スイート・スパイシースイート

first bite２−１

今思えば、あの時の琢美の恋は、恋心と生存本能が総動員した無茶苦茶執着の強い恋だった。
それでもやはり、あの時も裕一郎は、琢美の執拗な執着なんて物ともせず、いつも軽々受け止めては昇華させていた。
今だってそうだ、琢美の裕一郎ヘの執着や所有欲は、異常なレベルに達している。
そんな事、琢美だって分かっている。
自分は今、すっかり大人になった裕一郎に隠していた事全て受け入れてもらえて、遠慮が突破ずれてしまっているのだ。
母親に甘えられなかった分も、本来父親という存在から受け取れるはずだった愛情の分も、全部、丸ごと裕一郎に性欲と独占欲として手加減なしにぶつけている。
琢美の仕事は製薬会社の研究員、琢美達研究チームの仕事一つで会社の収益が大きく左右される。皆、毎日凄まじいプレッシャーの中業務をこなしている。
琢美のチームは研究チームの中でも最もプレッシャーの強い部門の一つ、市販薬部門だ。
一個リコールが出れば、あらゆるメディアが一斉に大騒ぎしてとんでもない事態になる。
その精神的な負荷は本当に物凄い。
誰の心がいつ壊れてもおかしくない、実際、つい二か月前に精神崩壊を起こした社員が同じ市販薬開発部で出たばかりだった。
以前から少々様子のおかしい男ではあったが、それにしても突然壊れた。
ある日唐突にゲラゲラと笑いながら社内で暴力を振るい出した。
しかも、その社員は二か月経って大人しくなった今も平気で出社してきていて、周囲を驚かせている。
普通の感覚だったら恥ずかしくてもう出社なんか出来なくなるだろうに、大人しくなっただけで、治っていないのだろう。
部長、課長(チーフ)達はどうしたものかと頭を悩ませる毎日を送っている。