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1:[VIO 男 部位]【検索】
しおりを挟むきっかけは、本当に些細な一言からだった。
「いやぁ、髭の脱毛やってみたら最高だったわー」
職場の後輩が、そんな事を言っていた。あ、モチロン俺にではない。他の後輩に、だ。
だって、俺は職場で誰とも喋らない。休憩時間はずっとスマホでアニメ見てるし。それに、基本無表情だ。
眼鏡で無表情で休憩中ずっとアニメを見ているキモオタの俺に、職場で声を掛けてくる人なんて居ない。
ただ、その日はスマホの充電をし忘れていたせいで、休憩時間にアニメを見るのを控えていたのだ。そしたら聞こえてきた。
「へぇ。まぁ最近、皆やってるっぽいもんな」
「ホント、朝の時間が最高に楽になったわ。あと、肌も荒れないし」
「あー、確かにソレはいいな。俺もやってみるかなぁ」
この瞬間、俺は残り少ないスマホの充電を使って検索をかけた。
[男 ヒゲ 脱毛]
【検索】
確かに俺もずっと思っていた。朝、髭を剃る時間が面倒臭いなぁって。
十年近く通ってる職場だし。SEっていう職種のせいか、周りも男ばっかりだし。正直、わざわざ朝の貴重な睡眠時間を削って髭を剃るの、ホントに嫌だった。
でも、毎朝鏡の前に立つと、しっかり髭は生えているワケで……。剃らないワケにはいかない。
「でさ。ついでだから、今はもう全身やってる」
「全身?マジで」
「そ。今、VIO中」
「マジで!?」
髭の脱毛を調べて「死ぬ程痛い」「デカイ輪ゴムで弾かれたような痛み」という単語にゴクリと生唾を飲み込んでいると、後輩の口から「VIO」という、聞き慣れない単語が聞こえてきた。
ついでなので、ソレも調べてみる。
[VIOとは]
【検索】
検索をかけた瞬間、俺は話を聞いている後輩の「マジで!?」の反応に、完全に同意した。マジで?
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VIOとは基本的にはパンツに隠れる部分、陰部全体のことを指す。
特に、男性の場合は陰茎の上のフロント部分から陰茎、睾丸、肛門周辺まで全体を含む。
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言葉だけじゃ分かりにくかったので、イラスト付きの画像で解説してあるページにも飛んでみた。が、更に衝撃は増すばかりである。
え?待って待って。簡単に言うと、ちんことケツの穴の回り全部という事だ。嘘だ。何でそんな所を脱毛する必要があるのだろう。ワケが分からない!
俺が思わず、話し声のする方へと目をやると、そこにはうちの会社で一番顔が良いとされている後輩の姿があった。
名前はよく覚えてない。
「いや、髭並にやったら快適だって話を聞いたのと……」
「うん」
そこから、後輩は少しだけ声を落とす。待て。ここまで一緒に話を聞いたんだ。俺にも最後まで聞かせてくれ。俺はバレない程度に体を二人へと向けると、そこから全神経をイケメンの声へと集中させた。
「こないだ彼女に毛濃すぎてキモいってフラれてさ」
「お、おう。マジか」
そんな!あんなイケメンなのに下の毛が濃いだけでフラれるのか?信じられない。ていうか、ソレが原因でフラれるってアイツはどれだけ毛が濃いんだ。
「つーか、お前どんだけ下の毛が濃いんだよ」
イケメンの話を聞いていた彼の同僚が、俺の思っていた事と同じ事を口にした。ありがたい。お陰で俺の疑問も解決されそうだ。
「いや、そうは言うけどさ。下の毛って自分のが濃いとか普通とか……分かんなくね?お前、自分の下の毛が濃いのか薄いのかって自分で判断できる?」
「確かに」
「だろ?」
確かに。またしても後輩と気持ちが被る。
いや、まさにその通りじゃないか。下の毛なんて、誰かと比べる事も、第三者から公正にジャッジを受ける事もないのだ。自分で、普通か濃いかなんて分かりようがないじゃないか。
「……どうしよう」
思わず不安が口を吐いて出る。
なにせ俺は、生まれてこのかた三十五年間、一度も彼女が居なかったせいで、本気で誰にも下半身を晒した事が無いのだ。
「でもさ。まだ二回目なんだけど、やって良かったわ」
「へぇ、なんで?」
うん、何故だ。自然と体が前のめりになる。
だって彼は、あんなにイケメンなのに、わざわざ他人にちんこを晒してまで脱毛しているのだ。彼が羞恥心と痛みに耐えてまで、脱毛して良かったという理由が、俺は知りたかった。
すると、次の瞬間。イケメンは凄まじく良い笑顔でハッキリと言った。
「セックスが、死ぬ程気持ち良い」
その言葉を聞いた途端、俺はスマホで検索をかけていた。
[メンズ 全身脱毛 施術者スタッフ 男のみ]
【検索】
童貞卒業の予定はまるでないが、来るべき「最高の時」の為に俺もちんこを他人様に晒す時が来たのかもしれない。
この日、この俺宮森タローは、僅かな勇気を振り絞ってメンズ専門の脱毛サロンを予約したのであった
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