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第四章 籠鳥檻猿
手紙
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陛下にもらった木の葉も、鳥の脚に括りつけられていた布も、私には特別に大事なものだった。木の葉は小箱に入れて仕舞い、布に書かれた陛下の手紙は肌身離さず持ち歩いている。
一日不見、如三月兮。
(一日会わざれば、三月の如し)
その気持ちは私も同じだった。陛下の気持ちが寄り添ってくれている気がした。あれから鳥はまだ戻ってきていないが、最初にくれたこの一言で、またしばらくは信じて待てると思った。
次の日のピリついた後宮の空気で、私は昨日も陛下のお通りがなかったことを知る。もしかしたら、3嬪のどれかにお通いになることが実際の政まつりごとに直結するため、後宮自体を避けているかもしれない。もしかしたら、私のところに来ないのは、3嬪とその父親たちの面子に気を遣ってのことかもしれない。そう思うと少しむず痒いような気持ちになった。
皇帝陛下は私のこと好いてくれているかもしれない。
頭に浮かぶこの考えに私は首を振る。期待したら裏切られた時に生きてゆけない女になってしまう。皇帝陛下に愛されたから何なのだろう。欲望と思惑が渦巻く後宮で後ろ盾のない私が死ぬまで平和に暮らせる保証などない。歴史書を読んでも時の寵妃が幸せに暮らしてめでたしとなることなんて無いのだ。ましてや、私は本当の寵妃ではない。貴妃の地位も、都合が良いからから与えられたもの。それが一番銀蓮にふさわしいからであって、私雲泪が罷り間違って妹のように後宮にきていたら?お通りもなく、陛下を一目も見る事なく、一生籠の鳥だっだはずだ。
勘違いしちゃだめ。銀貴妃なのは私じゃない。銀蓮なのよ。
それでも陛下の手紙は私の心を慰めた。
後宮に陛下以外の男はいない。妃と宮女、時折り宦官が出歩く。お通りが3日間ない今日も沢山の思惑が蠢いている。後宮が開かれてから長くいる貴人以下の妃たちは自分の所にお通りがあるという希望などもはや持てずにいる。自分たちの実家との兼ね合いをみて三嬪の誰かに擦り寄るタイミングが来ていた。実家が嬪の実家と懇意の家でないなら尚更、お通りがある前にお近づきになるのがいいけれど、賭けをはずしたら劣勢になる。しかし、お通りがこのまま誰にも無いならば実家の力関係そのままの勢力争いが後宮内でも起こるのは必至である。
「雲泪!なんで遊びに来てくれないの!」
廊下で莉華に見つかってしまう。
「宮女は仕事が忙しくて、遊びに行く時間がないのです」
「だから、私の専属になれば遊べるでしょう」
「私はもう専属ですので…」
私の言葉に莉華の大きな瞳は好奇心で一層キラキラ輝いた。
「おねえさまは誰の派閥なの?」
一気に擦り寄られる。
「ほら、うちは商人で北の果てでしょう。今日は貴人は三嬪主催のお茶会で邸へ招かれてる子がいるじゃない。私誰からも声をかけられてないの!全然知らないし、誰につくのが得か分からないの。勿論私が寵妃になればいいんだけど」
「私は三嬪には仕えておりませんので、お役に立てないかと…」
「では誰?他の貴人なら私に変えたらいいじゃない。私も貴人よ」
莉華は厄介であった。銀貴妃の専属であることを知られたら、泣きついてくることが目に見える。
しかしタイミング悪く、宦官に声をかけられてしまう。
「ちょうど良いところ雲泪ではないか!牡丹坊に届けておくれ」
小包を渡される。
「牡丹坊!おねえさま、牡丹坊にいるのね」
「違うわ、たまたま今頼まれただけよ」
「そんなわけない。知ってるもの。牡丹坊は銀貴妃がお認めになった宮女しか近づいてはいけないのよ。近くを歩くだけで、見張りの宦官にものすごーく怒られるんだから」
そんな宦官いたかしら?でも莉華は経験済みらしかった。
「銀貴妃にも話し相手って必要でしょう?出入りしたら、あの可愛い子は誰?って陛下の目に止まるかもしれないし、私、銀貴妃なら侍女になってもいいわ」
