転生した先のBLゲームの学園で私は何をすればいい?

赤蜻蛉

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転・個人恋愛ルート、続編

ガブリエルルート 2

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「・・・・・ん」


鼻孔をくすぐる甘い香りに誘われてゆっくり瞳を開けると目の前には、赤銅色の瞳が自分をまっすぐ見つめておりすぐ後にロードの唇には熱が与えられる。


「・・・・・はぁ、ふ・・・・んんっ」


柔らかい布の上に乗っていたロードの後頭部に手の平が差し込まれ、合わさった唇の部分から湿った熱い舌がゆっくりと差し込まれた。

同時に身体が大きく動かされ、唇が合わさったまま『彼』の身体の上にロードが上からのしかかるような体勢になる。


「あ・・・・・ぅんっ」


ロードの口の中に入り込んだ舌が歯列を割り、ロードの舌に絡まりそこから生まれた唾液を丁寧に舐めとっていく。

ごくり、と唾液を飲み込む音が耳に響くたびにロードの心臓が大きく高鳴った。


「せんぱ・・・・・ふっ!」

「黙って」


急激に下半身に熱が高まり、怖くなって舌を引き思わず逃げようとしたロードの両頬を『彼』の両手が強く引き戻し、より深くその唇を重ねる。

すでにロードの下半身は熱を持つどころか硬さを帯びて来ており、体勢的にそれが直接『彼』にも自然と伝わってしまう為、羞恥からより心からとても興奮していた。


さらにずっとむせ返るほどの甘い匂いが漂い、ロードの頭をより乱していく。


「うぅ・・・・・も、もぅ」

「もう、限界?」

「!?」


『彼』の舌がロードの口の中をことさらゆっくりとした動きでぐるりと舐め回し、散々絡めていた舌同士を名残惜しそうに先端だけを何度かくっつけた後、互いの唾液が漏れた唇の端も丁寧に舐め取ってからようやく唇を離してくれた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁっ」

「大丈夫?」


ぐったりと身体の力が抜け、酸欠で息苦しくなったロードとの位置を入れ替え布団の上に寝かせると、その場から立ち上がった『彼』ガブリエル先輩が自分の唇の端に濡れていた唾液を指ですくい取り、ペロリとわざわざロードへ視線を送りながらゆっくりと舐めとる。


「甘い、ね?」

「!!??」


ただ指を舐めている、時間にすればほんの1・2秒のことなのに。

透き通るような透明感あふれる白い肌は上気し、普段は慈愛の笑みと周りから讃えられているその顔にも妖しげな笑みが浮かび、そのあまりにも扇情的な姿にロードは言葉を飲み込んだ。


なんなんだ、この人の無駄にあふれるこの色気は!!

我が学園のマドンナと呼ばれ、学校の大半に彼のファンどころか信者を日に日に増やしていく彼は、あらかじめ執事が用意していた冷えたグラスにレモンがつけ込まれた水を注ぐと、先ほどまでロードを翻弄していたその唇にグラスをつけ一気に喉を潤す。

水分が喉を通るたびに普段はそこまで目立たない喉仏が動き、今ではもう何度も見て見慣れたはずのその光景にロードは肩で大きく息をしながらも見入っていた。


「あぁ、ごめんね。君も喉乾いてたね」

「いや、俺は・・・・・・ッ!!」


くいっと、新たにグラスへ水を注ぎもう一度口の中へ入れると、そのままロードへと唇を重ねて含んだ水分を余すことなく明け渡す。

これまでも何度とされた行為のはずなのに、ロードは今だに慣れず心臓が跳ね上がる。

喉を潤した水はレモンの爽やかな匂いと味がしているはずなのに、毎回それをゆっくり味わう余裕がない。


普段ならばここで終わる行為なのだが、今日は学園がお休みで明日もお休みの連休。

そして今いる場所は、以前ガブリエル先輩が運ばれた彼の別邸の離れの寝室。

もちろん、ロードが横たわっているのはそこにある豪華なベットの上だ。



ここに来るのも、もう何回目になることか。




しかも明日は、ガブリエル先輩が『ヴァン・リオン』のモデルとして参加するかなり大きめなファッションショーの本番だそうで、ゆっくりできる時間がほとんどないとのことだった。

つまり、学校であればこまめに会えるものがほぼ丸一日会えないとのことで。

いやもう、何が言いたいのか?と言われるかもしれない。

俺もできれば詳しく言いたくないのだが、分かりやすく言えばこれは『食い溜め』だ。






「ごめん。いつもよりたくさんもらえたのはありがたいんだけど、やっぱりこれだけだと足りないかも」

「えっ!?」


一応トップシークレットな事柄であるが、ガブリエル先輩の家系は純粋な吸血鬼の血を受け継いでいる為、食事のような感覚で本来であれば血液、それに代わるものとして唾液などの精気を一定量取り続けなければ健康を損ない命にまで危険が及ぶとのことで。

恐らくガブリエル先輩の『運命の人』いや運命の血?となるであろう、ハニエル君が入学してくるまでの間、代理として彼に精気を提供しているのがロードである。


普段であれば唾液でも十分足りると昼休みと放課後のどちらか、もしくは両方に口の中を5分~10分ほど舐められる程度で終わっていたのだが。

彼の体力がかなり使用される週末はそれではさすがに足りないとのことで、毎週のように別邸に呼ばれては朝からとても濃厚な食事が行われていた。


「せ、先輩・・・・・そこ、いやっ」

「うん、ここが君のいい所だよね?」

「!!??」


汚れるからとあっという間に下半身の衣服ははぎ取られ、先ほど交わした口からの食事で高ぶらされたロードの熱をガブリエル先輩が遠慮なく食べる。

自分の声にしては高めの、普通の生活の中では発することがまずないだろう声をだすのが嫌で、慌てて両手でもって口を塞ぐがそれでも我慢しきれずにくぐもった音がもれ出ていた。


