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68エレンディスの恋③
しおりを挟む二人きりの遠出は予定と異なり相乗りではなくなった。
何故ならアリアは私よりも乗馬が上手かった。
そうだ。
私の自信をぶち壊すかのように。
「獲物です!」
「あっ…ああ」
しかも狩りしてその場で食するという逞しさ。
愛想笑いと偽りの言葉で相手を騙し合う社交界は息がつまる。
誰もが偽りを言葉にして他者を踏みつける、お茶会では自分の財と血筋の自慢と、噂を流して他者を踏みつけ有利に立つ事しか考えない人間に嫌気がさしていた。
それでも私は逃げる事が出来なかった。
アリアはどうするんだろう。
「もうこんな風に馬にも乗れないのかな」
「え?」
どういう事だ?
「アリア?」
「私、婚約が決まったんです」
「婚約…」
アリアが?
まだ行儀見習いに来てそんなに経ってないのに。
胸が痛んだ。
アリアの年頃なら婚約者が今までいなかった事がおかしいぐらいだ。
だが、何故このタイミングで…
私は嫌な予感がした。
「こないだのお茶会で参加されていたお客様にカスティージョ伯爵夫人と言う方がいたじゃないですか」
「ああ…」
あの性悪な伯爵夫人か。
中位貴族に位置するが最近は羽振りが良いのか、散財をしていると噂だ。
社交界ではそれなりに有名だが、私達のような何代も続く辺境伯爵家や王族と交流の深い高位貴族は好んでいない。
それは昔からの格式を無視しているからだ。
ご息女も我儘が酷く婚約者のいる貴族にも馴れ馴れしく、社交界のマナーを守っていない。
外見は美しいらしい。
らしいというのは一部の主観だ。
私も彼女を美しいとは思わないし、タイプではない。
嫡男はご息女と異なり控えめであるが、それだけだ。
妹の行き過ぎた行動を止めようともしない。
普通ならば父親か兄が諫めるのに見ているだけだ。
その所為で社交界では二人の噂は酷い物だった。
「どうして…」
「解らないんです。今まで交流はなかったし。宮廷貴族からすれば私のような百姓貴族の娘は…」
言いたいことは解る。
彼等のような貴族は百姓貴族がどれだけ重要な役目を果してくれているか解らないのだ。
「受けることにしたのか」
「エセルバート様が私を選んでくださったので」
通常なら断りにくい相手だ。
「侯爵夫人はなんと」
「嫌なら断っても良いと…」
だろうな。
無理強いをするわけがないが、フリーシア伯爵家に嫌がらせが行かないか心配だった。
「どうするんだ」
「受けようかと…」
「アリア」
この決断になんとなく解っていたのかもしれない。
ずっと続く日常なんてありえない。
ずっと一緒だなんて。
幸福な時間はある日突然消えてなくなる。
だがこの時に私は自分の心に嘘をつき婚約を祝福した事を後悔した。
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