呆れかえるほど図々しい。私が仮に宮女であっても、この異母妹を銀貴妃に紹介することはないだろう。
「そんな身分不相応な進言を宮女が貴妃に出来るわけないじゃない」
「あら、今の牡丹坊の宮女は選りすぐりで貴妃のお気に入りしかいないって聞いたわ」
莉華はあきらめようとしない。三嬪w主催のお茶会に招かれていない貴人は、やはり今後の立ち位置が不安なのだろう。お通りが一度もないまま、後宮で飼い殺されてしまうこともあり得る。宮女ではないから、故郷に帰ることも面子にかかわる。貴妃とお近づきになって、後宮での立ち位置を確立したい気持ちは良く分かった。
「無理よ、私は新人だし。銀貴妃とお話できる立場ではないわ」
「あらこれ、なあに?」
聞いているのか呆れていると、莉華が布切れを手にしている。私は血の気がひいた。
それは陛下が私に宛てた文だ。肌身離さず仕舞っていたのに、いつの間に抜き取られたのだろう。
「これは銀貴妃のものなの?さっきの渡された小包に仕込んであったのかしら?」
私は慌てて取り返そうとするが、ひらりと軽快に交わされる。
「ねえ、〝檻猿〟て誰?」
陛下であるとは言いたくなかった。大事な思い出まで奪われたくない。
「銀貴妃が誰かと手紙のやりとりをしているということ?」
銀貴妃が陛下とやりとりをしていて何が悪いのだろう。しかし宮女が文を持っている今の状況は非常にまずかった。莉華の言う通り、不義密通としか思えない。
「銀貴妃ではなくて、私のよ。返して」
「そうなの?大事に仕舞い込んでたから何かと思ったけど、雲泪#にそんな人が出来たなんて信じられないわ」
莉華は目を細め、口角を吊り上げる。その笑みは狡猾な第二夫人にそっくりだった。
「でもね、雲泪が宮女だったとしても、頭の先の髪の毛一本から爪先に至るまで、皇帝陛下の持ち物なのよ。こんな手紙のやりとり許されるわけないわね?」
莉華は私の耳元で囁いた。
「どうにか銀貴妃とお近づきになる方法を考えて頂戴。うまくいったら返してあげる」
我慢は出来なかった。陛下からの手紙だけはとられたくなかった。
一日不見、如三月兮。
(一日会わざれば、三月の如し)
その気持ちは私も同じだった。陛下の気持ちが寄り添ってくれている気がした。あれから鳥はまだ戻ってきていないが、最初にくれたこの一言で、またしばらくは信じて待てると思った。
次の日のピリついた後宮の空気で、私は昨日も陛下のお通りがなかったことを知る。もしかしたら、3嬪のどれかにお通いになることが実際の政まつりごとに直結するため、後宮自体を避けているかもしれない。もしかしたら、私のところに来ないのは、3嬪とその父親たちの面子に気を遣ってのことかもしれない。そう思うと少しむず痒いような気持ちになった。
皇帝陛下は私のこと好いてくれているかもしれない。
頭に浮かぶこの考えに私は首を振る。期待したら裏切られた時に生きてゆけない女になってしまう。皇帝陛下に愛されたから何なのだろう。欲望と思惑が渦巻く後宮で後ろ盾のない私が死ぬまで平和に暮らせる保証などない。歴史書を読んでも時の寵妃が幸せに暮らしてめでたしとなることなんて無いのだ。ましてや、私は本当の寵妃ではない。貴妃の地位も、都合が良いからから与えられたもの。それが一番銀蓮にふさわしいからであって、私雲泪が罷り間違って妹のように後宮にきていたら?お通りもなく、陛下を一目も見る事なく、一生籠の鳥だっだはずだ。
勘違いしちゃだめ。銀貴妃なのは私じゃない。銀蓮なのよ。
それでも陛下の手紙は私の心を慰めた。
後宮に陛下以外の男はいない。妃と宮女、時折り宦官が出歩く。お通りが3日間ない今日も沢山の思惑が蠢いている。後宮が開かれてから長くいる貴人以下の妃たちは自分の所にお通りがあるという希望などもはや持てずにいる。自分たちの実家との兼ね合いをみて三嬪の誰かに擦り寄るタイミングが来ていた。実家が嬪の実家と懇意の家でないなら尚更、お通りがある前にお近づきになるのがいいけれど、賭けをはずしたら劣勢になる。しかし、お通りがこのまま誰にも無いならば実家の力関係そのままの勢力争いが後宮内でも起こるのは必至である。
