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第五章
閑話:残された者たち(ノエル視点)
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新章へ映る前に閑話を一つ……。
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人工的に造られた神殿の中、魔法陣がオーロラのような光を放ち、ユラユラと揺れている。
その周りにあるケースが激しく揺れ、ビリビリっとひびが入ったかと思うと、パリンッと割れる音が3回響いた。
魔法が発動していく感覚に、何とも言えぬ高揚感を感じる。
あぁ、300年前の世界。
これでようやく君に会える。
あの日、君がいなくなってから、私の時間は止まり、普通の人間とは違う、別の生き物となってしまった。
どこを探して見つからないエレナ。
なぜ生き返ったのか……その理由をずっと考えていた。
だけど君の本を見つけて、やっと答えを見つけたんだ。
君を救うため、そう誰よりも愛している愛しい君を。
光が辺り一面に溢れだし、爪先が地面から離れていく。
竜巻のように風が激しく渦を作り始めると、私は身を預けるように力を抜いた。
その瞬間、ガクッ体が傾いたかと思うと、私は風に乗ることなく地面へ打ち付けられる。
慌てて顔を上げると、渦の中央にはあの魔導師の姿が目に映った。
彼女の体から感じる魔力は微細で、魔力切れを起こし意識がない。
ダランと腕をたらし、青白い彼女の姿に目を大きく見開く中、その体は風にのって運ばれていった。
どういうことだ?
私は慌てて魔法陣を確認すると、陣は薄っすらと光を帯びたまま。
光が消えていない、とういうことは魔法が発動していないのか?
それならばあの女はどこへ行ったんだ?
光がゆっくりと治まっていく中、光粒が雪のように舞い落ちる。
そこに魔導師の姿はなく、ガラスの破片と大きな水たまりが残っていた。
どうして……どうして……なぜだ。
体を起こし改めて陣を確認してみるが、おかしなところは見当たらない。
魔法陣にミスはない、魔力も十二分にあった。
だが陣の上を魔力が流れそして発動する、その手前で止まってしまった。
それはあまりに不自然で、今までに経験したことがなかった。
意味がわからない、けれど私は過去へ戻れなかったのか……。
そう改めて実感すると、目の前が暗闇に染まっていく中、薄っすらとエレナの姿が浮かび上がった。
屈託のない笑みを浮かべ笑う姿。
頬をプクっと膨らませ拗ねた姿。
真珠のような大粒の涙を零す姿。
彼女が死んだのは私のせいだ。
本来であれば、戦争などに彼女が巻き込まれるはずなどなかった。
けれど私が彼女を巻き込んでしまった。
私が遣い魔を作ってしまったばかりに……。
遣い魔は劣勢な我が国救った宝、だが敵からすれば最大の脅威。
だから作り上げた私が狙われるだろうとはわかっていた。
身辺調査が行われ……彼女まで行きついてしまえば……もうどうすることも出来ない。
こうなることはわかっていたはずだ。
好きなら、大事だったのなら、もっと早くに彼女から離れるべきだった。
その時間十分にあった。
けれど……だけど……見て見ぬふりをし続けていたんだ……。
彼女が私から離れ、別の誰かと出会い、私の場所を奪われてしまうなんて我慢できなかった。
彼女は無知で純粋で、きっとあの時私ではない別の人間と出会っていたとしても、同じように懐いただろう。
ずっと一人山の中で暮らしていたんだ、寂しさを紛らわせる相手が必要だっただけ。
私はそんな彼女の心に付け込んだ。
彼女の好きは、きっと私の好きとは違っただろう。
けれどそれに気づかぬふりをし続け、強引に手に入れた。
離したくない、まだいける、まだ大丈夫だ、そう何度も言い聞かせ、気が付けば取り返しのつかないところまできてしまったんだ。
彼女の死は全て私の責なんだ……。
「動けば殺す。不審な動きを見せれば、お前が魔法を使う前に喉を掻っ切ってやる」
