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転・個人恋愛ルート、続編
ウリエルルート 2
しおりを挟む「・・・・・ん」
気持ちのいいまどろみからゆっくりと目覚めると、目の前にはさっきまで真剣ににらめっこしていた魔法歴史書の教科書とノートが広げてある。
「よく寝ていたな。昨夜、徹夜でもしていたのか?」
「!!??」
慌てて飛び起きたロードの先にいたのは、くいっとメガネを鼻の上方にずらしその下で鋭い切れ長の琥珀色の瞳をした、ウリエル先輩。
「す、すみません」
「問題の答え合わせをしている間、少し休んでいろと言ったのは俺の方だ。君は気にしなくていい。いや、気にするならこっちを気にした方がいいな・・・・ついてるぞ?」
「え?」
ぐいっと、ロードの後頭部に手を回したウリエル先輩は自分の方へロードの顔を引き寄せると、唇から漏れていたよだれを反対側の親指で拭いとった。
「あ、ありがとうございます!」
「今度から、うたた寝する際は口元にタオルでも置いておくんだな」
「・・・・・そうします」
だらしない寝顔をバッチリ見られてしまったが、普段からそれ以上に恥ずかしい顔をこの人には見られていることを考えるとなんとも複雑な気持ちになる。
そして、なぜ今ウリエル先輩の私室にて2人きりでいるのかと言えば。
「今日はずいぶんと調子がよかったようだな。50問中、45問の正解だ」
「やったっ!最高得点ッ!!」
そう、学年首席どころか歴代でも片手に入るくらいの頭脳を持つウリエル先輩に勉強を見てもらっており、毎日勉強の最後には50問のテストが出されていた。
ウリエル先輩がロードの勉強を見ることを提案したのは、ウリエル先輩から。
好き放題ロードの耳を触らせてもらうだけでは悪いと、君の役に立つことをさせて欲しいとまさかの頭をウリエル先輩から下げられてしまい、ロードがうんと頷かなければ腰から直角に45度曲げた頭をどうしてもあげなかったのだ。
成績が決していい方ではないロードからしても大変有り難い申し出だったのだが、後から追加したもう1つの条件が何よりの問題であり。
「今回は不正解が5問だから、5分だな」
「は、はい」
「5分なら、脱がなくても大丈夫か?」
「た、たぶん」
「なら、こっちに来い。今日の復習はコレが終わってからだ」
「・・・・・はい」
ロードは両手で顔を覆いながら、静かにウリエル先輩の足の間へとちょこんと座りこむ。
毎度のことだが、今だにこの体勢は慣れない。
「触るぞ?」
ウリエル先輩がロードの耳元で囁き、ロードは黙ったままこくんと縦に首を振った。
すでにロードの心臓は早鐘をうっている。
大丈夫だ、今日はたったの5分!!
たったの5分なら、すぐに終わるっ!!
そして、ウリエル先輩の指がそっとロードの耳に触れた。
「!!??」
耳の細かい形や穴を、5本の指がそれぞれゆっくりと違う動きをしながらなぞっていく。
「・・・・・あっ」
同時に、ペロリと湿った舌がロードの片方の耳の穴を舐めた。
「んんっ・・・・・ッ!」
ざわざわ、さわさわ、クチャクチャと耳元で起こる全ての音が脳の奥に直接響き、その度に背中と下半身がぞくぞくと波のように強弱をつけながら鳥肌がたって仕方がない。
「せ、せんぱ・・・・・はぁっ」
「まだ、3分だ」
「!?」
まだあと2分もあるのかよっ!!
