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第三章 宮女生活の始まりです
念願
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貴嬪として輿入れした初日に皇帝陛下のお通りがあり、貴妃になった令嬢がいる。蔡北の銀蓮だ。
銀蓮の噂で後宮中が持ちきりだった。そもそも皇帝陛下は政に忙しく、後宮を開いても、ただの一回もお通りは無かった。その最初のお通りが銀貴嬪…いや今は銀貴妃だったのである。しかも3日とあけずに通いつづけているらしい。
「まあ、あたしらにとっては雲の上のお人だねえ。牡丹坊から一歩も外に出ないらしいからね」
おしゃべりしながら、宮女用の木綿の制服を叩いて洗濯しているのは尚服の茉莉だ。噂話をしながら洗濯をするのは気が紛れるし、はかどる。尚服の仕事は、身分の高い寵妃のお着替えや服選びだけではなく、膨大な量のお洗濯も含まれている。どの邸につけるか、どんな仕事を任されるかは宮女の能力だけではなく、コネや運や賄賂もあった。
「あんたも大変だねえ、まだ所属が決まらないのかい」
気のいい茉莉は8人兄弟の長女で、田舎に仕送りするために宮女になったらしい。面倒見の良い姉御肌だ。色んな部署をたらい回しに雑用ばかりやらさられている私を気にかけてくれる。
「うん。でも色んなところを回らされている方が飽きなくて楽しいわ」
「あんたは宮女じゃ勿体無いよ。賄賂さえ渡せば貴人にはなれそうな美人じゃないか。しかし、お通りが銀貴妃以外のとこには無い現状じゃ、宮女の方がイライラしなくていいかもしれんね」
そう、後宮の空気はピリピリしている。宮女に当たり散らかす貴人も少なくないらしい。貴人として入宮するのは、地方名士や裕福な家庭の子たちだ。遥々首都に出てきて、皇帝陛下の顔すら見られないんじゃ確かに癇癪のひとつも起こしたくなるだろう。
だから銀貴妃は牡丹坊から出ないのだ。私は最後の洗濯物をギュギュッっと力強く絞りながら、固く心に誓っていた。
「雲泪、悪いんだけど、次の洗濯物も漬けといてー!」
すっかり顔見知りになった貴人担当の宮女も声を掛けてくれる。友達が出来るって楽しい。特に担当がいない私たちは、おしゃべりしながらのんびり洗濯物を叩いて過ごす。たまに甘いお菓子の差し入れをくれる貴人担当もいる。出世は狙えないけど気楽な立場が気に入っていたので、フリーの尚服っていいなあと思った。
その夜のことである。牡丹坊を訪れた皇帝陛下は出迎えた私の手に口づけをした。しかしなぜか浮かない顔をしている。
「どうなさったのですか?」
「私は銀貴妃に洗濯をしろなどとは言ってはおらぬはずだが」
そして、大袈裟に溜め息をついた。
「宮女のふりをして後宮を歩き回ることを確かに許可したが、そなたは洗濯がしたくて私に宮女の衣装をねだったのか?」
「いえ…したいわけではありませんが…」
「小青を呼べ」
私が銀蓮ではなく雲泪だと知っているのは、皇帝陛下ただ1人だ。小青には宮女雲泪のふりをして出歩くのが趣味だと伝えてある。貴妃昇格の褒美にわたしがリクエストしたのが木綿の宮女の服だったことには驚いていた様子だったが、小青は私の良き理解者であった。初夜の日に銀貴妃の担当をした尚服や尚寝には大変申し訳ないけれど、里に帰ってもらった。多額の給金を渡して皆円満にニコニコ帰ったはずなのに、どうゆうわけか銀貴妃が嫉妬深くて、陛下の顔を見た宮女は追い出されるらしいという噂がたった。もう嫌になっちゃうね。
膝を折り赦しを乞う小青に、陛下は優しく言った。
「小青を責めてなどいないよ。これは銀貴妃の我が儘ゆえ。ただ我が寵妃が雑用をさせられるのは皇帝として耐え難い」
小青 は少し考えて、答える。
「それでは雲泪を銀貴妃に担当宮女にするのはいかがでしょうか。銀貴妃の専属を勝手に使う者は流石にいないでしょう」
なかなかの妙案であった。配属部署の伝達は明日出るらしい。
皇帝陛下は軟膏を小青 に持ってこさせて、私の指に塗りたくるだけ塗りたくると随分と疲れていたのか、仔犬のようにコテンと寝てしまった。
3日とあけずという噂ではあるが、本当のところ皇帝陛下は毎晩牡丹坊にお通いになっている。いや牡丹坊から紫琴宮へとお通いになっているという方が的確なぐらい、ずっと側にいる。半月も毎夜を一緒に過ごせば自然と仲良くなれる。皇帝陛下が側に寝ているという緊張感で寝不足になってしまった初日3日間が嘘のようだ。今夜も皇帝陛下は私を抱いて眠る。文字通り抱いて眠るだけである。
銀貴妃の秘技はすごいらしい。そう、これも宮女たちの噂と真実が全く異なっている。我々そもそも夜伽をしてないので、秘技もへったくれもない。
