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4静かな森
しおりを挟む最短ルートで旅をした私達は魔物の出現率の高い森に入るも。
「変だね?イチローがいると言えど、魔物が出現しない」
低級魔物はゴーレムを恐れるのは理解できる。
でも、ここまで魔物が出現しないのも違和感を感じるな。
「まぁいいか。ご飯にしよう」
折角もらった包丁を使うとしよう。
「それにしても七本の包丁なんてすごいな」
果物用もあるし、前世で見た匠の包丁と変わらない。
こう言ってはなんだけど、アレンドール王国の包丁の質はあまり良くない。
まぁ我が家にあるのは他国の品で、昔パパが譲り受けた品だと言っていた。
ちなみに我が家の家宝である鍬も先祖代々から受け継がれていたものらしいんだけど。
鍬だからな。
魔法の杖とか、聖剣だったら周りから尊敬の念を抱かせるのだけど。
この鍬は特殊で、ウサギ一匹傷を与えられない。
いわば鈍刀に等しい。
ただし畑仕事はすごく楽で私が持つと程よい軽さだけど、他の人が持つとかなり重い。
昔ギョームが持とうとしたが重すぎて持てなかった。
しかも鉛のように重く鍬を倒してぺしゃんこになりかけたのだ。
まぁ、そのおかげで鍬は奪われなかった。
使い道もないしね。
パパの訃報を知らされてから私にとってこの鍬とイチローが支えだった。
「今日からお前のお友達だ」
鍬に包丁を見せる。
これから長い付き合いになるのだから。
「さてキノコの処理をするか」
お爺さんから貰った包丁でキノコの処理をしようとした時だ。
「あれ?」
キノコの蔕を切ろうとした時だ。
切り落とした先から光が灯り始めた。
「何?」
少し干からびているキノコが瑞々しくなる。
「嘘…さっきまで痩せこけていたのに」
お爺さんの包丁の所為かな?
まさか魔法の包丁なのか?
でも、お爺さんはそんな風なことは言ってなかったし。
「他の包丁も試してみたいな…何?イチロー」
私の肩をちょんちょんと叩くイチローはいつの間にか果物や魚を獲って来てくれたようだ。
試しにということか。
私もやってみたいと思っていたけど本当に空気の読める魔物だ。
「よし、お刺身だ」
そう思い、試し切りをしたのだけど。
「うわぁ!すごい新鮮…!」
こんなにすごい包丁なのに何でギルドは返品したのか不思議だ。
「やっぱり包丁だからかな?」
もし剣だったら?
この国では戦闘の武器を重宝するけど、他はどうだろうか。
「もったいないな。こんなに素敵な宝物なのに」
この世界は宝物であふれているのにガラクタだというけど、ガラクタの中に財宝が眠っている。
この世に無駄なものは一つもない。
誰かにとってのガラクタは誰かにとっての宝物。
「私達も旅を続けようか」
イチローはこくんと頷きながら私を肩に乗せてそのまま歩き始める。
けれど私はこの時知らなかった。
私が王都を出たタイミングで、災害が起きていたことを。
タイミングよく王都を抜けたおかげで平気だったが、通常のルートでは水による大災害が起きて港では海難事故が続いていたということを。
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