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第一章 後宮潜入大作戦
貴嬪
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後宮の身分制度は複雑ではあるが、役割と上下関係は細かく定められている。どちらが上かハッキリしないと諍いの元になるからである。
もっと早く説明してくれたら楽だったのに、と思いつつも、あのタイミングでなければ再び逃げだしていたかもしれないから、宦官はやはり狡猾である。
銀蓮は最低でも貴嬪からだよ。といわれたのを踏まえて、用意された牡丹坊という私の邸で、王望天がくれた内部資料をもとに、自分の立場を書き出して整理してみる。
後宮において1番は皇貴妃、つまり正妃のことだ。特別に寵を得て、大抵は後継となる皇太子を産んだ名家の娘だけがなれる。勿論皇貴妃は1人だけしかなれない。将来的には皇太后となり圧倒的な権力を持つ。しかしまだ、該当者はいない。
その次は貴妃。定員は2人。外交的戦略により、他国から嫁に来る姫や、特別な貴族の娘が寵を受けなければなれない立場だ。丁重に扱わねばならない大国の姫がいつ嫁いで来ても困らない為にも、このは貴妃の立場は後宮が開かれた当初は空いている。
その次は妃である。4人ほど抱えることができ、花の名前がついている邸を与えられる。人質に来る他国の姫や寵を受けた特別な女性だ。該当者がいるかは知らない。
その次が、先ほど言われた貴嬪である。
その後に嬪、貴人、常在、答応と続き、それ以下は使用人の宮女である。尚宮(総務)、尚儀(礼楽)、尚服(衣服)、尚食(食事)、尚寝(居住空間)、尚功(工芸)と後宮は全てが女性で構成されている。
つまり、だ。
この牡丹坊という花の名前が冠された邸をもらってている時点で、嫌な予感がするわけである。しかも牡丹の咲く中庭がついている。牡丹は古来より国花であり、花の王である。つまり花の名前がついた邸の中では1番の邸に違いなかった。
扉が開いて、傅いた若い女の子が入ってくる。歳は同じくらいか、もしかしたら小柄で童顔なだけで少し年上かもしれない。
「銀貴嬪、私が貴女の尚宮を担当する許青です。お気軽に小青とお呼びください」
呼びかけられた敬称が貴嬪だったことにホッと胸を撫で下ろす。
「貴嬪なのね、良かった。1番上の立場だったら嫌だと思っていたから」
思わず本音を漏らしてしまった私に、小青は首を傾げる。
「銀貴嬪が1番上の立場でございますよ。牡丹坊でございますから」
牡丹坊は歴代の寵妃の邸で皇貴妃になっても、この邸を気に入って使い続けることもあると小青は言った。つまり今は貴嬪までしかいないらしい。妃以上は大国の姫がいつ来ても良いように空けているのかもしれない。
どちらにしろ、皇帝のお通りを数年間避けてお役御免を狙える立場ではなさそうだった。銀蓮を逃して掛け持ちを許してしまい、自殺に追い込まれる宦官の気持ちが良く分かる。ただの宮女なら逃しても大した問題じゃなかったはずだもの。
「今夜は陛下がいらっしゃいますよ」
今夜と聞かされてもう吐きそうだった。
「本当は部屋で待っていたいぐらいだったという嬉しい伝言がございます」
私は3食昼寝付きの気楽な宮女と聞かされてきたのだ。皇帝陛下に出迎えられたら吐く…
「ちょっと、待って。具合が悪いかも」
「長旅でしたものね。すぐ床につかれて休まれてくださいませ。夜にはお通りがありますから体調を万全にしなければなりません」
小青は尚寝に寝床の準備をさせる。私を横たわらせ、柔らかい絹の薄掛けを掛けながら優しく続けた。
「銀貴嬪 に6年ぶりに会えると楽しみになさってましたよ。皇太子になる前に住んでいた蔡北の思い出話もしたいし、兄弟のように育った小龍が今どうしてるか聞きたいって大変上機嫌であらせられました。夕方また湯浴みとお支度に参りますから、ゆっくりお休みくださいませ」
小青の告げた伝言は私を殺すのに充分な衝撃を与えた。
お通りになる皇帝陛下に、最後の質問だけが答えられそうだ。
皇帝陛下さま、銀蓮が駆け落ちした相手が、その小龍でございます。
