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5祖母の言葉
しおりを挟む百姓貴族は王都の貴族に馬鹿にされる傾向がある。
我が家も田舎貴族と呼ばれていたからなのかもしれないけど、他家に嫁ぐというのは簡単なものではない。
姑と嫁の関係を良くするためにも耐えなくてはならない。
他人同士が家族になるのだから。
特に今は男尊女卑の世だからこそ私は耐えなくてはならない。
泣きたくなる日が来るだろう。
逃げたくなる日が来るかもしれないけどお祖母様は…
――女の道は戦いです。
逃げる事は恥なのだから、進みなさい。
この言葉はお祖母様自身も経験した言葉だったのかもしれない。
――辛い時こそ笑いなさい。
絶対に姑の嫌がらせに、嫁いびりに負けてはなりません!
「そうよ…負けてはダメよ」
私は忘れる所だったわ。
「ジョナ、ごめんなさい。私が悪かったわ」
「奥様…」
「こんな事で泣くなんて半人前なのよ」
私が泣いていてはエセルバート様に心配をかけてしまう。
そうなってしまえば本当に妻失格だわ。
「奥様、私は奥様の味方でございます」
「ありがとうジョナ…」
私は一人じゃない。
「アリア!」
「エセルバート様?」
私を心配して追いかけてくれたエセルバート様はその手に何かを持っていた。
「これは?」
「すまない…なんとかして色を落して来たんだ。刺繍に関しては元に戻せるか解らないが」
「私のドレス」
色は綺麗に抜かれている。
生地に痛みはほとんどなかった。
「どうして…」
「君の大事なドレスじゃないか。完全に元に戻せないが腕の良い仕立て屋に頼んだから…本当にどう詫びればいいか」
刺繍は剥がれてしまったけど生地は傷めないように配慮してくれたんだ。
「ありがとうございます。もういいのです」
「何が良い物か…こんな泥棒のような真似を」
ドレスをぎゅっと抱きしめながら私はもう泣かないと決めた。
私の大事なドレスを取り返してくれた事が嬉しかったと同時にこんなにダメな私の為に必死になってくれた優しいエセルバート様の思いが嬉しかった。
「アリア!」
「お義父様?」
「二人が申し訳ない事をした。せめて刺繍を元に戻せるように手配をした…本当に申し訳ない」
優しいお義父様をこれ以上傷つけたくなかった。
だからもう泣かない。
強くならなくてはならないと思った。
「ありがとうございますお義父様」
私は果報者だわ。
お祖母様。
他人同士が家族になる事はとても大変です。
でも少なくとも私を思ってくれる優しい家族がいるならば頑張ろう。
そして何時かお義母様とメリッサ様にも家族として認めて貰える日を願っていた。
そう、まだ私は何も知らなかったのだ。
二人は私をどう思っているのか。
私さえ我慢すれば、努力すれば家族に慣れると思っていたこの時の私は幼過ぎたのだ。
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