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しおりを挟むトキノは案の定レジャーシートまで持参していたので、グラウンド脇の芝生で丁度いい木陰を陣取り昼食を食べる。
頬張った卵サンドはトロトロで塩加減も絶妙だったが、アカオは学食の個性のない業務用カレーの味を思い浮かべた。
「おいしい。いつも作ってくれてありがとな。」
頼んでないけどな、と内心思いながら笑顔で告げる。
「俺が勝手に作ってるだけだから。」
それ。ほんとそれ。
深く同意したが、アカオは決して口に出さない。
「でも、研究で忙しい中作ってくれてるだろ?助かってるよ。」
ずっと研究してろばーか。
「うん。兄さんがそう思ってるなら良かった。」
思ってませーん!
「で、家の話って?」
「あ、今日の夕飯、何がいい?」
「え?それだけ?」
「うん。」
知ってた。
「あっはっは!そんなんメッセでいいじゃん。」
「あの人たちとご飯食べたくなくて。」
知ってた。
「もー、人見知りだな、トキノは。心配になるよ。」
アカオがトキノの少し長めの綺麗な黒髪をわしゃわしゃ撫でてやると、トキノはされるがまま少し気持ちよさそうに目を細めた。
「違うよ。兄さんとしか食べたくないだけ。」
「それを人見知りって言うんですー。」
あとは惰性でくだらない話をしながら、上質な食事を腹だけ満たすような雑な味わい方で胃に収めていく。
アカオは昔から、この何でもすぐに自分を超えてその度に惨めさを味わわせて来る弟を可愛がっている。
だって、弟を可愛がる兄は見栄えがいい。
弟に慕われる兄も見栄えがいい。
一族の信頼は良好な関係から生まれていくと、生来狡猾な狐であるアカオは本能的にわかっていた。
分かってないのは弟のトキノの方だ。
まるで犬のように純粋にアカオを慕っている。
いや、それもこいつの演技かもしれないと考えた時期がアカオにもあった。
しかし、どう見てもトキノは古来から人を騙くらかして利益を得る化け狐の一員とは思えないほどに素直で正直に見える。
そのくせ、誰よりも上手く人間を魅了するからアカオは更に腹立たしさを持て余すのだった。
アカオだって、一般的な基準で言えば十分有能な妖狐だ。
操心術を始めとした妖狐特有の術だって、並より早く覚えたし威力も高い。
尻尾も、同じ年頃の狐は2,3本しかない所を既に4本獲得していた。
学校の成績だって、高校までは常に学年トップ。大学でも3年間全ての単位は優以上だ。秀も少なからずある。
それもこれも、アカオが当主にふさわしくあるために努力して手にした成果だ。
妖狐一族の次期当主になることは、当主の長子として生まれたアカオに当然期待されたことだった。
しかし、当主の座は完全な長子相続ではなく過去に選ばれた例が多いというに過ぎない。
長子が愚昧であったために次男以下が当主に選ばれた例もたくさんある。
そんな中、弟のトキノが規格外過ぎたのはアカオの不幸だった。
妖狐の術どころか、学べば天狗や河童の術まで覚えてしまう。
本来の姿の時の尻尾は7本。
まだまだ伸び代があるトキノの年頃でこの数は歴代当主の中ですら例が無い。
記録上妖狐の最高峰とされるのは九尾だが、長じればそれを超えてもおかしくない状況と言えた。
人間の世界でも、全国模試の主席は常連、入試も当然主席合格。大学に進学して所属した生物工学の研究室は、先日教授が世界的な化学賞を受賞した。
その決め手となった論文には、ばっちりトキノの名前が末席に連なっている。
受賞後最初にトキノに目をつけたのはミーハーなマスコミだった。
大々的に取り上げられてしまえば、禿げた中年太りの受賞者本人よりスラリと長身で整った顔立ちのトキノに注目が行く。道理としては間違っているが人間社会では至極当たり前だった。
そうしてトキノは一躍有名になり、今ではキャンパスも学年も違うアカオのクラスメイトですら一目見て目の色を変えるほど。
トキノに魅了されて彼に近づく面々は、片端からトキノ自身が迷惑そうに術で操って追い返してしまうが。
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