞いてるぞ。あと、皇帝の愛人とかその妹君の愛人とかって話も前したよな。あの顔で騙してジベト族のジジイも寝台で打ち取ったのかもな!」
平白の戯けた言い回しに周りの官吏も釣られてクスクス笑う。
ここにいる役人は都出身者が大半だから、辺境から来た異民族を軽んじてる空気が少なからずあって仲間ながら感じが悪い。
「何度も言ってるけどそんな根拠もない噂は言うのやめなよ。」
「へーい。それより霖潤、今日やるだろ?」
平白が目配せしながら盃を飲む仕草をする。
「もー仕方ないな。明日もあるからちょっとだけだよ。」
「じゃあ後で部屋行くな!」
平白が屈託のない顔で笑う。
彼は、私が初めてヘキ様のお姿を拝見して咽び泣いた時に隣にいた。
それから何故かちょいちょいセイ君の良くない噂話とかを教えてくれる。
普段はいい奴なんだけど、悪口みたいに聞こえるからやめろと言っても私の反応を面白がってるのか全然聞かない。
仕方がないなとため息を吐いて仕事に戻った。
—-
夜、少しの眩しさにふと意識が浮上する。
目を開ければ閉め忘れた明り取りの窓から、満月の光が差し込んでいていた。
体を起こそうとして何かがのしかかってるのに気付く。
見下ろせば熟睡している平白だった。
うんしょと力を込めてゴロリと彼を横に転がすと、袍の止め紐が全部解け肌着の合わせも開かれていて丸出しになった自分の上半身が目に入る。
平白め、またやったな……ぼんやりした頭で近くの水差しに手を伸ばして煽った。
味がおかしい。
って、これ水じゃなくて酒じゃん……
あー、また飲んじゃった……
平白のと酒盛りはいつもタガが外れたように2人で飲んで泥酔してしまう。
そして平白は酔うと人の乳首を吸う難癖があり、今日も私が寝入った後にやられた様だ。
ったく。よだれ洗ってこよ……。水も飲みたいし。
フラフラしながら外の井戸に向かった。
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