私が今出来るのは、皇帝のお通りがある前に後宮から逃げることだけだ。南鞍の薬問屋よりも遥かに遥かに難しい脱出になることだけは間違いなさそうだった。
もっと早く説明してくれたら楽だったのに、と思いつつも、あのタイミングでなければ再び逃げだしていたかもしれないから、宦官はやはり狡猾である。
銀蓮は最低でも貴嬪からだよ。といわれたのを踏まえて、用意された牡丹坊という私の邸で、王望天がくれた内部資料をもとに、自分の立場を書き出して整理してみる。
後宮において1番は皇貴妃、つまり正妃のことだ。特別に寵を得て、大抵は後継となる皇太子を産んだ名家の娘だけがなれる。勿論皇貴妃は1人だけしかなれない。将来的には皇太后となり圧倒的な権力を持つ。しかしまだ、該当者はいない。
その次は貴妃。定員は2人。外交的戦略により、他国から嫁に来る姫や、特別な貴族の娘が寵を受けなければなれない立場だ。丁重に扱わねばならない大国の姫がいつ嫁いで来ても困らない為にも、このは貴妃の立場は後宮が開かれた当初は空いている。
その次は妃である。4人ほど抱えることができ、花の名前がついている邸を与えられる。人質に来る他国の姫や寵を受けた特別な女性だ。該当者がいるかは知らない。
その次が、先ほど言われた貴嬪である。
その後に嬪、貴人、常在、答応と続き、それ以下は使用人の宮女である。尚宮(総務)、尚儀(礼楽)、尚服(衣服)、尚食(食事)、尚寝(居住空間)、尚功(工芸)と後宮は全てが女性で構成されている。
つまり、だ。
この牡丹坊という花の名前が冠された邸をもらってている時点で、嫌な予感がするわけである。しかも牡丹の咲く中庭がついている。牡丹は古来より国花であり、花の王である。つまり花の名前がついた邸の中では1番の邸に違いなかった。
扉が開いて、傅いた若い女の子が入ってくる。歳は同じくらいか、もしかしたら小柄で童顔なだけで少し年上かもしれない。
「銀貴嬪、私が貴女の尚宮を担当する許青です。お気軽に小青とお呼びください」
呼びかけられた敬称が貴嬪だったことにホッと胸を撫で下ろす。
「貴嬪なのね、良かった。1番上の立場だったら嫌だと思っていたから」
思わず本音を漏らしてしまった私に、小青は首を傾げる。
「銀貴嬪が1番上の立場でございますよ。牡丹坊でございますから」
牡丹坊は歴代の寵妃の邸で皇貴妃になっても、この邸を気に入って使い続けることもあると小青は言った。つまり今は貴嬪までしかいないらしい。妃以上は大国の姫がいつ来ても良いように空けているのかもしれない。
どちらにしろ、皇帝のお通りを数年間避けてお役御免を狙える立場ではなさそうだった。銀蓮を逃して掛け持ちを許してしまい、自殺に追い込まれる宦官の気持ちが良く分かる。ただの宮女なら逃しても大した問題じゃなかったはずだもの。
「今夜は陛下がいらっしゃいますよ」
今夜と聞かされてもう吐きそうだった。
「本当は部屋で待っていたいぐらいだったという嬉しい伝言がございます」
私は3食昼寝付きの気楽な宮女と聞かされてきたのだ。皇帝陛下に出迎えられたら吐く…
「ちょっと、待って。具合が悪いかも」
「長旅でしたものね。すぐ床につかれて休まれてくださいませ。夜にはお通りがありますから体調を万全にしなければなりません」
小青は尚寝に寝床の準備をさせる。私を横たわらせ、柔らかい絹の薄掛けを掛けながら優しく続けた。
「銀貴嬪 に6年ぶりに会えると楽しみになさってましたよ。皇太子になる前に住んでいた蔡北の思い出話もしたいし、兄弟のように育った小龍が今どうしてるか聞きたいって大変上機嫌であらせられました。夕方また湯浴みとお支度に参りますから、ゆっくりお休みくださいませ」
小青の告げた伝言は私を殺すのに充分な衝撃を与えた。
お通りになる皇帝陛下に、最後の質問だけが答えられそうだ。
皇帝陛下さま、銀蓮が駆け落ちした相手が、その小龍でございます。
私が今出来るのは、皇帝のお通りがある前に後宮から逃げることだけだ。南鞍の薬問屋よりも遥かに遥かに難しい脱出になることだけは間違いなさそうだった。
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