凄みのある声が耳に響くと、視界がグラリと揺れ、髪が後ろへと引っ張られる。
暗闇が晴れていき困惑する中、ふと頬に水滴が落ちた。
徐に視線を上げてみると、そこにはずぶ濡れになったカミールの姿。
その姿に私は徐に頬を上げると、ニッコリを笑みを浮かべて見せた。
「やぁ、おはよう。よく眠れたかい?」
そうやんわり話しかけてみると、彼の瞳に苛立ちの色が映る。
短剣が首へ触れ、ピリッとした痛みを感じると、生暖かい液体が首筋を伝っていった。
「俺の許可なく喋るな。お前はただ質問に答えればいいだけだ」
出会った頃の彼は背丈も小さく小柄な感じだったが、よくここまで成長したものだ。
そんなどうでもいいことをしみじみと思ってしまう。
昔私が遣い魔を教えていた時代は、虫も殺さぬほどの優しい子供だったな。
私は彼女に会うために……沢山の命を奪い、傷つけ、そして思い通りの道を創り上げようとしてきた。
「なぜ……なぜ母を殺した」
そう、彼の母親も奪った命の一つ。
「答えは簡単だ。君が私にとって最後の希望だったからだよ」
「希望?俺に何を……?それが母を殺すことと、どう関係してるんだ?」
「君には王族の血が流れ、それ相応の魔力があった。王族は魔法を使える者が多いだろう。まぁ私や彼女のようには使えないが、それでも魔力を体外へ出すことが出来る。だから君にも出来ると考えたんだけど出来なかった。でも諦めきれなくてね、君の母親を殺し、怒りと憎悪で刺激すれば、魔力を外へ出すことが出来るんじゃないかと、試してみたんだ。まぁ残念ながら魔法は使えなかったけどね」
言い訳することも、取り繕う事もなく正直に話すと、首元にかかった剣先が小刻みに震え始めた。
「そんな……そんなくだらないことのために……母は……ッッお前の事を……信頼して……クソッッ」
刃先が首筋に触れると、グッと力が入る。
「いたたたッ、君は大きな勘違いしているね。……君の母さんは私のことを好いていなかったよ。あれは私が操っていただけだ。彼女は君には隠していたが、重い病気を患っていてね、痛みを取るのだと適当に説得して、催眠術をかけるのは容易かった」
「催眠だと……母が……嘘だ、そんなわけ……ッッ」
「ははっ、信じる信じないも君の自由だ」
過去へ戻ることは出来ない、すなわち私がエレナに再会できることない。
それなら私が生きている意味はもうない。
そう死を覚悟すると、私は体の力を抜いた。
冷たい切先が喉に触れた刹那、突然地面が大きく揺れ始めると、ゴゴゴゴッと崩れる音が反響する。
カミールはバランスを崩し、地面へ倒れ込むと、短剣が床へと転がっていく。
天井から土砂が流れ込み崩れていく中、私は動く事もなく只々静かにその様を眺めていた。
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人工的に造られた神殿の中、魔法陣がオーロラのような光を放ち、ユラユラと揺れている。
その周りにあるケースが激しく揺れ、ビリビリっとひびが入ったかと思うと、パリンッと割れる音が3回響いた。
魔法が発動していく感覚に、何とも言えぬ高揚感を感じる。
あぁ、300年前の世界。
これでようやく君に会える。
あの日、君がいなくなってから、私の時間は止まり、普通の人間とは違う、別の生き物となってしまった。
どこを探して見つからないエレナ。
なぜ生き返ったのか……その理由をずっと考えていた。
だけど君の本を見つけて、やっと答えを見つけたんだ。
君を救うため、そう誰よりも愛している愛しい君を。
光が辺り一面に溢れだし、爪先が地面から離れていく。
竜巻のように風が激しく渦を作り始めると、私は身を預けるように力を抜いた。
その瞬間、ガクッ体が傾いたかと思うと、私は風に乗ることなく地面へ打ち付けられる。
慌てて顔を上げると、渦の中央にはあの魔導師の姿が目に映った。
彼女の体から感じる魔力は微細で、魔力切れを起こし意識がない。
ダランと腕をたらし、青白い彼女の姿に目を大きく見開く中、その体は風にのって運ばれていった。
どういうことだ?
