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第二十三話 ヒロイン襲来①
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とうとうこの時が来た。
「……この度はご高配を賜り」
少し舌足らずな甘い声が教室に響く。
「平民の出ながら、この由緒正しき王立学園への転入が許されました」
ふわりとしたピンク色の髪に、全てを包み込むような優しい眼差し。
「至らぬ点は多々ございますが」
学園に通うにあたって急遽叩き込まれたのだろう。たどたどしい一礼をして。
「ミリシア・ノアと申します。よろしくお願いいたします」
メインヒロインが、学園にやってきた。
まずは深呼吸。
落ち着け、私。冷静になれ。
これからの行動いかんによっては、キュロットが破滅の道を進むことになるかもしれないのだ。それだけはなんとしても避けなければ。
私はヨシッと気合を入れると、朝のホームルームが終わるやいなや教室を飛び出した。
『王立学園の聖女』では、ミリシアは自己紹介が済んだあと、クラスメイトたちの質問攻めにあう。ミリシアが神聖魔法の使い手であるという噂が既に知れ渡っており、好奇の目に晒されるわけだ。
その状況に面食らったミリシアは、隙を見てクラスメイトの輪から脱出。学園内を散策するうちに、何かに導かれるようにしてバックガーデンへと至る。
そこでヒーシスと運命的な出会いを果たすのだ。
(ミリシアがヒーシスと結ばれるルートに入った場合、キュロットが嫉妬に狂って暗躍して、結果的に処刑されちゃうのよね。それは阻止しないと)
人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて何とやらと言うが、ヒーシスにはキュロットという婚約者がいるのだ。略奪愛の方が道理を外れているわけだし、悪いがここは全力で阻止させてもらう。
(そして私は、平穏な学園生活を送るのよ!)
目的地であるバックガーデンへと辿り着いた私は、我が目を疑い立ち尽くした。植物が育たず、寂れ果てていたはずの花壇に、色とりどりの薔薇が咲き乱れているのだ。
「どうして!? こうなるのって、ミリシアがヒーシスと出会うイベントの時でしょ!?」
嫌な予感に苛まれつつ、私はバックガーデンの奥へと歩を進めた。すると噴水の傍に、ひとり佇むヒーシスの姿がある。
ヒーシスも私のことに気付いたらしい。ぱっと瞳を輝かせると、弾んだ声で言う。
「おおっ! やはり手紙の主はシエザだったのか!」
手紙とは何のことだろうか。
いや、今はそんなこと気にしていられない。私はヒーシスの問いは放置したまま、勢い込んで訊ねた。
「ねえヒーシス、この薔薇いったいどうしたの? もしかしてここでミリシアと会った?」
「噂の聖女だな。確かに今朝ここで会ったが」
「今朝? 朝のホームルームが始まる前ってこと?」
「いかにも」
なんてことだ。ゲームとは時間が多少前後している。
私が朝の日課であるキュロットの縦ロールを巻いているうちに、ミリシアはヒーシスとの出会いを済ませてしまったらしい。
私は額に手をやって唸る。
「あぁ、迂闊だった。ゲームとは色々と違っている部分があるんだし、そういった可能性も考慮しとくべきだったわ」
「どうしたんだシエザ。いったい何の話をしている?」
「ううん、なんでもない。こっちの話よ。ところで、ヒーシスはどうしてそんな時間にバックガーデンへ?」
「その様子だと差出人は君ではないのだな」
残念そうにそう呟き、ヒーシスは便箋を取り出した。さっき口にしていた手紙であるらしい。
「学園に着いたときには既に私の机の中に入れられていた。大事な話があるから今すぐバックガーデンに来て欲しいと」
「……この度はご高配を賜り」
少し舌足らずな甘い声が教室に響く。
「平民の出ながら、この由緒正しき王立学園への転入が許されました」
ふわりとしたピンク色の髪に、全てを包み込むような優しい眼差し。
「至らぬ点は多々ございますが」
学園に通うにあたって急遽叩き込まれたのだろう。たどたどしい一礼をして。
「ミリシア・ノアと申します。よろしくお願いいたします」
メインヒロインが、学園にやってきた。
まずは深呼吸。
落ち着け、私。冷静になれ。
これからの行動いかんによっては、キュロットが破滅の道を進むことになるかもしれないのだ。それだけはなんとしても避けなければ。
私はヨシッと気合を入れると、朝のホームルームが終わるやいなや教室を飛び出した。
『王立学園の聖女』では、ミリシアは自己紹介が済んだあと、クラスメイトたちの質問攻めにあう。ミリシアが神聖魔法の使い手であるという噂が既に知れ渡っており、好奇の目に晒されるわけだ。
その状況に面食らったミリシアは、隙を見てクラスメイトの輪から脱出。学園内を散策するうちに、何かに導かれるようにしてバックガーデンへと至る。
そこでヒーシスと運命的な出会いを果たすのだ。
(ミリシアがヒーシスと結ばれるルートに入った場合、キュロットが嫉妬に狂って暗躍して、結果的に処刑されちゃうのよね。それは阻止しないと)
人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて何とやらと言うが、ヒーシスにはキュロットという婚約者がいるのだ。略奪愛の方が道理を外れているわけだし、悪いがここは全力で阻止させてもらう。
(そして私は、平穏な学園生活を送るのよ!)
目的地であるバックガーデンへと辿り着いた私は、我が目を疑い立ち尽くした。植物が育たず、寂れ果てていたはずの花壇に、色とりどりの薔薇が咲き乱れているのだ。
「どうして!? こうなるのって、ミリシアがヒーシスと出会うイベントの時でしょ!?」
嫌な予感に苛まれつつ、私はバックガーデンの奥へと歩を進めた。すると噴水の傍に、ひとり佇むヒーシスの姿がある。
ヒーシスも私のことに気付いたらしい。ぱっと瞳を輝かせると、弾んだ声で言う。
「おおっ! やはり手紙の主はシエザだったのか!」
手紙とは何のことだろうか。
いや、今はそんなこと気にしていられない。私はヒーシスの問いは放置したまま、勢い込んで訊ねた。
「ねえヒーシス、この薔薇いったいどうしたの? もしかしてここでミリシアと会った?」
「噂の聖女だな。確かに今朝ここで会ったが」
「今朝? 朝のホームルームが始まる前ってこと?」
「いかにも」
なんてことだ。ゲームとは時間が多少前後している。
私が朝の日課であるキュロットの縦ロールを巻いているうちに、ミリシアはヒーシスとの出会いを済ませてしまったらしい。
私は額に手をやって唸る。
「あぁ、迂闊だった。ゲームとは色々と違っている部分があるんだし、そういった可能性も考慮しとくべきだったわ」
「どうしたんだシエザ。いったい何の話をしている?」
「ううん、なんでもない。こっちの話よ。ところで、ヒーシスはどうしてそんな時間にバックガーデンへ?」
「その様子だと差出人は君ではないのだな」
残念そうにそう呟き、ヒーシスは便箋を取り出した。さっき口にしていた手紙であるらしい。
「学園に着いたときには既に私の机の中に入れられていた。大事な話があるから今すぐバックガーデンに来て欲しいと」
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