「雲泪!なんで遊びに来てくれないの!」
廊下で莉華に見つかってしまう。
「宮女は仕事が忙しくて、遊びに行く時間がないのです」
「だから、私の専属になれば遊べるでしょう」
「私はもう専属ですので…」
私の言葉に莉華の大きな瞳は好奇心で一層キラキラ輝いた。
「おねえさまは誰の派閥なの?」
一気に擦り寄られる。
「ほら、うちは商人で北の果てでしょう。今日は貴人は三嬪主催のお茶会で邸へ招かれてる子がいるじゃない。私誰からも声をかけられてないの!全然知らないし、誰につくのが得か分からないの。勿論私が寵妃になればいいんだけど」
「私は三嬪には仕えておりませんので、お役に立てないかと…」
「では誰?他の貴人なら私に変えたらいいじゃない。私も貴人よ」
莉華は厄介であった。銀貴妃の専属であることを知られたら、泣きついてくることが目に見える。
しかしタイミング悪く、宦官に声をかけられてしまう。
「ちょうど良いところ雲泪ではないか!牡丹坊に届けておくれ」
小包を渡される。
「牡丹坊!おねえさま、牡丹坊にいるのね」
「違うわ、たまたま今頼まれただけよ」
「そんなわけない。知ってるもの。牡丹坊は銀貴妃がお認めになった宮女しか近づいてはいけないのよ。近くを歩くだけで、見張りの宦官にものすごーく怒られるんだから」
そんな宦官いたかしら?でも莉華は経験済みらしかった。
「銀貴妃にも話し相手って必要でしょう?出入りしたら、あの可愛い子は誰?って陛下の目に止まるかもしれないし、私、銀貴妃なら侍女になってもいいわ」
呆れかえるほど図々しい。私が仮に宮女であっても、この異母妹を銀貴妃に紹介することはないだろう。
「そんな身分不相応な進言を宮女が貴妃に出来るわけないじゃない」
「あら、今の牡丹坊の宮女は選りすぐりで貴妃のお気に入りしかいないって聞いたわ」
莉華はあきらめようとしない。三嬪w主催のお茶会に招かれていない貴人は、やはり今後の立ち位置が不安なのだろう。お通りが一度もないまま、後宮で飼い殺されてしまうこともあり得る。宮女ではないから、故郷に帰ることも面子にかかわる。貴妃とお近づきになって、後宮での立ち位置を確立したい気持ちは良く分かった。
「無理よ、私は新人だし。銀貴妃とお話できる立場ではないわ」
「あらこれ、なあに?」
聞いているのか呆れていると、莉華が布切れを手にしている。私は血の気がひいた。
それは陛下が私に宛てた文だ。肌身離さず仕舞っていたのに、いつの間に抜き取られたのだろう。
「これは銀貴妃のものなの?さっきの渡された小包に仕込んであったのかしら?」
私は慌てて取り返そうとするが、ひらりと軽快に交わされる。
「ねえ、〝檻猿〟て誰?」
陛下であるとは言いたくなかった。大事な思い出まで奪われたくない。
「銀貴妃が誰かと手紙のやりとりをしているということ?」
銀貴妃が陛下とやりとりをしていて何が悪いのだろう。しかし宮女が文を持っている今の状況は非常にまずかった。莉華の言う通り、不義密通としか思えない。
「銀貴妃ではなくて、私のよ。返して」
「そうなの?大事に仕舞い込んでたから何かと思ったけど、雲泪#にそんな人が出来たなんて信じられないわ」
莉華は目を細め、口角を吊り上げる。その笑みは狡猾な第二夫人にそっくりだった。
「でもね、雲泪が宮女だったとしても、頭の先の髪の毛一本から爪先に至るまで、皇帝陛下の持ち物なのよ。こんな手紙のやりとり許されるわけないわね?」
莉華は私の耳元で囁いた。
「どうにか銀貴妃とお近づきになる方法を考えて頂戴。うまくいったら返してあげる」
我慢は出来なかった。陛下からの手紙だけはとられたくなかった。
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