ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
37 / 72
初めてのループ

15

しおりを挟む
 ついに、魔女の集合体を一人の少女に宿らせるための儀式が決行される日が来た。月明かりがよく見える王宮の屋根裏部屋で、床に魔法陣を描きフィオを横たわらせた。魔導師達は黒いローブを目深に被っていて、顔こそ分からなかったが、そのうちの一人は教会に出入りしている者だとフィオは声で分かってしまう。

(悪い魔法使いのうち一人は、教会に出入りしている王宮の人だ。嗚呼、普段は神様にお祈りしているくせに悪い魔法に手を染めて、本当は神様を裏切っていたんだ。だから、神様はフィオ達全ての魔女のことを嫌っているんだ)

 他にも何人かの魔導師達がフィオについて話しているが、クルスペーラ王太子のお付きやヒメリアの屋敷で働いているものなどのようで、花嫁候補会の関係者のうち数人が魔導師として暗躍していたことがよく分かる。いつか、その時が来たらフィオを生け贄に捧げて、悪魔の化身である魔女の集合体を喚び起こそうとしていたのだろう。
 時が満ちた証拠に、生け贄となるフィオの手の甲には、呪いの紋様がくっきりと浮かび上がっていた。

「おやおや、この子……手の甲に随分と立派な呪いがかけられているのですねぇ」
「これは前世の因果だな、一体どう言う理由で因果が出るのかは不明とされているが、統計では前世の古傷が紋様になるとされているそうだ。きっとこの子は前世で手の甲部分に傷か火傷を負ったのだろう」

 魔法陣の上に寝かせられているフィオは、朦朧とする意識の中で『何故、手の甲の火傷のことを知っているの』と呟く。今世でフィオが、手の甲に火傷を負ったことは一度もない。けれど、魔女に目覚めたフィオ派自分が前世で南国蚕の世話をしている最中に火傷をしたことを思い出した。


 * * *


 フィオは前世ではフィオリーナという名前だった。南国蚕の世話をするのが中央大陸から流れ着いた身寄りのないフィオリーナの仕事で、蛹の蚕から繭を取る際に不注意で火傷をしてしまったのだ。だが、ただの火傷の跡ではこのような呪いの紋様にはなることはない。
 この火傷の跡は、ペリメーラ島の族長の息子であるクリスとの恋の因果でもあった。

『フィオリーナ、南国蚕の様子はどうだい? おや、その手……火傷しているね。これ以上酷くなると良くないから、軟膏を塗ってあげよう』
『クリス様……私もなんかの為に、こんな貴重な薬を……すみません』
『ふふっこんな時は、すみませんじゃなくてありがとうって言うんだよ』
『ありがとう……クリス様』

 今のフィオよりも幾つか年上のお姉さんだったフィオリーナは、その時に族長の息子に片想いしてしまったのだ。彼には既にヒメナという婚約者がいたにも関わらず……フィオリーナは魔女のおまじないでヒメナからクリスを奪った。


 * * *


 前世のことを少しずつではあるが、思い出してしまったフィオは、本当に自分は赤毛の魔女だったのだと痛感する。

(私はフィオリーナの生まれ変わり、クルスペーラ王太子はクリスの生まれ変わり、そしてヒメリアちゃんはヒメナの生まれ変わり。ごめんなさい、ヒメリアちゃん。せっかくお友達になってくれたのに、結局私と貴女は恋敵だったんだね。普通の女の子に生まれて、ヒメリアちゃんと普通のお友達になりたかった)

 普通になろうとしたのはフィオだけではない。フィオに情を移してしまい、ごく普通の家族になろうとした魔導師夫妻はもうこの世にはいない。フィオを生け贄にするには、普通や平凡な幸せは邪魔でしかなく、頼る人を失ったフィオの心はあっという間に暗闇に呑まれた。

「では、儀式を始めます。呼び水となるのはこの魔女の歴史が描かれた古い魔導書。全ての人の心に眠る赤毛の魔女のイメージこそが、集合体の正体。そして、その万能たる魔女をここに目覚めさせましょう」

 喚び声に応えるように。一冊の書物から美しい赤毛の女性が現れてフィオを見下ろす。そして、フィオの首に手をかけて……その中に自らの魂を入れ替えた。

(うう、苦しい……助けて)

 月が彼女と彼女の前世、そして魔女の集合体の魂がフィオに入って行くのを見つめていた。
 始まりのループはそこで幕を閉じてしまう。時間がゆっくりと巻き戻っていく、完全な魔女であるフィオナが花嫁候補としてクルスペーラ王太子と出会うために。
 だが、魔女フィオナも黒魔導師達も気づいていないことがあった。このタイムリープは、前世の因果を引き継ぐヒメリアにも記憶を残すということを。

 因縁の友であるフィオを失い、ヒメリアの魔女との戦いが幕を開けようとしていた。そして、ループは二周目へ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

処理中です...