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第一章

9.苦情

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翌朝、朝食を終えたフレデリカは何時ものようにサロンに出向いていた。


しかし、何時もと違うのは迷惑な招かざる客が現れた事だ。


「フレデリカ!貴様、どういうつもりだ!」

「お客様、お止めください」

執事が止めるも、ローガスは執事を押しのける。


「昨夜、お前が一人で帰った所為で、恥をかいたんだぞ」

「私に会場から去れとおっしゃったのは貴方ではありませんか」

「馬鹿か!俺はお前に一人で歩いて帰れと言ったんだ!御者を帰すとは何事だ」

公衆の面前で昨夜のことで文句を言う。

「馬車の手配もできないんですか」

「なんだと生意気な!何故俺がそんなことをしなくてはならないんだ」

あまりにも自分勝手すぎる言い分にセシルは我慢ならなかった。


「姉は貴方の便利屋ではありません。馬車に乗りたいなら自分で手配をするのが当たり前です」

「無礼な…フレデリカ!貴様は弟の躾けも満足にできないとは…流石子爵家は下級貴族だけあって低俗だな!こんな教養もマナーもなってない女と婚約しなくてはならいとは」

大きな声で、子爵家を馬鹿にするローガスを心の底から残念に思った。

このサロンには平民や、元平民上がりの貴族が大半なので、サロンに参加する客を侮辱するも同然だった。


「なんだこの馬鹿は」

「野蛮な」

サロンでは怒鳴り声や口論を良しとしない。
マナーを守り、互いに議論し合う場であるのに対して、ローガスはフレデリカに怒鳴りつけていた。


「第一、こんなくだらない場で無駄な時間を使うとは愚かな」

「無礼な真似はお止めください、サロンを何だと思っていますの?」

流石に我慢できなくなったフレデリカは異論を唱えようとするも、ローガスは許さなかった。

「黙れ、俺に口越えたする気か!」

「姉さん!」

ローガスは椅子を蹴り飛ばし、フレデリカを突き飛ばす。

「紳士がすることですか、女性に乱暴を働くなんて野蛮だ」

「黙れ、下級貴族の分際で」

「身分だけで教養の欠片もない者に言われたくありませんね?姉がいなければ外で食事もできない貧乏風情が」

「なんだと!姉が姉ならば弟も同じだな…女が学問などはしたないというのに…恥知らずめが」

フレデリカを庇うセシルは、ローガスを睨みつける。
いくら王命であってもこんな理不尽な扱いを一生受け続けなくてはならないのかと思うと、フレデリカが哀れで仕方ない。


「アマンダならば俺を立てるというのに。アマンダを少しは見習ったらどうなんだ。まぁ、美しいアマンダと貴様が同じ人間ではないがな」

何かにつけてアマンダと比較し続けるローガスにセシルは耐え切れなくなり、拳を握るも。


「ダメよセシル」

「ですが…」

ここまで言われて黙っているなんてできないと言うセシルに首を横に振る。


「人の価値は生まれで判断されるものではありませんわ」

「ハッ、負け犬の遠吠えが」

「どう思われても私は、貴方に愚かだと言われる振る舞いも、弟への教育に間違いがあるとは思った事はありません。セシルは私の自慢の弟です…弟の侮辱はお止めください」


セシルの手を握りながらも、ローガスを見据え告げる。
公の場では落としなしくしていても、弱い女性でいる気は毛頭ない。

むしろ、弟を侮辱されて黙っている程情けない姉でいたくなかった。


「なんと傲慢な女だ!これまで我慢してきたが…好きにさせ過ぎた。お前など婚約破棄をしてくれる!父上の英霊故に、家の犠牲になったが、こんな性悪で出来損ないの女を娶れば我が伯爵家は末代までの恥だ」

「大きな声を出さないでください。この距離ならば聞こえますわ」

「貴様、何処までも俺を侮辱したら気が済むのだ」

「侮辱したつもりはありません。ですが他人に迷惑をかけたのならば謝罪するのは当然ではありませんか」


何を言っても取り合おうとしないローガスにため息を付きながら、傍で給仕をしている侍女に告げる。


「申し訳ありません。汚した調度品は弁償いたしますので」

「そんな、フレデリカ様に何の非が!」

ローガスを無視して迷惑をかけた侍女に謝罪をし、調度品を弁償すると告げる。


しかし、無視されたローガスがブチ切れたのか。
傍に置かれたいたカップに入ったお茶をぶちまけようとした。


「姉さん!」

セシルの声が響く中、まだ冷めきってない紅茶がかけられた。

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