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第九話 そのアイテムは!①
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授業終了の鐘が鳴ると同時に、私は達成感に満ちた呟きを漏らす。
「で、できた……」
私の目の前には、お嬢様キャラの代名詞ともいえる見事な縦ロール、通称『金髪ドリル』となったキュロットがいる。
これまでの流れるようなストレートもよく似合っていたが、縦ロールにしたおかげで今まで以上に小顔に見えるし、何よりもゴージャスで華々しい。
これぞまさしく私の知る悪役令嬢である。
「あの、どうでしょうか? 似合っていまして?」
キュロットが期待の眼差しで訊いてきた。
私はキュロット自身にも確認してもらおうと、氷で鏡を作るため魔力を再び熾す。
しかし次の瞬間、軽い目眩を覚えてぐらりと身体が傾いた。
「おっと」
「危ない!」
傍にいたルフォートとブラドが咄嗟に身体を支えてくれた。超のつく美形の二人に両脇から抱きかかえられる形になり、私は思わず赤面する。
「あ、ありがと。何か急に目眩がして」
「魔力切れだろ。オレもかなり消費してるしな」
「僕もくたくただよ。集中力もかなりいったしね」
なるほど。『王立学園の聖女』では魔力切れを起こしたキャラは戦線離脱して操作不能になるので、本人がどういった状況になるのかわからなかったが、この重度の疲労感が押し寄せているということか。
(うーん。ほぼ完徹して三連勤した時を思い出した。こりゃ確かに行動不能になるわ)
私がそんなことを考えていると、唐突に手をギュッと握られた。顔を上げれば、今にも泣き出しそうなキュロットの顔がすぐ目の前にある。
「シエザ、大丈夫ですの!? ごめんなさい、わたくしのために無理をさせてしまって……」
「いや、そんな大したことないから平気だって。それより、縦ロールうまくいってるか気になるでしょ?
氷を鏡代わりにしようと思ったんだけど、ちょっと今は無理っぽい。待ってて、誰かに鏡を……」
「それならこうすれば問題ないですわ」
キュロットはさらにずいっと顔を近付けてきた。キスでもされそうな至近距離に私はたじろぐが、キュロットがすぐさま、
「動かないでくださいまし。よく見えませんわ」
と制する。どうやら私の瞳に自分の姿を映しているらしい。
理由がわかっても、今の状況はかなり照れくさいものがある。何せ授業はとっくに終わり、ネッバス先生も居たたまれなかったのか、さっさと教室を後にしていったようで、私たちの周りは再びクラスメイトの輪ができつつあるのだ。
私は目を泳がせるが、キュロットが再び強い口調で告げた。
「シエザ、目を反らさないでくださいまし!」
「ふ、ふぁい……」
借りてきた猫のように大人しくしている間に、キュロットは自分の縦ロール姿をじっくりと観察できたらしい。
やがてキュロットは満足げに頷いたあと、ふわっと柔らかく微笑んだ。
「すごく素敵に仕上がってますわ。ありがとう、シエザ。わたくし、とても気に入りましてよ」
「そ、そう? それは良かったわ」
ようやくキュロットの視線から逃れた私だったが、今度は私を未だ抱きとめたままの二人と目が合う。
ブラドとルフォートは、なぜだか私のことを物珍しそうにまじまじと見詰めていた。
「な、なに?」
「いや、かなり強引で男勝りな仔猫ちゃんだなと思っていたが、そんな表情もするんだな」
「うん、僕も同じこと考えてた。何というか、小動物みたいだね」
急に何を言い出すんだこの二人は?
このままからかわれては堪らないと、私はすぐさま話題を変えた。
「で、できた……」
私の目の前には、お嬢様キャラの代名詞ともいえる見事な縦ロール、通称『金髪ドリル』となったキュロットがいる。
これまでの流れるようなストレートもよく似合っていたが、縦ロールにしたおかげで今まで以上に小顔に見えるし、何よりもゴージャスで華々しい。
これぞまさしく私の知る悪役令嬢である。
「あの、どうでしょうか? 似合っていまして?」
キュロットが期待の眼差しで訊いてきた。
私はキュロット自身にも確認してもらおうと、氷で鏡を作るため魔力を再び熾す。
しかし次の瞬間、軽い目眩を覚えてぐらりと身体が傾いた。
「おっと」
「危ない!」
傍にいたルフォートとブラドが咄嗟に身体を支えてくれた。超のつく美形の二人に両脇から抱きかかえられる形になり、私は思わず赤面する。
「あ、ありがと。何か急に目眩がして」
「魔力切れだろ。オレもかなり消費してるしな」
「僕もくたくただよ。集中力もかなりいったしね」
なるほど。『王立学園の聖女』では魔力切れを起こしたキャラは戦線離脱して操作不能になるので、本人がどういった状況になるのかわからなかったが、この重度の疲労感が押し寄せているということか。
(うーん。ほぼ完徹して三連勤した時を思い出した。こりゃ確かに行動不能になるわ)
私がそんなことを考えていると、唐突に手をギュッと握られた。顔を上げれば、今にも泣き出しそうなキュロットの顔がすぐ目の前にある。
「シエザ、大丈夫ですの!? ごめんなさい、わたくしのために無理をさせてしまって……」
「いや、そんな大したことないから平気だって。それより、縦ロールうまくいってるか気になるでしょ?
氷を鏡代わりにしようと思ったんだけど、ちょっと今は無理っぽい。待ってて、誰かに鏡を……」
「それならこうすれば問題ないですわ」
キュロットはさらにずいっと顔を近付けてきた。キスでもされそうな至近距離に私はたじろぐが、キュロットがすぐさま、
「動かないでくださいまし。よく見えませんわ」
と制する。どうやら私の瞳に自分の姿を映しているらしい。
理由がわかっても、今の状況はかなり照れくさいものがある。何せ授業はとっくに終わり、ネッバス先生も居たたまれなかったのか、さっさと教室を後にしていったようで、私たちの周りは再びクラスメイトの輪ができつつあるのだ。
私は目を泳がせるが、キュロットが再び強い口調で告げた。
「シエザ、目を反らさないでくださいまし!」
「ふ、ふぁい……」
借りてきた猫のように大人しくしている間に、キュロットは自分の縦ロール姿をじっくりと観察できたらしい。
やがてキュロットは満足げに頷いたあと、ふわっと柔らかく微笑んだ。
「すごく素敵に仕上がってますわ。ありがとう、シエザ。わたくし、とても気に入りましてよ」
「そ、そう? それは良かったわ」
ようやくキュロットの視線から逃れた私だったが、今度は私を未だ抱きとめたままの二人と目が合う。
ブラドとルフォートは、なぜだか私のことを物珍しそうにまじまじと見詰めていた。
「な、なに?」
「いや、かなり強引で男勝りな仔猫ちゃんだなと思っていたが、そんな表情もするんだな」
「うん、僕も同じこと考えてた。何というか、小動物みたいだね」
急に何を言い出すんだこの二人は?
このままからかわれては堪らないと、私はすぐさま話題を変えた。
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