無意識に擦り寄ってくる皇帝陛下の頭を抱きかかえながら、私も静かに眼を閉じたのだった。
銀蓮の噂で後宮中が持ちきりだった。そもそも皇帝陛下は政に忙しく、後宮を開いても、ただの一回もお通りは無かった。その最初のお通りが銀貴嬪…いや今は銀貴妃だったのである。しかも3日とあけずに通いつづけているらしい。
「まあ、あたしらにとっては雲の上のお人だねえ。牡丹坊から一歩も外に出ないらしいからね」
おしゃべりしながら、宮女用の木綿の制服を叩いて洗濯しているのは尚服の茉莉だ。噂話をしながら洗濯をするのは気が紛れるし、はかどる。尚服の仕事は、身分の高い寵妃のお着替えや服選びだけではなく、膨大な量のお洗濯も含まれている。どの邸につけるか、どんな仕事を任されるかは宮女の能力だけではなく、コネや運や賄賂もあった。
「あんたも大変だねえ、まだ所属が決まらないのかい」
気のいい茉莉は8人兄弟の長女で、田舎に仕送りするために宮女になったらしい。面倒見の良い姉御肌だ。色んな部署をたらい回しに雑用ばかりやらさられている私を気にかけてくれる。
「うん。でも色んなところを回らされている方が飽きなくて楽しいわ」
「あんたは宮女じゃ勿体無いよ。賄賂さえ渡せば貴人にはなれそうな美人じゃないか。しかし、お通りが銀貴妃以外のとこには無い現状じゃ、宮女の方がイライラしなくていいかもしれんね」
そう、後宮の空気はピリピリしている。宮女に当たり散らかす貴人も少なくないらしい。貴人として入宮するのは、地方名士や裕福な家庭の子たちだ。遥々首都に出てきて、皇帝陛下の顔すら見られないんじゃ確かに癇癪のひとつも起こしたくなるだろう。
だから銀貴妃は牡丹坊から出ないのだ。私は最後の洗濯物をギュギュッっと力強く絞りながら、固く心に誓っていた。
「雲泪、悪いんだけど、次の洗濯物も漬けといてー!」
すっかり顔見知りになった貴人担当の宮女も声を掛けてくれる。友達が出来るって楽しい。特に担当がいない私たちは、おしゃべりしながらのんびり洗濯物を叩いて過ごす。たまに甘いお菓子の差し入れをくれる貴人担当もいる。出世は狙えないけど気楽な立場が気に入っていたので、フリーの尚服っていいなあと思った。
その夜のことである。牡丹坊を訪れた皇帝陛下は出迎えた私の手に口づけをした。しかしなぜか浮かない顔をしている。
「どうなさったのですか?」
「私は銀貴妃に洗濯をしろなどとは言ってはおらぬはずだが」
そして、大袈裟に溜め息をついた。
「宮女のふりをして後宮を歩き回ることを確かに許可したが、そなたは洗濯がしたくて私に宮女の衣装をねだったのか?」
「いえ…したいわけではありませんが…」
「小青を呼べ」
私が銀蓮ではなく雲泪だと知っているのは、皇帝陛下ただ1人だ。小青には宮女雲泪のふりをして出歩くのが趣味だと伝えてある。貴妃昇格の褒美にわたしがリクエストしたのが木綿の宮女の服だったことには驚いていた様子だったが、小青は私の良き理解者であった。初夜の日に銀貴妃の担当をした尚服や尚寝には大変申し訳ないけれど、里に帰ってもらった。多額の給金を渡して皆円満にニコニコ帰ったはずなのに、どうゆうわけか銀貴妃が嫉妬深くて、陛下の顔を見た宮女は追い出されるらしいという噂がたった。もう嫌になっちゃうね。
膝を折り赦しを乞う小青に、陛下は優しく言った。
「小青を責めてなどいないよ。これは銀貴妃の我が儘ゆえ。ただ我が寵妃が雑用をさせられるのは皇帝として耐え難い」
小青 は少し考えて、答える。
「それでは雲泪を銀貴妃に担当宮女にするのはいかがでしょうか。銀貴妃の専属を勝手に使う者は流石にいないでしょう」
なかなかの妙案であった。配属部署の伝達は明日出るらしい。
皇帝陛下は軟膏を小青 に持ってこさせて、私の指に塗りたくるだけ塗りたくると随分と疲れていたのか、仔犬のようにコテンと寝てしまった。
3日とあけずという噂ではあるが、本当のところ皇帝陛下は毎晩牡丹坊にお通いになっている。いや牡丹坊から紫琴宮へとお通いになっているという方が的確なぐらい、ずっと側にいる。半月も毎夜を一緒に過ごせば自然と仲良くなれる。皇帝陛下が側に寝ているという緊張感で寝不足になってしまった初日3日間が嘘のようだ。今夜も皇帝陛下は私を抱いて眠る。文字通り抱いて眠るだけである。
銀貴妃の秘技はすごいらしい。そう、これも宮女たちの噂と真実が全く異なっている。我々そもそも夜伽をしてないので、秘技もへったくれもない。
無意識に擦り寄ってくる皇帝陛下の頭を抱きかかえながら、私も静かに眼を閉じたのだった。
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