「やはり、脱いでおくべきだったな。このままだと汚れる」
「!!??」
両耳を襲っていた快感が突然消えたかと思うと、ウリエル先輩の片方の手がロードのお腹の辺りに移動しロードのズボンのズボンのジッパーを下ろす。
「替えのパンツはこの間君が置いていったのがあるから、安心しろ」
「い、いや・・・・・待って、あぁっ!!」
ロードの片耳にはウリエルの指が、もう片方の耳にはウリエルの舌が差し込まれ、下半身に伸びたウリエル先輩の空いている側の指がそこに触れると、あっという間にロードの熱が果てた。
「・・・・パンツ、洗ってきました」
もうこれで、何回めになるのか。
「テストの復習をするから、そこに座れ」
「は、はい」
説明の必要はないかもしれないが、問題を間違えた数×1分の罰ゲームとしてウリエル先輩にロードの耳を触られるというのが、もう一つの条件だった。
ちなみに、こっちの条件を出したのはロードの方。
どうせ触れられるなら、自分が回避できる方のがいいだろうと。
いつどこで急に触れられるか分からない怖さより、覚悟を決めての方がマシなんじゃないかという安易な考えで決めてしまったのだが。
まさか、毎回勉強の度に50問もある小テストをわざわざ手作りで前日に用意し、生徒会の仕事と自身の勉強でとても急がしいはずなのに、毎日のようにロードの勉強を見てくれる時間を少しどころでなく作ってくれるとは思ってもいなかったのだ。
てっきり、多くても1週間に一回程度で済むと楽観的に考えていたのに。
しかも、この小テスト。
かなり実用的で、真剣に勉強しないとほとんど分からないという基礎+応用編まで用意された本格的なもの。
おかげさまで春先から比べるとロードの成績は一気にうなぎ登りで急成長し、担任から不名誉なれど冗談とはいえカンニングを怪しまれたほどだ。
「ここは教科書のこの部分に載っている。言葉だけで覚えるよりも、国の背景を理解しながらの方が覚えやすい。資料集のこの部分がそれに該当するから、後で何度か読んでおくといい」
「・・・・ありがとう、ございます」
「どうした?まだ溜まってるのか?」
「ち、違いますっ!!」
ロードの顔が一気に赤く染まる。
最初の頃、それはもう問題の意味さえ分からないほどだったロードの回答は半分以上にバツがつけられ、毎日30分前後あの耳攻め地獄が続いていた。
30分。
あのゴッドハンドによる容赦のない耳攻めが30分だ。
どれだけ快感の波を感じないよう別のことを必死に考えて意識を散らしてみたり、限界まで我慢しようとも毎日のように何度も襲われればひとたまりもないわけで。
『はっ・・・いや!せんぱ・・・・っ!!』
『今日も、いい触り心地だ』
『そこ・・・・やめっ!!』
『苦しそうだな、一度出しておくか?』
『!!??』
いやいやと何度も首を横に振ってみたが、あっさりとウリエル先輩にズボンとパンツを下され、熱くなって今にも暴発しそうなロードの下半身に普段と全く変わらない冷静な様子で片手を伸ばして触れると、そのゴッドハンドであっという間に達してしまう。
『はぁ、はぁ、はぁ』
『まだ未使用の新しいパンツが確か奥にあったはずだ。後で出しておこう。落ち着いたら着替えてくるといい』
『・・・・・は、はい』
もう、どんな顔をしてウリエル先輩を見たらいいのか分からない表情も思考もぐちゃぐちゃのロードと違い、ウリエル先輩は顔色一つ変えない。
ウリエル先輩の指によってどれだけロードが上気し、逃れられない快感に耐えかねてあられもない声をあげようとも、ウリエル先輩はいたって普段通りの冷静な対応であり涼しげな表情だった。
「この辺りは次の学期末テストにも出る。答えをまるごと覚えるのではなく、なぜその答えなのかを説明できるぐらいにしておくといい」
「わ、わかりました!」
こうして毎日のように至近距離で眺めようとも、気を抜くとうっかり見惚れそうになる程ウリエル先輩は美形だ。
まるで全て計算の上で作られた、超高級な生きた芸術品を間近で眺めているような気分になる。
この人が心を乱したり、狼狽えたりすることなんてあるのだろうか。
いや、それをするのが我らがハニエル君であり、だからこその特別なのだ。
「今日も、ありがとうございました」
「明日は数学だ。君は割と数学が苦手なようだから、前回の復習からだな」
「よ、よろしくお願いします!」
まずい。
部屋に帰ったらすぐ前回の復習も兼ねて勉強をしておかなければ、明日のテストは大変なことになってしまう!!
ロードの頭の中には前回の数学であまりにも散々な結果を出し、さらに後の罰ゲーム時間でそれ以上に散々な目に合った記憶が蘇り顔どころか首まで赤くなる。
「具合が悪いようなら、明日の勉強はやめておくか?」
「!!??」
ウリエル先輩の大きな手の平がロードの額にそっと乗せられた。
「だ、大丈夫ですっ!!」
まさか、ウリエル先輩の手の平の冷たさから別のことが頭によぎったとは口が避けても言えるわけがなく、ロードは慌てて頭を下げてその場を走り去る。
耐えろ。
ハニエル君が転入してくるまでの、あと少しの辛抱だ!!