「んん・・・・ふっ・・・・んっ!」

「おいしい。もっと食べさせて」


さっきまで、ロードの口内を舐めていた熱い舌の動きを嫌でも感じてしまうとともに、まるでわざとのように耳に響く『食事』の音にロードの理性がめちゃくちゃにかき乱される。


「・・・・・・んんっ!!!」


ごくり、とガブリエル先輩の口の中で溢れた大量の『食事』を飲み込んだ音を聞きながら、ロードはもう一度その意識を手放した。








コンコン。


離れの扉を、黒い燕尾服に身を包んだ1人の執事が軽くノックする。

もう片方の手には、シルバートレイにワイングラスが2つと純度の高い葡萄ジュースが入れられたグラスのピッチャーが乗せられていた。


「ガブリエル様、ザガンにございます」

「入って」

「はっ!!」


ザガンが静かに扉を開き足音をほとんど立てずに中へと入ると、ベットの中で仰向けのまま寝息を立てるロードと。

ロードのすぐ横に座り込み、彼の顔を丁寧に冷タオルで拭いているガブリエルが視界に映る。


「お食事は、足りておりますか?」

「あぁ。彼のおかげで、お腹いっぱいだよ」

「それは良うございました。明日出席されるファッションショーは、ガブリエル様の出番がいつも以上に多いと聞いております。その分、お身体にも負担がかかるかと」


今回『ヴァン・リオン』のステージに立つそのほとんどのモデルがガブリエルとなっており、お昼の休憩時間以外はほぼステージに立ちっぱなしの予定である。

今夜も夕方から明日のリハーサルがある為、もう少し休んだらすぐに支度をしなくてはならない。


「いっそのこと、このお方を明日のステージにもお連れできればいいのですが」

「ザガンっ!!それだけは絶対にしないと、何度言えば分かる?」

「・・・・・申し訳ありません」



すぐさまザガンは深々と頭を下げた。


「ショーには何千・何万人もの客が足を運び見にくる。その中に、ぼくら側の生き物が混じっている可能性は大いにある。もし、グランドリーム家に対し好意的でない者達に彼が目をつけられでもしたら・・・・・・ッ!」


吸血鬼を祖先に持つ家系は、グランドリーム家だけではない。

誇り高き純潔の血を引いているとはいえ、グランドリーム家は途中何度も人と交わりその血は徐々に薄まってきている。

家系の中には身内で交わり続け、純潔の濃度をより強く保ってきた者達も一部におり、あまりに近しい血で交わり続けた結果、本来の寿命よりもずっと短い命だったり心身に異常が見られる者もかなり増えたとか。

そんな彼らの中では誇り高き純潔の血に汚れた人の血を入れたと、グランドリーム家を憎んでいる者もいる。


自宅や学園はガブリエルが通うと決まった段階で、一般の生徒に危害が及ばないようグランドリーム家が自分達以外の吸血鬼にだけ作用する結界を張ってある為大体は安心だ。

よほどの力を持った吸血鬼が、故意に暴こうとしない限りは簡単に破られる代物ではない。



「本当は、ずっと側に居られればいいんだけど」

「・・・・・・」


定期的にロードの『精気』を摂取するようになってから、だいぶ顔色はよくなり体調は回復しているようにも感じられるが、吸血鬼本来の主食はあくまで『血液』。

今の状態を人間で例えるなら、目の前に豪華な主食があるにも関わらずそれには手をつけずに、お菓子を食べ続けて空腹を一時的にごまかしているようなもの。

すぐにお腹は空いてしまうし、栄養価も血液に比べればずっと低い。


ガブリエルは己にとって最高の栄養価と味を持つロードの血液を、その首から直接飲むことを今だに拒んでいた。

その血が持つ強い魅力的な匂いに襲われながら我慢し続けるには、相当な努力と忍耐を要するというのに。


「今日も、だいぶ無理をさせてしまった」


ガブリエルの指がロードの汗で湿った前髪を彼の額から避けると、その額に口づけを1つ落とす。


「ザガン、出かけるからすぐに支度を!」

「どうぞ、こちらに」

「さすがに早いね、ありがとう。あと、彼のことも頼んだよ?」

「かしこまりました」


ガブリエルが部屋を出て行っても、ザガンはしばらく深々と頭を下げたままだった。


ガブリエルは明日の本番で使用するショーの会場へと向かう為、ザガンによって用意された衣服に完璧な仕様で着替え急いで会場へ向かう。

ステージに立つ前から、この仕事は始まっているのだ。


『食事』を終えたばかりなこともあって、急いでとは行っても優雅な振る舞いと笑顔を決して崩さないガブリエルはいつも以上に全身から溢れる輝きを放ち、側を通り過ぎたメイドや執事達が次々と目を奪われため息を零した。





