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出会い編
19, 誤解
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そのメモを読んだ後、続きを読む気は到底なくなった。
その後の公演は当たり役だからと悲劇の恋愛ものばかりやっていたから、きっと同じような感想に違いない。
メモからわかるのは、僕の演じた『夜明けのひばり』の主人公スザナの演技に伯爵ががっかりしたってことだ。
雑誌で酷評してきた評論家と同じ事を伯爵も考えたのかもしれない。
そう思うと胸がずしっと重くなった。
評論を読んだ時より辛いかも。
あんなに僕の演技を楽しみにしてくれた人をがっかりさせていたんだ。
だから会ってからずっと睨まれてばかりなのかな。
「れ、練習しよ……。」
急に焦りが出てきて、のそのそと稽古室に向かった。
それから黙々とセリフを唱え、振る舞いや表情を鏡でチェックする。
そこには代わり映えしない演技をしている僕が映っていた。
「ああバルドー、今すぐにこの黄金虫に身を変えて飛び、貴方に会いに行きたい……」
次の舞台、『陛下のお気に入り』のヒロインであるエレオノールが王宮に来た後に吐く独白を口にしてみる。
セリフは全部暗記したし、すらすら言えるようにもなってる。
でも、虫になってでも誰かに会いたいなんて僕は思ったことがない。
エレオノールは、愛する修道士のバルドーに会いたくて命を賭けた。
街に戻ってきてから、僕は一度だってエドヴァル様に会いたいと思っただろうか。
「貴方がもし私に愛の言葉をくれるなら、他の誰にどんな惨い仕打ちを受けてもいいの。」
別のセリフを吐いてみる。
やっぱり、どこか空虚な気がして仕方がない。
僕なら誰からどんな言葉が欲しいんだろう。
「伯爵は、もう僕を褒めてくれないのかな……」
口にすると悲しくなってきて、これじゃダメだと鏡に額をゴンゴンぶつける。
その音に、扉を叩く音が重なってるのに気付いた。
「はい、どうぞ。」
入ってきたのはルパートさんだった。
「ご練習中のところ申し訳ありません。流石に何かお召し上がりにならないかと……」
言われて壁の時計を見たらもう3時になるところだった。
昼ごはんは練習がしたくて断ったから、今日は朝ごはんにすこし食べただけだ。
けど別にお腹は空いていない。
「いりません。」
そう言うとルパートさんはすこし困った顔で言う。
「では、せめてお紅茶とクッキーは如何ですか?何もお召し上がりにならないと、旦那様が心配されます。」
「僕の行動は全部伯爵に伝わってるんですか?」
「旦那様は奥様をとても気にかけていらっしゃいますので……」
「そうでしょうか。もう僕のお芝居には興味ないかも。」
まずいな。少し拗ねた感じになっちゃったかも。
「おや、旦那様が奥様のお芝居をご覧になっていた事を聞かれたのですね!」
ルパートさんが嬉しそうに言った。
聞いたってより、読まれたというか読んだというか。
「あの唐変木自分からなかなか言い出さないからもう無理かと思ってました。いや失礼。興味ないなんてとんでもない。旦那様は気味が悪いくらい奥様に夢中で……」
ルパートさんは何か誤解してるみたいだ。あの手帳が伯爵の本心なんだから、きっと今はがっかりされてるだけだろうに。
……あーダメだ。何か気分転換しないと。
「ルパートさん、やっぱり僕、お茶頂けますか。」
「はい。すぐご用意いたします。」
僕の気を知るよしもないルパートさんはいそいそと支度をしに行った。
その後の公演は当たり役だからと悲劇の恋愛ものばかりやっていたから、きっと同じような感想に違いない。
メモからわかるのは、僕の演じた『夜明けのひばり』の主人公スザナの演技に伯爵ががっかりしたってことだ。
雑誌で酷評してきた評論家と同じ事を伯爵も考えたのかもしれない。
そう思うと胸がずしっと重くなった。
評論を読んだ時より辛いかも。
あんなに僕の演技を楽しみにしてくれた人をがっかりさせていたんだ。
だから会ってからずっと睨まれてばかりなのかな。
「れ、練習しよ……。」
急に焦りが出てきて、のそのそと稽古室に向かった。
それから黙々とセリフを唱え、振る舞いや表情を鏡でチェックする。
そこには代わり映えしない演技をしている僕が映っていた。
「ああバルドー、今すぐにこの黄金虫に身を変えて飛び、貴方に会いに行きたい……」
次の舞台、『陛下のお気に入り』のヒロインであるエレオノールが王宮に来た後に吐く独白を口にしてみる。
セリフは全部暗記したし、すらすら言えるようにもなってる。
でも、虫になってでも誰かに会いたいなんて僕は思ったことがない。
エレオノールは、愛する修道士のバルドーに会いたくて命を賭けた。
街に戻ってきてから、僕は一度だってエドヴァル様に会いたいと思っただろうか。
「貴方がもし私に愛の言葉をくれるなら、他の誰にどんな惨い仕打ちを受けてもいいの。」
別のセリフを吐いてみる。
やっぱり、どこか空虚な気がして仕方がない。
僕なら誰からどんな言葉が欲しいんだろう。
「伯爵は、もう僕を褒めてくれないのかな……」
口にすると悲しくなってきて、これじゃダメだと鏡に額をゴンゴンぶつける。
その音に、扉を叩く音が重なってるのに気付いた。
「はい、どうぞ。」
入ってきたのはルパートさんだった。
「ご練習中のところ申し訳ありません。流石に何かお召し上がりにならないかと……」
言われて壁の時計を見たらもう3時になるところだった。
昼ごはんは練習がしたくて断ったから、今日は朝ごはんにすこし食べただけだ。
けど別にお腹は空いていない。
「いりません。」
そう言うとルパートさんはすこし困った顔で言う。
「では、せめてお紅茶とクッキーは如何ですか?何もお召し上がりにならないと、旦那様が心配されます。」
「僕の行動は全部伯爵に伝わってるんですか?」
「旦那様は奥様をとても気にかけていらっしゃいますので……」
「そうでしょうか。もう僕のお芝居には興味ないかも。」
まずいな。少し拗ねた感じになっちゃったかも。
「おや、旦那様が奥様のお芝居をご覧になっていた事を聞かれたのですね!」
ルパートさんが嬉しそうに言った。
聞いたってより、読まれたというか読んだというか。
「あの唐変木自分からなかなか言い出さないからもう無理かと思ってました。いや失礼。興味ないなんてとんでもない。旦那様は気味が悪いくらい奥様に夢中で……」
ルパートさんは何か誤解してるみたいだ。あの手帳が伯爵の本心なんだから、きっと今はがっかりされてるだけだろうに。
……あーダメだ。何か気分転換しないと。
「ルパートさん、やっぱり僕、お茶頂けますか。」
「はい。すぐご用意いたします。」
僕の気を知るよしもないルパートさんはいそいそと支度をしに行った。
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