ハニエル君が来れば、ウリエル先輩の興味は彼だけにまっすぐ注がれるはず。
それに、こんなモブである自分ごときの為に勉強を見てくれることは本当にありがたいことだし、むしろ勝手に翻弄されてすぐにそのことばかりで頭がいっぱいになってしまうロードの方がいけないのだ。
だって、ウリエル先輩が執着しているのは、ロードの『耳』だけなのだから。
「・・・・・さて、先に明日のテスト内容を作ってしまうか」
ロードが帰ると、途端に静まり返る部屋を見て物足りなさを感じた自分自身にウリエルは疑問を覚えた。
「なんだ?一体、何が足りないと言うんだ俺は」
だが、どれだけ考えても答えは出ない為、その問題は保留にし目の前の問題づくりに集中する。
「確か、彼はこの辺りが苦手だったな」
前回のテスト用紙を見ながら、似たような問題や少し手を加えた応用問題を入れながら明日の用意を着々と進めていくウリエルの口元は、わずかながら笑みが浮かんでいた。
そして、ついに運命の日がやってくる。
「みんな、今日から我がクラスでともに学ぶことになった新入生を紹介する!!」
「ハニエル・ハルモニーと言います。この学園のことはまだまだ分からないことだらけなので、どうぞこれからよろしくお願いします!」
キタァァーーーーーーー!!!
担任が立つ教壇の横には、ハニーブロンド色の柔らかい髪質をしあちこち跳ねている髪と、琥珀色の大きなクリッとした瞳をした明るく元気な表情のハニエル君が眩しい笑顔で立っていた。
待ってた!!
首を長くして、君のことを待ってたよハニエル君!!
「みんな、ハルモニーと仲良くな!あと、席はグレイシーズの隣が空いてるな。グレイシーズ、頼んだぞ!」
「・・・・・・あ、はい!」
なんと、ルームメイトだけでなく教室でも隣同士になったのはラジエルだった。
「えっと、グレイシーズくん。これからよろしくね!」
「・・・・・・お、俺はラジエルだ。よろしくな、ハニエル!」
ニッコリとお互いに爽やかな笑顔を浮かべながら、2人は挨拶とともに握手を交わした。
うんうん、いい場面だ!
いよいよここからスタートするんだな、友人からのBOYS LOVEが!
「あと、シュトラーゼ!お前昼休みに、ハルモニーを生徒会室まで案内してやってくれないか?」
「・・・・・へ?お、俺がですか!?」
まさかの名指しで指名!?
こういう時は、攻略相手でもあるラジエルかチャミエルにお願いするんじゃないのか?
「お前が一番うちのクラスで生徒会役員と親しいからな。適任だろ?」
「て、適任って先生」
確かに、不本意ながら生徒会全員と直接の面識がある上にウリエル先輩にいたっては毎日会って普通の先輩後輩だけじゃないこともけっこくかなり致してる、今考えてもよく分からない関係ですけども。
「ごめんね、君の貴重な時間なのに」
「い、いや全然大丈夫!むしろ光栄です!」
しゅん、と落ち込んだハニエル君も可愛い!
「ロードが行くなら、俺も一緒に行くよ!」
ラジエル、グッジョブ!!
さすがはハニエル君の未来の相棒!!
何かあったら頼りにしてるからな、リーダーレッド!!
「それなら、チャーミーも一緒に行く!あ、ボクはチャミエルって言うの♪チャーミーって呼んでね!」
「ちゃ、チャーミーくん?よろしくね!」
「ブブーー!!チャーミーって呼んでくれなきゃ、チャーミーすねちゃう!」
頰を可愛らしく膨らませたチャミエルに、ハニエルは苦笑しながらすぐに『チャーミー』と言い直し、チャミエルはすぐさまご機嫌な様子であれこれと話しかけている。
ちなみに席順はラジエルの前がロード、ロードの左隣でありハニエル君の前がチャミエルだ。
「あ、それと、シュトラーゼ!お前にもう一つあった!放課後伝えたいことがあるから、教官室に来てくれ」
「!!??」
「わ、分かりました!」
来た来た!!
このタイミングなら、間違いなくハニエル君絡みの寮の部屋移動のことだろう。
「ロード、お前何かやらかしたのか?」
「いや、やらかしてはないけど。多分大したことじゃないって」
そうだ。
ウリエル先輩に昼休み生徒会室で会えた時にでも、今日の夕方は先輩の部屋に行くのがいつもより遅れることも伝えておこう。
もし本当に部屋の移動なら、そのまま準備等で行けなくなる可能性もあることだし。
「ほら、ハニエル。今日は俺の教科書見せてやるから、もっとこっちに寄れって!」
「うん!ありがとう、ラジエル!」
「!!??」
おぉぉぉーーーーー!!!