夕方、ロードの目が覚め見上げた先にある見知った天井に気づくと慌ててベットから起き上がるが、いつも通りそこに『彼』の姿はすでにない。

先ほどまで『食事』の為に汗や何やらでベタベタドロドロしていた身体はこちらもいつも通りキレイに拭き取られさっぱりしている。

そしてロードの身体からは、気づけば『食事』の後に毎回香るようになった『彼』の匂いがフワリと鼻から感じるようになり、それだけで思わず顔が熱く反応してしまう。


「俺ってば、また寝ちゃったのか」


筋トレやランニングを取り入れるようになってから少しずつ体力も向上しているはずなのだが、毎回体力・気力ともに限界を超え意識を手放していた。

ガブリエル先輩によって精気を吸われている為、どれだけ鍛えようとその直後の身体は本能で失われた精気を回復する為眠りに入っているのだが、それでも同じ男として情けないと感じて落ち込んでしまう。


「おはようございます、ロード様」

「お、おはようございます!ザガンさん!」


寝起きの第一声は必ず同じ執事からで、もういい加減顔も声も覚えたが寝起きに気配を何も感じないまま真横にいきなり来られるのは心臓に悪くて仕方がない。


「どうぞ、葡萄ジュースでございます」

「ありがとう、ございます」


この葡萄ジュースはザガンさんお手製だそうで、何でも自宅の庭には趣味で作った趣味というにはあまりにも立派すぎる葡萄園があるとか。

濃厚な葡萄の果実100%は甘さだけでなく酸味も感じられ、後味スッキリなとても飲みやすいドリンクだ。

もしかして、その葡萄でワインとかもすでに作って限定販売してるかもしれない。


「落ち着かれましたら、わたくしめが馬車でお送りさせて頂きます」

「いつもありがとうございます!あの、ガブリエル先輩は?」


答えは分かりきっているが、一応確認。


「ガブリエル様でしたら、あなた様が寝入った少し後で明日のショーのリハーサルへ行かれました」

「・・・・・そう、ですか」


ガブリエル先輩の自他ともに認める大ファンである、チャミエルが毎回大小なんらかのショーがあるたびにその感動をロードとラジエルに大興奮で伝えてくれるのだが、ロードはこんなに側にいる割にはまだ実際にガブリエル先輩がモデルとしてステージに立つ姿を見たことがなかった。

何度か、少しでいいから見てみたいとガブリエル先輩にそれとなく希望を伝えたことはあったのだが、『親しい人から見られてると安心して気が抜けるし、やっぱり恥ずかしいから君には見せたくないかな』と笑顔でお断りをされている。

親しい家族や友人が側にいると安心して気が抜けるのは、少し分かるような気がした。

ただでさえガブリエル先輩の立つステージは、学園祭などの規模では到底なく何百何千人のファンとその世界のトップスペシャリスト達がこぞって足を運ぶような、ロードからしたら想像も追いつかないような世界なのだ。

些細な気の緩みでも許されない緊張感溢れる世界において、ほんの一瞬の隙が命取りになりかねない。

それでも、実は一回だけこっそりチケットを買おうと申し込んだことがあったが、どこからその情報が伝わったのか、あっさりばれて当日ロードが動けなくなるほど『食事』で精気が食べられてしまった。


確か、明日も『ヴァン・リオン』の新作のファッション、アクセサリーだけでなく限定品として一部にだけ販売していた激レア商品をお披露目し、当日のみ販売するらしいとかなんとか。

ショーの名前は『レジェンド  オブ  ヴァン・リオン』だったっけか?





「おかえり、ロード!お前にガブリエル先輩から招待状が届いてたぜ?」

「え?」


執事・ザガンに寮まで無事に送り届けられ、部屋の扉の奥で出迎えたルームメイト・ラジエルより一通の手紙が渡される。


ちなみに、ラジエルには当然ガブリエル先輩の血筋のことは伏せており、ガブリエル先輩の別邸へ行くのは彼のカットモデルやヘアーアレンジのモデルになってる為と伝え、バレるとファンに殺されるから黙っててくれるようにお願いしている。

たまにカットモデルやアレンジのモデルもする為、全部が嘘なわけではない。


ラジエルから渡された手紙に書かれたその優雅な字は、確かに見覚えのあるガブリエル先輩のものだった。


「これって、まさかレジェンド  オブ  ヴァン・リオンへの特別招待状?」


封の中には、金色に光る立派な台紙で作られた長方形のチケットが。

昼間会っていた時は、そんなこと何も話していなかったのに。


「!!??」

「どうした?ロード、顔真っ赤にして」

「・・・・・・な、なんでもない」


うっかり『昼間会っていた時』のことが鮮明に蘇って、熱くなった顔をラジエルからそらす。


「あ!ラジエル、明日俺出かけてくるから!」

「なんだよ、1人でか?」

「仕方ないだろ!招待状はこの1枚だけなんだから!」

「珍しい・・・・・ロードが分かりやすくはしゃいでる」


ご機嫌な様子のロードは、スキップこそしてないもののかなり上機嫌にしている。

教室や廊下でクラスメイトを見ながらニヤついてたり、思い出し笑いのように突然笑い出したり叫んだりすることはしょっちゅうなのだが。




ロードは寝間着に着替えると、寝るには少々早い時間にも関わらず布団の中へと潜り込む。

招待状には小さなメモが添えられ、そこにはショーが始まる前に会場近くで直接会いたいとのメッセージと、その待ち合わせ場所が書かれていた。








 
「・・・・・すごい。まだ開演まで結構あるのにディ○ニー並みに人が溢れてる!」


老若男女問わず、自分なりのファッションを表現した個性溢れるオシャレを楽しんでいる人達が、すでに大興奮で盛り上がっていた。

その顔は皆これから始まるショーへの期待に溢れ、キラキラと輝いている。


「失敗したな、これ。地味過ぎてむしろ目立ってる気がする」


まさかの普段着で来てしまった、自身のこのオシャレハイレベルな世界の中では恐ろしく地味に移るシンプルなデザイン上下に、ロードはもう少しだけオシャレしてくればよかったと後悔した。

