正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第十四話 ブラド・シュター②

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 六年前のあの日、自分は騎士であることを捨てたのだと思う。ヒーシスの言葉通りに、騎士の命とも言える剣を放り投げてしまった。その後につながる地獄を招いてしまった。
 あの剣を、再びこの手に掴もう。
 騎士の誇りを取り戻そう。
 大切な人の願いを叶えるために。
 ブラドは怨霊騎士をキッと睨みつけ、猛るように呪文を詠唱する。

「鋼の意志に炎をまといて、打てよ、鍛えよ、研ぎ澄ませ!」

 ブラドは手に意識を集中させ、魔力で剣のイメージを具現化していった。
 本物の剣をまさにこの場で鍛え上げていくように、魔力を重ね、打ち伸ばしていく。

「打てよ、鍛えよ、研ぎ澄ませ! 打てよ、鍛えよ、研ぎ澄ませ!」

 脳裏に六年前に放り投げたはずの剣がよぎった。剣はくるくると宙を舞ったあと、ブラドの元へと落ちてくる。
 ブラドは手を伸ばし、その剣を掴んだ。ずしりとした重みまで腕に伝わってくる。
 瞬間、ブラドは叫ぶ。

「顕現せよ、フレイムソード!」

 炎をまとった魔力の剣がブラドの手に現れた。ブラドは一瞬だけ、呆けたようにその剣に見入る。
 だが、それはほんの僅かな間だ。ブラドはすぐさま双眸に覇気を漲らせ地を蹴った。
 怨霊騎士の姿が眼前に迫る。

(大丈夫! 稽古通りにやるんだ! シエザを助けるんだ!)

「うおおおおお!」

 ブラドの斬撃が怨霊騎士の反応速度を上回った。一合も打ち合うことなく、怨霊騎士の首が宙を舞い、二度と彷徨い出ることない永劫の眠りへと誘う。

 ブラドは即座に刃を返し、傍にいた別の怨霊騎士の胴を払う。
 手応えは浅い。けれど与えた傷口から炎が舐めるように吹き出すと、怨霊騎士の全身を薪のように燃え上がらせた。

 ブラドはその炎を突き破るようにして次の獲物へと斬り掛かる。落雷の如く打ち下ろしたフレイムソードが、受けようとした怨霊騎士の剣を叩き割り、勢いのままに頭部を粉砕した。

「あと二つ!」

 残りの怨霊騎士がブラドへと殺到してくる。
 放たれた横薙ぎの一閃をブラドは身をよじってかわすも、脇腹が微かに裂け、鮮血が舞った。
 ブラドは歯を食いしばって痛みを押しやると、渾身の力で刺突を繰り出す。

 フレイムソードが怨霊騎士の胸部を刺し貫くと、ブラドは素早く体を入れ替え、残る一体の振るった凶刃を怨霊騎士の背で受けた。
 そのままブラドは魔力を熾し、

「猛き炎よ灰に還せ、ファイアボルトっ!」

 敵を刺し貫いている剣先からファイアボルトを放出。最後の怨霊騎士を焼き尽くした。
 魔物たちが塵と化し、さらさらと風にのって霧散する。

 洞窟内に静寂が戻ると同時に、ブラドは強い疲労感を覚えてその場に片膝をついた。必死だったので自覚がなかったが、極度の緊張から解き放たれ、全身から力が抜けたのだろう。
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