さすがは面倒見のいい、兄貴ポジションラジエルッ!!
さっそく萌になる構図をありがとう!
今日からハニエル君でより素晴らしいBLが萌え放題かと思ったら、笑いが止まりませんよ、へっへっへ!
それに昼休みの生徒会室では生徒会役員達がハニエル君に初お目見えの、ゲームならスチル絵有りなスペシャルイベントじゃないか!!
きっと、ウリエル先輩もすぐにハニエル君が気にいることだろう。
「・・・・・・・」
ハニエル君には、笑いかけたりするんだろうな。
俺が見たことのない顔を向けて。
ズキン。
「・・・・・ッ!?」
いや、なんでズキン?
ここは萌えるところだろう!
あまりの嬉しさに効果音がうっかり誤作動しちゃったんだな、きっと。
「じゃあ、この問題を・・・・・この俺様の授業でぼうっとしてるシュトラーゼ!応えてみろ!」
「す、すみません!えっと、白金道十二宮です!」
「なんだ、つまらんな。正解だ」
いやだって、これ昨日ウリエル先輩に教えてもらったばっかりのホヤホヤの箇所だからね。
そして昼休み。
ロードとハニエル君、そしてラジエルにチャミエルの4人は普段一般生徒が立ち入り禁止区域である生徒会室へと訪れていた。
「普段は来ちゃダメって、すごい場所なんだねここ!」
この学園のことは初めて尽くしのハニエル君は、キョロキョロ周りを不思議そうに見渡しながら興味津々だ。
「今回は担任にもらった許可章があるからなんともないが、間違って普段この場所に踏み込もうならそこに描かれている防犯用の魔法陣が作動してペナルティ食らうから気をつけろよ?」
「キャハ☆そうそう、うっかりしてると丸焦げのハニートーストちゃんになっちゃう!」
「き、気をつけます」
「・・・・・・・・」
そうだったんだ。
俺もそれ、全然知らなかったよ。
コンコン。
一呼吸置いてから、生徒会の扉をノックする。
「失礼します!1年のシュトラーゼです!ハルモニー君を連れて来ました!」
「・・・・入ってこい」
静かな、それでいて威厳のあるこの声はミカエル先輩。
その言葉とともに、扉が1人でに開いた。
「す、すごい!」
「ここが選ばれし者だけが入室を許された、生徒会室!!」
「チャーミー生徒会室入るの初めて!ドキドキしちゃう!」
「し、失礼します」
はしゃぐチャミエルと、案の定誰よりも興奮しているラジエルをなだめながらハニエル君とともに部屋の中へ入ると、そこはまるでどこぞの貴族の応接間かなにかのような豪華な作りをした空間が広がっている。
床には真紅に金の刺繍がびっしりと施してあるアンティークな雰囲気のじゅうたんが敷かれ、真ん中には重厚感のある焦げ茶色のこれまたアンティーク調のテーブルにソファが並んでいた。
「やぁ、よく来たね。今煎れたばかりのお茶でもどう?」
「キャーー!!ガブリエル先輩!!」
入り口付近で部屋にある数々の高級家具達にあっけに取られていた3人とは違い、普段から同じかそれ以上に最高級な一級品に囲まれて生活しているチャミエルは普段通りに、むしろ憧れの君であるマドンナ・ガブリエル先輩に会えたことで周囲に花が飛ぶ勢いで喜んでいる。
ガブリエル先輩、相変わらず後ろに薔薇か芍薬の花辺りが大輪の花を咲かせてそうなお美しさだ。
「俺がハルモニーの同行として指名したのは、ファルシオ・・・・・ロード=シュトラーゼだけだったはずだが?」
豪華なソファの奥にある部屋から、不機嫌を隠そうともしないミカエル先輩が小さなため息とともに現れた。
「は、初めまして!ハニエル=ハルモニーです!」
ハニエル君!姿勢正しく深いおじぎとは、なんて礼儀正しい!