黒い半袖シャツに白に近い薄いグレーのパンツであるが、前にガブリエル先輩から『食事』で汚してしまいロードには似たようなものを探してきたと後からプレゼントされた衣服だった。

だが、実は『ヴァン・リオン』のカジュアル部門で作られている期間限定で販売していたブランドシャツであり、体のラインにほどよく沿った、ややスリムなシルエットでドレスシャツ同様の上品さを放ち、先程からその価値がわかる者達からは振り返られひっそりと注目を浴びていることをロードは知らない。


「やぁ、待たせたね。ロード=シュトラーゼくん?」

「・・・・・あの、どちら様でしょうか?」


ロードの目の前には、太陽の下よりも月明かりの光がとても似合いそうな青白い肌と、血のように深い赤色の瞳をし足下まである長くまっすぐな角度によって銀色の光を放つ白髪をした、明らかに普通ではない見た目の美しい容姿をした長身の青年だった。








「え?彼が学園内のどこにもいないって?」


その知らせがロードの近辺警護も任されているザガンからガブリエルへと届いたのは、朝早くからの本番直前リハーサル終え休憩に入ってすぐのことだった。


「それで、彼は一体今どこに?」

「それが・・・・・」

「なんだって!?この会場の近くに来てる?」


会場周辺へ入るにも、入り口に厳重な警備が敷かれたチケットチェックを通らねばならず、部外者が会場近くに入ることも大変に難しくなっているのだ。


「警備担当の者によれば、ガブリエル様から直々に送られたチケットを持っていたそうで、その筆跡もガブリエル様と一致していると」

「バカなっ!!ぼくはチケットを彼に渡してないし、よりによって年間で一番人が集まるレジェンド  オブ  ヴァン・リオンに呼ぶわけがない!!」

「どうなさいますか?」


近辺警護とはいってもその動向を見守っているだけで、ロードの行動の邪魔をしたり誘導したりしたことはこれまでも一度としてない。

それは彼の意思を何よりも大事にしたい、ガブリエルからの命令でもあるのだが命の危険には変えられない。


「先程、まだ未確認ですが警備の者から」

「アモンが!?」



アモン=サタナキア。

グランドリーム家の祖である純血の吸血鬼のメフィストフェレス公爵と同じ純血であったサタナキア公爵の末裔であり、その血を身内の中でさらに純度を高めていった家系の次期当主である。

直接の面識は幼い頃しかないものの、その時感じたガブリエルへの殺意は未だに記憶に残されていた。



「ザガン、ハラリエルをここに」

「良いのですか?」

「緊急時の為にと母上が用意された影武者なのだろう?今使わずに、いつ使うと言うんだ!念の為にとリハーサルは全部参加させてる。お前はハラリエルのサポートを!」

「かしこまりました」


ザガンに必要な指示を手早く終えると、ガブリエルはロードの元へと急いだ。










「ぼくは、アモン=サタナキア。どうぞ、お見知りおきを」

「ど、どうも」


見るからに妖しさ、いや怪しさか?しか感じられない、二次元では割と多い白髪の長髪は現実で見るとかなり違和感があることを改めて感じてしまう。

上下ともに黒い長袖にパンツ、靴まで真っ黒なその姿は彼の肌や髪の白さや瞳と唇の赤さをより引き立たせていた。


「もう分かってるとは思うけど、君を今日ここへ呼んだのはぼくなんだ」

「えぇっ!?」


どうしよう、全く分かってなかった!

そもそも、名前聞いたところであなたはどこの誰なんですか?


いや、なんとなく想像はつく。

あの人みたいな白い肌に赤い目、何よりハイクオリティーな美形と来ればつまりアレだろ?

ガブリエル先輩に恋慕してる同じ、種族の方辺りだろ?

愛され大切にされるハニエル君に嫉妬して、アイツの横に相応しいのはこのぼくだ!的な横やりして最後には馬に蹴られるやつだろ?

んでもって、フラれた後からその友人とか従兄弟とか執事辺りが出てきて実はずっと慕ってましたとかってカップリングされるやつだろ?

さらに言えば、そっちの方がうっかり人気が出て続編が本編抜いちゃう感じのやつだろ?

つり目で勝気な顔立ちをしてるから、彼が受けで大人で包容力がある攻めに甘やかされてツンデレ起こしてエロスでは意外とトロットロになっちゃうやつだろうっ!!


