正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第二十三話 ヒロイン襲来③

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 ミリシアの発言は少しばかり奇妙だ。転入してきたばかりでブラドと面識はないはずなのに、なぜフレイムソードのことを知っている?
 それに、「この時点で」という台詞は、まるでこの先の出来事を把握しているかのような言い回しだ。

(いや、まさかね)

 私は脳裏をかすめた可能性を打ち消すと、すぐさま踵を返した。ここまで先手を取られたのだ。となると、私が次に向かうべき場所は……。

「ブラド、ありがと! 急用思い出したから、またね!」

「お、おいシエザ!」

 ブラドの虚をつかれたような声をその場に残し、私は走り出した。庭園を抜け、校舎に飛び込み、鐘楼の階段を一段とばしで駆け上っていく。

 鐘室に着いた頃には、私の心臓はバクバクと早鐘を打ち、呼吸も荒く肺が押しつぶされたかのようだった。
 膝に手をついてゼェゼェいっていると、

「シエザ、大丈夫?」

 と、ルフォートが側に寄り添ってくれる。やはりここでシルフたちと戯れていたらしい。

「ちょっとまってね。すぐ楽になるから。……風の息吹よ疾く走れ、悪しき痣を吹き消し癒やせ。シルフブレス!」

 ルフォートの魔法によって呼吸が一気に楽になった。シルフブレスには本来、毒や麻痺といった状態異常を回復してくれるものだが、呼吸困難といった症状にも効果があるらしい。

 私はふぅと一つ深呼吸したあと、すぐさまルフォートの両肩をガシッと掴み、前後に揺するようにして詰問する。

「ここにミリシア来なかった!? 来たんでしょ!?」

「ひっ! 転入生ならさっきまでいたけど……」

「やっぱり! もうまだるっこしいことは抜きにして率直に聞くけど、彼女のこと好きになった!?」

「そ、そんなことはないよ! だってボクは、その……君のことが……」

「ミリシアのこと好きになってないのね!? よし、ヒロイン補正っていってもそんなに強力じゃないってことね!
 それじゃあどんなこと話したか教えて! できるだけ詳しく!」

 矢継ぎ早の質問にルフォートはたじろぐが、すぐさま明瞭な答えを返してきた。

「どんなって、会話らしい会話も交わしてないよ。なにか様子が変で、すぐ帰っていったから」

「様子が変って、どんなふうに!?」

「さっきのシエザみたいに、すごい勢いでここまで駆け上がってきたんだ。それで息も切れぎれになってたから、シルフブレスをかけて癒やしてあげたんだよ。
 そしたらすごい形相で、『だから何であんたも特殊スキル使えるようになってんの!? あたしとのイベント未消化でしょ!?』とか何とか言って、そのまま帰っていったんだ」

 ……んんん~?
 これはもう可能性というレベルの話ではなく、確定情報なのではないか。

 悪役令嬢の取り巻きらしく、ミリシアの足を陰ながら引っ張ろうと目論んでいたが、事情が変わった。ミリシアの素性が私の想像通りであるなら、ここは直接話をつけたほうがいいように思う。

「行動は早いほうがいいわ。ルフォート、邪魔したわね。私もう行くから」

「行くってどこへ? もう教室に戻らないと授業始まっちゃうよ?」

 そんなルフォートの忠告を置き去りにして、私は飛ぶように階段を駆け下りたのだった。
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