俺なんて思わず、いつもの癖で逃げようとしてしまったよ。
だって未だにミカエル先輩の手先が密かにわきゃわきゃ動いてるしね。
「俺は生徒会長の、ミカエル=エルドラード。あいにく副生徒会長のラファエルは不在だ。そこでお前達にお茶を煎れているのが、書記のガブリエル=グランドリーム。そして、俺の後ろにいるのが会計のウリエル=レゴラメントだ」
「よろしくね♪」
「・・・・・・・」
「!?」
ミカエル先輩の後ろには、ハニエル君への挨拶も無言のまま頭を軽く下げるだけにとどめたウリエル先輩が静かに佇んでいる。
「今回、転入早々の君に我が生徒会室まで来てもらったのは、理事長から直々に君の面倒を見てくれとの連絡が先日あったからだ。君と理事長との関係は知らないし興味もさしてないが、今日から君は生徒会見習いとして毎日放課後ここへ来ることを許可する」
「え?」
「!!??」
出たッ!!
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でも、大抵は主人公の近くにいてその生活を温かく見守ってるはずなんだけど、そのうち新たなフラグとともに現れるんだろうか?
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「とりあえず、君は今日の放課後からウリエルの下に着いて彼の仕事をまず徹底的に見習え」
「ミカエル!?」
「!?」
「わ、分かりました!ウリエル先輩、これから精一杯頑張りますので、ご指導よろしくお願いします!」
ウリエル先輩の目線が一度ロードへと向き、次に満面の笑みで挨拶をするハニエル君へと向く。
「・・・・・あぁ、よろしく頼む。だが、ミカエル。今日の放課後はあいにく予定がある。彼の指導は明日からにしてくれ」
「予定?」
「・・・・・ッ!?」
予定と聞き、ウリエル先輩が差しているのがロードとの勉強の時間だと分かると、そんなものは断ってくれて構わないという気持ちでウリエル先輩に目線を向けて何度も首を横に降るが、ウリエル先輩はただじっとロードを見つめるだけで首を縦には振らなかった。
「あいにく、ずらせない予定だ」
「そうか。お前がそこまで言うのなら、よっぽど大事なことなんだろう。それなら見習いは明日からとする。ハルモニー、明日の放課後授業が終わり次第ここへ来るように。お前に記入してもらう書類が山ほどある。下らない寄り道は一切厳禁だ」
ミカエル先輩は手に抱えた大量の書類をキレイに揃えると、その束を脇へと勢いよく置きハニエル君へと向き直る。
「わ、分かりました!」
おぉ!!
なんかファルシオン事件からかなりキャラが総崩れになってたけど、やっぱり我が校の生徒会長!!
かっこよく決めポーズを取り、ハニエル君も緊張感からぴしっと背筋を伸ばしてミカエル先輩と見つめあっている。
「では、この話はここまで。各自、自分のクラスへ戻って次の授業の準備に取りかかれ!」
ミカエル先輩の言葉とともに昼休み終了のチャイムが鳴った。
この後20分後にもう一度チャイムがなり、午後の授業がスタートする。
割と余裕があるのは、校舎が広すぎて移動に時間がかかってしまうが為の配慮だ。
「おい、そこ!いつまで茶菓子を食べている!ファルシオン!お前はちょっとここに座っていろ!」
「え?」
「だって~このお菓子って、あの有名パティシエが限定品で出した星屑のショコラじゃないですか~♪チャーミーうっかり予約し忘れて食べ損ねてたんです☆」
「よく知ってるね。それなら、こっちも食べていく?」
「こ、これ!!もしかして、あの伝説の勇者がのぞいたと言われる伝説の鏡!かもしれないシリーズの中でもレアもののやつじゃないですか!?」
「ほお?その価値が分かるとは、お前中々良い目を持っているじゃないか!」
「あ、あの!みんな、そろそろチャイムがなるんじゃな・・・・・うわっ!な、何?あれ?いつのまにか、僕の膝で知らない人が寝てる?」
厳かな雰囲気だったはずの生徒会室はあちこちで騒がしくなり、ハニエル君に至っては本当にいつのまに戻っていたのか、ラファエル先輩がちゃっかり天使の膝枕でお休み中だ。
これ、俺の時との扱いの差がものすごいな。
やっぱり本物の主人公は格が違うってことか。
「大丈夫か?」
「ウリエル先輩!」
狙ったわけでもないのに、自然とウリエル先輩と2人きりになってしまった。
「あの、ごめんなさい!」
「なんだ?」
「俺の勉強見てくれるの、やっぱり昨日で最後にしませんか?」
「!!??」