「おい、何をニヤニヤと下品な顔をしている?お前自分の立場が分かってないただのバカなのか?」

「・・・・・・はっ!すみません!単行本が売れに売れまくってドラマCD発売からの深夜アニメ化まで先取り萌してました!」

「はぁ?あのガブリエルのお気に入りと聞いて会いに来てみれば、容姿や匂いも大したことないばかりか頭も相当に下等なようだ」

「!!??」


ガシッと、アモンの白い手がロードの右腕を掴みそこに爪を立てる。


「い、痛・・・・ッ!!」


男にしてはだいぶ長めの赤い爪先がロードの皮膚に食い込み、そこから赤い血が流れでた。

掴まれた腕を振りほどこうにも、見た目はロードとそんなに変わらない細腕のはずなのにそこから生み出す力はかなり強くびくともしない。


「は、離せ・・・・・ッ!お前は勘違いしてる!俺は一時的にあの人の側にいるけど、あの人の特別になるのは俺じゃない人だ!」

「確かに、こんなどこにでもいそうな匂いじゃ、その血の味も大したことないんだろうな?」


さっきから言われてることは、モブであれば当然のことだ。


あらゆる意味で普通。

特別でない、その他大勢。


当たり前だ、特別な存在はこれから学園に転入しガブリエル先輩と出会うのだ。


「なんだ、まさかお前まだ噛まれてもいないのか?」

「!!??」


アモンがロードのもう片方の腕も掴むと、その顔をぐっとロードに近づけ首筋の匂いを嗅ぐ。


「可哀想にな。飲む価値もないほど、お前の血は不味いらしい」

「う、うるさいっ!いいんだよ、俺は!ただの繋ぎなんだから!!」

「繋ぎ、ねぇ?」


ロードの首には今も『刻印の首輪』がその存在を強く主張している。

先程からロードの首に近づこうとするアモンに対し、ある距離までいくとバリアのようなものが現れアモンを拒絶していた。

これまであのガブリエルがこの首輪を使用したのは、目の前の人間が初である。

それなのにまだ吸血をしていないとは、何を勿体つけているのかはしらないが。

それだけ大切にしている己の『所有物』が他者に傷つけられたとしたら、どれほどあのキレイな顔を屈辱に歪めさせることができることか。


「光栄に思うがいい!我がサタナキア家の御曹司であるこのぼくに噛まれるのだ!」

「・・・・・・ッ!!」


ロードの全身は、訳の分からない嫌悪感に襲われていた。


なんだこれ?


顔だけは一級美形の存在が間近にいるっていうのに、萌えるどころか触れられたところから鳥肌が立ち、気持ち悪さに吐き気まで同時に襲いかかってくる。

アモンの腕に掴まれてた腕の柔らかい内側の部分にアモンの鋭いキバが立てられ、そのあまりの痛みに意識はすぐさま失った。


「・・・・ちっ!やはり不味いな。やはり下等な人間の血が混じったグランドリーム家の人間が選ぶ相手は、それ以上に下等な血を持っているようだ!」

「彼から離れろっ!!」

「!!??」


叫び声とともに、ロードの腕から口を離したアモンの身体にその皮膚を大きく切り裂く激しい風の刃が襲いかかった。


「早かったな!だが、もう用は済んだ。今日のはただのご挨拶だ!」

「ロード・・・・待てっ!アモン!!」


その美しい身体全身に鋭く深い切り傷が刻まれたはずが、アモンが懐から赤い液体の入った小さな小瓶を飲み干すと一瞬でその身から傷はなくなる。

そして、ガブリエルが腕から血を流すロードに気を取られたほんの一瞬でその姿を己の影の中へ溶け込むようにして地面の下へと消えた。


「くそっ!!もう少しぼくが早くかけつけていれば!」

「・・・・・うっ!」

「!?」


ガブリエルの腕の中にいるロードは苦しそうにうめき声をあげ、その全身からは脂汗が吹き出ていた。


「まさか、毒を?」


ロードの腕にはアモンの爪とキバによる傷が無数つけられており、その傷口から皮膚が深い紫色に変色し顔色は血の気が失われている。


「・・・・・・ごめん」


その傷口に躊躇うことなく唇をつけると、ガブリエルはそこに注がれた毒とともにロードの血液を吸い取り地面へと吐き出した。

かなりの精神力を使わねばその血が本来持つ濃く芳醇な匂いと味に意識を持っていかれ、欲望のままにその首に思いきり噛み付きたくなる衝動をなんとか抑える。

毒入りの血でさえ、口に含んだ瞬間に思わず飲み干したくなるほど魅力的な血なのだ。


「・・・・・・っ!!」

「!!??」


それでも苦しそうなロードの顔を見ては気持ちを切り替えて、再び傷口から毒を吸い出す。

吐き出しているとはいえ直接毒を口に含んでいるのだから、その毒の影響は確実にガブリエルを蝕んでいる為、その体内の毒をさらに強力な毒を体内に作り出して消していく。

魔力はかなり使うし負担も大きいが、これが一番早くて確実に解毒できるのだ。


「よかった・・・・顔色は、戻ってきたね」


苦しそうなうめき声はおさまり、顔色も血色がだいぶよくなっていた。


「せんぱ、い?」

「!?」


意識の戻ったロードの目が半分ほど開き、ガブリエルの頰にまだ小刻みに震える手でもってそっと触れる。


「・・・・・つめ、たい」


ロードがいつも触れていたガブリエルの肌は温かかった。

時折冷たく感じる時はーーーーーーー。



「疲れてるんじゃ、ないですか?また、無理したんですね」



力なく、ロードが笑う。



「ロードく・・・・・ッ!?」



次の瞬間。

ガブリエルの唇に冷たい温もりが触れ、口の中におずおずと遠慮がちな舌が入り込んだ。

それまでずっと強固な意志で耐えていたはずの心の壁はあっさりと崩され、ロードの後頭部に手を回したガブリエルがそのまま噛み付くようにして熱い口づけを何度も何度も角度を変えながら情熱的に交わす。



カチャリ。



「・・・・なに?」

「なんでもないよ。君はただ、こっちに集中していればいい」

「んんっ!!」


それは、ロードの首につけられていた『刻印の首輪』の鍵が外された音。



そして、ガブリエルの瞳からは静かに涙がこぼれていた。




そのまま意識を失ったロードはザガンによって自室の寮へと送り届けられ、ガブリエルはショーが始まっているステージへと戻りかつてないほどの輝きと美しさでもってレジェンド  オブ  ヴァン・リオンにとって例年にない大成功を収めた。



