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178羊達の涙
しおりを挟む孤児院を出た後に町から町に移動して、同中馬車を盗んだエセルバートは逃亡を続けていた。
逃げられると思っているようだけど、逃げ口をあらかじめ塞ぎ、指名手配を続けていた。
その後大きな宿にも手配書を張らせることにした。
「既に奴の出所を把握しています」
「袋の中の鼠状態です」
恐ろしい程に仕事が早いわ。
町にも罪のない老人に暴行をした噂を流し、尚且つ特徴的な男の噂を流す様にお願いした。
聞けばエセルバートは結婚詐欺をして名前を変えている。
家名を変えればやり直せると思ったのか、愚かにも程かがるわ。
確かに家名が変われば仕事を得られると考えるのは間違いではない。
平民で身元がはっきりしていなければ真面な仕事が貰えないし、宿に泊まるのも難しい。
だからと言ってこんな馬鹿な真似をするなんて。
「仲間の一人が屑男に結婚詐欺をされた女性に会いに行っています。ご両親は被害届が出せない状態らしいです」
「裏の組織と繋がってしまっているなら…世間体がありますのものね」
「何処までも腐った男なのか」
貴族でないにしろ、ちゃんとした教育を受けた彼等からしたら許されない行為だろう。
「その女性の保護をする必要があります。できるだけ彼等を考慮した上で一番交渉術の優れた方を派遣してください。その被害者にも協力をお願いします」
「畏まりました。仲間の中に女性執事がおります」
「ならばお願いします」
被害者は彼女だけじゃないはずだわ。
馬車を盗まれた人、巻き込まれた人達を保護し協力体制を作る必要がある。
「新聞記者に連絡を…彼の愚行を世間の前に晒します」
「承知しました」
「ですがジョイルの名前は出さないでください」
ジョイルを晒し物にするわけにはいかない。
名前を隠した状態で記事を書いてもらい、エセルバートを追い詰める。
「アリア様、先生の様態はいかがなのでしょうか」
「熱は下がりました。孫娘のマヤが昼夜問わず看病しておりますが…」
「許せません…老体の先生に」
「穏やかな余生を送ってしかるべきなのに」
本当に生徒に慕われたいた事が解る。
これだけの人数が集まるなんて、慕われたいたのね。
「ジョイルは必ず救います。お約束します」
「はい…はいっ!」
涙を溜めながら頷く彼等を見ると良き先生だったのが痛いほどわかるわ。
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