「ほら、ウリエル先輩は明日からハニエル君と生徒会のことで今まで以上にいそがしくなるだろうし、おかげさまでだいぶ成績も上がりました!本当に先輩にはすごく感謝してます!それに、ちょうど今日の放課後は、先生に呼び出されてるから先輩の部屋に行けないかもしれなくて」
何よりこれから、ハニエル君とのBLライフが始まるのだ。
そこに俺みたいなモブが紛れ込んでいたら、じゃまにしかならない。
「これ以上、ウリエル先輩にご迷惑をかけるわけにはいきません」
「・・・・・分かった。だが、ちょっとこっちに来い」
「へ?ちょ、ちょっと待って下さい!」
ぐいっとウリエル先輩に強く腕を掴まれ、そのまま生徒会室の中にある恐らくはウリエル先輩専用の私室?に一緒に入る。
「今日の分として作っておいたテストと、これまで勉強した各範囲をポイントでまとめた冊子だ。これからの参考にするといい」
「わざわざ用意してくれてたのに、本当にすみません!」
きっと、昨夜も遅くまで準備してくれていたのだ。
「君は、基礎をちゃんと理解すれば大丈夫だ。覚えるのも早い方だし、自信を持て」
それなのに、文句の一つも言わない。
「・・・・はい、ありがとうございます!」
ウリエル先輩が引き出しから出して来たのは、いつものびっしり50問テストのペーパーと中々大きめで分厚い本1冊ほどもある紙の束がファイリングされたファイル。
「色々と、お世話になりました!」
「最後に、少しでいいから・・・・・君に触れさせてくれ」
「!!??」
ファイルとテストペーパーを受け取り、それらを胸に抱えたロードはてっきり耳が触れられるのかと思い、緊張から全身に力が入る。
だが、固まったロードの身体をウリエルはその腕ごと包みこむようにして抱きしめた。
そっか。
きっと、ハニエル君の耳を見て俺のには興味を無くしたのかもしれない。
ウリエル先輩とこんな風に2人きりになることも、あと数分でおしまい。
この昼休みが終われば、彼とロードの接点はほとんど無くなる。
それが正しい形だ。
「ロード」
「!?」
普段、君とかお前とかでしか呼ばれることがなく名前を呼んだとしても、シュトラーゼと苗字でしか呼ばれたことのないウリエル先輩が初めて俺の名前を呼んだ。
その瞬間、魔法にでもかけられたかのようにロードは動けなくなる。
なんで俺、ウリエル先輩から目が離せないんだ?
琥珀の瞳から目線が反らせない。
そして、お互いにじっと見つめ合っていた距離が次第に縮まり、ウリエルがロードの両目を片方だけその大きな手の平で視界を塞ぐ。
「せんぱ・・・・・?」
「静かに」
その後、唇に触れるだけの温もりが乗せられた。
「・・・・・・・ッ!!」
しびれを切らしたミカエル先輩が扉をけたたましく叩いて2人を呼び戻すまでの数分間、ただただ静かな空間の中でロードはその温もりを感じ続けた。
夕方、担任の元へ行けば内容はやはり部屋の移動で、同室のラジエルも伝えたら、嫌なら断っても大丈夫なんだぞ?と心配されたのち、ありがたいことに掃除も含めて今夜から手伝ってくれることになった。
今はラジエルがお風呂に行っていて、それまではロードが先に一人で片付けられるものから始める予定だ。
「そういえば、ウリエル先輩からもらった冊子」
生徒会室からの帰りはとにかくバタバタで、もらった冊子はまだ中身を確認していなかった。
「ポイントって、言ってくれてたけど」
一体何が?
「!!??」
冊子の中は、これまでウリエルがロードに教えてくれた勉強内容が最初から全て手書きで書かれていた。
途中、口頭で伝えてくれたアドバイスも含めてロードが後から見てもすぐにその時のことが思い出せるくらい丁寧に作られている。
カラーペンでのより大事な部分や付箋もあちこち貼られていて、とても一晩でこれを作り上げることは不可能で、何日も何日もかかって作られたことをロードに強く感じさせた。
「なんで、なんでこんな事まで・・・・ッ!」
1ページ1ページ、めくるたびに2人で過ごした時間が蘇ってきてはロードの目頭が熱くなり、涙の雫がぽろりと頰に向かって落ちる。
『君は、基礎をちゃんと理解すれば大丈夫だ。覚えるのも早い方だし、自信を持て』
「・・・・ウリエル、先輩ッ!!」
なぜ涙が出てくるのか。
なぜ今、心の中に浮かぶのがウリエル先輩のことばかりなのか。
ロードはその答えを知ってはいるが、まだ認めることはできなかった。
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