「大丈夫か?太陽の暑さにやられて、ぶっ倒れたんだって?」

「・・・・・へ?あ、あぁ、そういうことになってんのか。うん、もう大丈夫」


その日の夜、目覚めた時にはあの吸血鬼にやられた傷跡は全く残っておらず、いつのまにか外されていた『刻印の首輪』の代わりに日焼けの差がでてそこだけ周りより白い肌のリングができていた。

ラジエルによればロードをこの部屋まで連れてきたのは執事ザガンであり、ガブリエル先輩は無事にショーに参加したと聞きホッとしていた。


明日、また学校で会った時にアモンのことはガブリエル先輩に聞いてみよう。

彼が今後その敵意をぶつけるとすれば、ガブリエル先輩の運命の人となるハニエル君だ。

どんな人なのかを聞いた上で、何か自分にできることはないか対策を練ろう。









そして、ついに運命の日がやってくる。



「みんな、今日から我がクラスでともに学ぶことになった新入生を紹介する!!」

「ハニエル・ハルモニーと言います。この学園のことはまだまだ分からないことだらけなので、どうぞこれからよろしくお願いします!」



キタァァーーーーーーー!!!




担任が立つ教壇の横には、ハニーブロンド色の柔らかい髪質をしあちこち跳ねている髪と、琥珀色の大きなクリッとした瞳をした明るく元気な表情のハニエル君が眩しい笑顔で立っていた。


待ってた!!

首を長くして、君のことを待ってたよハニエル君!!


「みんな、ハルモニーと仲良くな!あと、席はグレイシーズの隣が空いてるな。グレイシーズ、頼んだぞ!」

「・・・・・・あ、はい!」


なんと、ルームメイトだけでなく教室でも隣同士になったのはラジエルだった。


「えっと、グレイシーズくん。これからよろしくね!」

「・・・・・・お、俺はラジエルだ。よろしくな、ハニエル!」



ニッコリとお互いに爽やかな笑顔を浮かべながら、2人は挨拶とともに握手を交わした。


うんうん、いい場面だ!

いよいよここからスタートするんだな、友人からのBOYS  LOVEが!



「あと、シュトラーゼ!お前昼休みに、ハルモニーを生徒会室まで案内してやってくれないか?」

「・・・・・へ?お、俺がですか!?」


まさかの名指しで指名!?

こういう時は、攻略相手でもあるラジエルかチャミエルにお願いするんじゃないのか?


「お前が一番うちのクラスで生徒会役員と親しいからな。適任だろ?」

「て、適任って先生」


確かに、不本意ながら生徒会全員と直接の面識がある上にガブリエル先輩にいたっては毎日会って普通の先輩後輩だけじゃないこともけっこくかなり致してる、今考えてもよく分からない関係ですけども。


「ごめんね、君の貴重な時間なのに」

「い、いや全然大丈夫!むしろ光栄です!」


しゅん、と落ち込んだハニエル君も可愛い!


「ロードが行くなら、俺も一緒に行くよ!」


ラジエル、グッジョブ!!

さすがはハニエル君の未来の相棒!!

何かあったら頼りにしてるからな、リーダーレッド!!


「それなら、チャーミーも一緒に行く!あ、ボクはチャミエルって言うの♪チャーミーって呼んでね!」

「ちゃ、チャーミーくん?よろしくね!」

「ブブーー!!チャーミーって呼んでくれなきゃ、チャーミーすねちゃう!」


頰を可愛らしく膨らませたチャミエルに、ハニエルは苦笑しながらすぐに『チャーミー』と言い直し、チャミエルはすぐさまご機嫌な様子であれこれと話しかけている。


ちなみに席順はラジエルの前がロード、ロードの左隣でありハニエル君の前がチャミエルだ。


「あ、それと、シュトラーゼ!お前にもう一つあった!放課後伝えたいことがあるから、教官室に来てくれ」

「!!??」

「わ、分かりました!」


来た来た!!

このタイミングなら、間違いなくハニエル君絡みの寮の部屋移動のことだろう。


「ロード、お前何かやらかしたのか?」

「いや、やらかしてはないけど。多分大したことじゃないって」



そうだ。

ガブリエル先輩に昼休み生徒会室で会えた時にでも、昨日のことをさっそく聞いてみよう。


「ほら、ハニエル。今日は俺の教科書見せてやるから、もっとこっちに寄れって!」

「うん!ありがとう、ラジエル!」

「!!??」



おぉぉぉーーーーー!!!

さすがは面倒見のいい、兄貴ポジションラジエルッ!!

さっそく萌になる構図をありがとう!

今日からハニエル君でより素晴らしいBLが萌え放題かと思ったら、笑いが止まりませんよ、へっへっへ!

それに昼休みの生徒会室では生徒会役員達がハニエル君に初お目見えの、ゲームならスチル絵有りなスペシャルイベントじゃないか!!


きっと、ガブリエル先輩もすぐにハニエル君が気にいることだろう。


「・・・・・・・」


ハニエル君には、どんな顔で笑いかけたりするんだろうか?

いや、きっとそれはもう愛に溢れた笑顔で見つめることだろう。

俺が見たことのない顔を向けて。




ズキン。




「・・・・・ッ!?」


いや、なんでズキン?

ここは萌えるところだろう!

