正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

文字の大きさ
上 下
37 / 106

第十話 よくってよ!

しおりを挟む
 本格的に始まった学園生活は、私の望み通り、順調な滑り出しとなった。その大きな要因はやはり、キュロットと親密にしているためだろう。

 縦ロール騒ぎでクラスメイトのみならず、上級生や教員からも只者ではないと認識されるように至ったキュロット。そんな彼女の側にいつも寄り添っている私もやはり、周りからすれば軽視できない人物と映るようで、下校の際には見ず知らずの生徒たちからも、

「ご機嫌麗しゅう、シエザ様」

 と挨拶されるようになった。
 まさしく令嬢である。
 ちやほやされるお嬢様である。
 
 よくってよ。
 オホホ、よくってよ!

 さらには喜ばしい誤算もあった。『王立学園の聖女』では攻略対象とシエザが絡むシーンはほとんどなく、モブとメインキャラの立場というものがはっきりしていた。
 そのため、私も王子たちとは顔見知り程度の関係しか築けまいと、そう考えていたのだが。

「うん。今日も綺麗にセットできたわ。ちょっと待ってね。いま氷の鏡を……」
「その必要はありませんわ」
「うっ。相変わらず私の瞳を鏡代わりにするのね。ちょっと近くない? なんというか、さすがに恥ずかしいというか……」
「あら、いいじゃありませんか。女の子同士なのですし」
「いやまあそうなんだけど。ええと、二人にもお礼言わなきゃだし。ねっ?」
「ぼ、僕は大したことしてないから、お礼なんていいよ。いい魔法の鍛錬にもなってるし」
「同感だ。女性が美しくなる手助けができることは喜ばしいことだしな」

 縦ロールを維持するには毎日の手入れが必須。私とブラド、そしてルフォートの三人で日々セットを続けるうち、部活仲間のような連帯感も生まれ、気心の知れた間柄となった。
 さらには、

「ああ、シエザ。今日も元気そうで何よりだ。もし何か困ったことがあれば遠慮なく言うといい。私で良ければ力になろう」

 キュロットに会うためだろう。ヒーシスが足しげく私たちのクラスに通い、私にも気さくに声をかけてくれるようになった。
 婚約者の友人は無下にできないという配慮だろうが、時折キュロットそっちのけで色々と話しかけてくるため、キュロットが嫉妬して、私の腕をとって王子から引っ剥がすこともしばしば。
 いや、引っ張ってくなら私じゃなくてヒーシスでしょうに。

 まあとにかく、おかげで王子とも随分と仲良くなれた。
 こうして、王立学園で最も影響力があるであろう四人と良好な関係を築けた私は、間違いなく学園カーストの最上位の一角を占める存在となった。
 このまま平穏無事に卒業し、学園で育んだ人脈を活用すれば、将来も安泰だ。

(転生してよかった! ヒロインが転入してからが本番だけど、この分なら楽勝でしょ!)

 と、思っていたのだが。
 入学してからわずか一ヶ月にして、私は自分の考えが甘かったことを思い知るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...