あまりの嬉しさに効果音がうっかり誤作動しちゃったんだな、きっと。







そして昼休み。

ロードとハニエル君、そしてラジエルにチャミエルの4人は普段一般生徒が立ち入り禁止区域である生徒会室へと訪れていた。


「普段は来ちゃダメって、すごい場所なんだねここ!」


この学園のことは初めて尽くしのハニエル君は、キョロキョロ周りを不思議そうに見渡しながら興味津々だ。


「今回は担任にもらった許可章があるからなんともないが、間違って普段この場所に踏み込もうならそこに描かれている防犯用の魔法陣が作動してペナルティ食らうから気をつけろよ?」

「キャハ☆そうそう、うっかりしてると丸焦げのハニートーストちゃんになっちゃう!」

「き、気をつけます」

「・・・・・・・・」


そうだったんだ。

俺もそれ、全然知らなかったよ。



コンコン。

一呼吸置いてから、生徒会の扉をノックする。


「失礼します!1年のシュトラーゼです!ハルモニー君を連れて来ました!」

「・・・・入ってこい」


静かな、それでいて威厳のあるこの声はミカエル先輩。

その言葉とともに、扉が1人でに開いた。


「す、すごい!」

「ここが選ばれし者だけが入室を許された、生徒会室!!」

「チャーミー生徒会室入るの初めて!ドキドキしちゃう!」

「し、失礼します」


はしゃぐチャミエルと、案の定誰よりも興奮しているラジエルをなだめながらハニエル君とともに部屋の中へ入ると、そこはまるでどこぞの貴族の応接間かなにかのような豪華な作りをした空間が広がっている。

床には真紅に金の刺繍がびっしりと施してあるアンティークな雰囲気のじゅうたんが敷かれ、真ん中には重厚感のある焦げ茶色のこれまたアンティーク調のテーブルにソファが並んでいた。


「やぁ、よく来たね。今煎れたばかりのお茶でもどう?」

「キャーー!!ガブリエル先輩!!」

「!?」


入り口付近で部屋にある数々の高級家具達にあっけに取られていた3人とは違い、普段から同じかそれ以上に最高級な一級品に囲まれて生活しているチャミエルは普段通りに、むしろ憧れの君であるマドンナ・ガブリエル先輩に会えたことで周囲に花が飛ぶ勢いで喜んでいる。


「・・・・・・・」

「?」


ガブリエル先輩、今目が合ったと思ったのにそらされた?


「俺がハルモニーの同行として指名したのは、ファルシオ・・・・・ロード=シュトラーゼだけだったはずだが?」


豪華なソファの奥にある部屋から、不機嫌を隠そうともしないミカエル先輩が小さなため息とともに現れた。


「は、初めまして!ハニエル=ハルモニーです!」


ハニエル君!姿勢正しく深いおじぎとは、なんて礼儀正しい!

俺なんて思わず、いつもの癖で逃げようとしてしまったよ。

だって未だにミカエル先輩の手先が密かにわきゃわきゃ動いてるしね。


「俺は生徒会長の、ミカエル=エルドラード。あいにく副生徒会長のラファエルは不在だ。そこでお前達にお茶を煎れているのが、書記のガブリエル=グランドリーム。そして、俺の後ろにいるのが会計のウリエル=レゴラメントだ」

「・・・・・・・」


ミカエル先輩の後ろには、ハニエル君への挨拶も無言のまま頭を軽く下げるだけにとどめたウリエル先輩が静かに佇んでいる。


「今回、転入早々の君に我が生徒会室まで来てもらったのは、理事長から直々に君の面倒を見てくれとの連絡が先日あったからだ。君と理事長との関係は知らないし興味もさしてないが、今日から君は生徒会見習いとして毎日放課後ここへ来ることを許可する」


「え?」

「!!??」



出たッ!!

先に入学してた俺ですら顔すらまったく知らない理事長とか学園長となぜか関わりがあり、BL主人公が生活していく中でピンチになるとどこからか現れ助けてくれる摩訶不思議な生命体、じゃなくて絶対的な権力者!!


「ふーーーーん、ハニーは理事長さんとお知り合いなの?」

「まさか!この学園の理事長さんから確かに途中入学を許可する旨の連絡は紙面でもらったけど、直接会ったこともないよ!」


そうそう、姿形が分からないのがお約束ってね!

でも、大抵は主人公の近くにいてその生活を温かく見守ってるはずなんだけど、そのうち新たなフラグとともに現れるんだろうか?


このフラグとはもちろん、BLフラグ。


ダンディなイケメンおじさんパターンか、まさかどころか実際のゲームでもあった同級生や先輩に紛れ込んでのパターンか、事務員や清掃業者に扮してのパターンか。


その可能性はうっかり忘れていた。

明日からもっと校内を体験して、怪しげなイケメンをチェックしておこう。

攻略相手の最低条件は、美形・イケメンだ。


「とりあえず、君は今日の放課後からガブリエルの下に着いて彼の仕事をまず徹底的に見習え」

「よろしくね、ハニエル君」

「!?」

「わ、分かりました!ガブリエル先輩、これから精一杯頑張りますので、ご指導よろしくお願いします!」


ガブリエル先輩の慈愛に満ちた優しげな眼差しが、元気よく挨拶をするハニエル君へとまっすぐに向く。


「今日の夕方、またここへおいで。おいしい紅茶とお菓子を用意して待っててあげるから♪」

「ありがとうございます!」

「ハルモニー、お前に記入してもらう書類が山ほどある。下らない寄り道は一切厳禁だ」


ミカエル先輩は手に抱えた大量の書類をキレイに揃えると、その束を脇へと勢いよく置きハニエル君へと向き直る。


「わ、分かりました!」



おぉ!!

なんかファルシオン事件からかなりキャラが総崩れになってたけど、やっぱり我が校の生徒会長!!

かっこよく決めポーズを取り、ハニエル君も緊張感からぴしっと背筋を伸ばしてミカエル先輩と見つめあっている。


「では、この話はここまで。各自、自分のクラスへ戻って次の授業の準備に取りかかれ!」


ミカエル先輩の言葉とともに昼休み終了のチャイムが鳴った。

この後20分後にもう一度チャイムがなり、午後の授業がスタートする。

割と余裕があるのは、校舎が広すぎて移動に時間がかかってしまうが為の配慮だ。


「おい、そこ!いつまで茶菓子を食べている!ファルシオン!お前はちょっとここに座っていろ!」

「え?」

「だって~このお菓子って、あの有名パティシエが限定品で出した星屑のショコラじゃないですか~♪チャーミーうっかり予約し忘れて食べ損ねてたんです☆」

「おい、それは俺がファルシオンの為にわざわざ・・・・って、菓子をつまむその手を止めろ!!」

「こ、これ!!もしかして、あの伝説の勇者がのぞいたと言われる伝説の鏡!かもしれないシリーズの中でもレアもののやつじゃないですか!?」

「ふむ。その価値が分かるとは、それならばこちらも見てみるか?」

「あ、あの!みんな、そろそろチャイムがなるんじゃな・・・・・うわっ!な、何?あれ?いつのまにか、僕の膝で知らない人が寝てる?」


厳かな雰囲気だったはずの生徒会室はあちこちで騒がしくなり、ハニエル君に至っては本当にいつのまに戻っていたのか、ラファエル先輩がちゃっかり天使の膝枕でお休み中だ。



これ、俺の時との扱いの差がものすごいな。

やっぱり本物の主人公は格が違うってことか。


「さっきまでの静けさが、嘘のようだね」

「ガブリエル先輩!」


狙ったわけでもないのに、自然とガブリエル先輩と2人きりになれた。


「あの、昨日はありがとうござ・・・」

「これまで、本当にありがとう」

「へ?」


ニッコリと美しく微笑むガブリエル先輩の眼差しは、今もそこに向けられている。


「君のおかげで、ようやく運命の血を持つ彼に出会えたよ」

「!?」

「これまで色々お世話になったけど、君の貴重な時間をもう僕のために奪うことはなさそうだ」


そうだ、ハニエル君はガブリエル先輩にとっての待ちに待った『運命の人』。

それが正しい形だ。


「・・・・・・それは、よかったです」


なのに、なんでだろう?

なんで俺はハニエル君を見つめるガブリエル先輩の横顔を見ているだけで、こんなにも胸が苦しくなっているのか。


これから、ハニエル君とのBLライフが始まるのだ。

そこに俺みたいなモブが紛れ込んでいたら、じゃまにしかならない。


「俺、次の授業の準備があるんで、そろそろ帰りますね!」

「!?」


なぜか、この場に居続けることが辛くてガブリエル先輩に頭を下げると一人生徒会室を早足に出て行く。

後ろからファルシオン!と叫ぶミカエル先輩の声や、待てよ、ロード!と慌てて追いかけてくるラジエルの声も聞こえたがなぜか振り返れない。


「ガブリエル先輩、何かあったんですか?なんだか、すごく悲しそう。先輩の顔見てたら、チャーミーもなんだか悲しくなっちゃいました。グスン!」

「・・・・・・ッ」


生徒会室を出て行くロードの背中を見つめていたガブリエルの大ファンとしてこれまで何年も追いかけてきた中で、一度も見たことがないその表情にチャミエルが思わず涙を浮かべる。


「ごめんね、なんでもないんだ。君には涙よりも明るい笑顔の方が似合ってるし、そっちの方がずっと魅力的だよ。ほら、笑って?」

「キャハ☆うれし~~!」


普段通りの穏やかな笑顔に戻ったガブリエルはチャミエルの涙を指で拭き取ると、たった今扉を出て行った2人分の1つは口もつけられていないコップとソーサーを生徒会室内の台所へと静かに片付けた。







夕方、ロードが担任の元へ行けば内容はやはり部屋の移動で、同室のラジエルにも伝えたら、嫌なら断っても大丈夫なんだぞ?と心配されたのち、ありがたいことに掃除も含め明日の夕方から手伝ってくれることになった。

今夜からでもよかったのだが、夕方にたまたま見かけたハニエル君の首に見覚えのあるチョーカーを見つけた途端、すごく嬉しいはずなのになぜか胸の奥がざわざわしてきっと色んなことが起きて疲れてるんだと自分に言い聞かせながら早めにベッドに潜り込む。


『可哀想にな。飲む価値もないほど、お前の血は不味いらしい』


きっと、ハニエル君の血は凄く甘くておいしいに違いない。


「・・・・・・ッ!!」


何を考えても理由の分からないざわつきがロードの心をぐちゃぐちゃにかき乱す為、無理やり目を瞑り毛布に頭からくるまりながら眠りへと向かう。

だが、本気で中々眠れずしまいには苛々しだし布団の中で暴れ叫び出したロードにうるさい!とラジエルに怒られ、眠れないならこれでも飲んどけ!と渡されたホットココアを飲み干しようやく深い眠りについた。


俺はいったい、どうしてしまったんだろうか。
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