私は慌てて魔法陣を確認すると、陣は薄っすらと光を帯びたまま。
光が消えていない、とういうことは魔法が発動していないのか?
それならばあの女はどこへ行ったんだ?
光がゆっくりと治まっていく中、光粒が雪のように舞い落ちる。
そこに魔導師の姿はなく、ガラスの破片と大きな水たまりが残っていた。
どうして……どうして……なぜだ。
体を起こし改めて陣を確認してみるが、おかしなところは見当たらない。
魔法陣にミスはない、魔力も十二分にあった。
だが陣の上を魔力が流れそして発動する、その手前で止まってしまった。
それはあまりに不自然で、今までに経験したことがなかった。
意味がわからない、けれど私は過去へ戻れなかったのか……。
そう改めて実感すると、目の前が暗闇に染まっていく中、薄っすらとエレナの姿が浮かび上がった。
屈託のない笑みを浮かべ笑う姿。
頬をプクっと膨らませ拗ねた姿。
真珠のような大粒の涙を零す姿。
彼女が死んだのは私のせいだ。
本来であれば、戦争などに彼女が巻き込まれるはずなどなかった。
けれど私が彼女を巻き込んでしまった。
私が遣い魔を作ってしまったばかりに……。
遣い魔は劣勢な我が国救った宝、だが敵からすれば最大の脅威。
だから作り上げた私が狙われるだろうとはわかっていた。
身辺調査が行われ……彼女まで行きついてしまえば……もうどうすることも出来ない。
こうなることはわかっていたはずだ。
好きなら、大事だったのなら、もっと早くに彼女から離れるべきだった。
その時間十分にあった。
けれど……だけど……見て見ぬふりをし続けていたんだ……。
彼女が私から離れ、別の誰かと出会い、私の場所を奪われてしまうなんて我慢できなかった。
彼女は無知で純粋で、きっとあの時私ではない別の人間と出会っていたとしても、同じように懐いただろう。
ずっと一人山の中で暮らしていたんだ、寂しさを紛らわせる相手が必要だっただけ。
私はそんな彼女の心に付け込んだ。
彼女の好きは、きっと私の好きとは違っただろう。
けれどそれに気づかぬふりをし続け、強引に手に入れた。
離したくない、まだいける、まだ大丈夫だ、そう何度も言い聞かせ、気が付けば取り返しのつかないところまできてしまったんだ。
彼女の死は全て私の責なんだ……。
「動けば殺す。不審な動きを見せれば、お前が魔法を使う前に喉を掻っ切ってやる」
凄みのある声が耳に響くと、視界がグラリと揺れ、髪が後ろへと引っ張られる。
暗闇が晴れていき困惑する中、ふと頬に水滴が落ちた。
徐に視線を上げてみると、そこにはずぶ濡れになったカミールの姿。
その姿に私は徐に頬を上げると、ニッコリを笑みを浮かべて見せた。
「やぁ、おはよう。よく眠れたかい?」
そうやんわり話しかけてみると、彼の瞳に苛立ちの色が映る。
短剣が首へ触れ、ピリッとした痛みを感じると、生暖かい液体が首筋を伝っていった。
「俺の許可なく喋るな。お前はただ質問に答えればいいだけだ」
出会った頃の彼は背丈も小さく小柄な感じだったが、よくここまで成長したものだ。
そんなどうでもいいことをしみじみと思ってしまう。
昔私が遣い魔を教えていた時代は、虫も殺さぬほどの優しい子供だったな。
私は彼女に会うために……沢山の命を奪い、傷つけ、そして思い通りの道を創り上げようとしてきた。
「なぜ……なぜ母を殺した」
そう、彼の母親も奪った命の一つ。
「答えは簡単だ。君が私にとって最後の希望だったからだよ」
「希望?俺に何を……?それが母を殺すことと、どう関係してるんだ?」
「君には王族の血が流れ、それ相応の魔力があった。王族は魔法を使える者が多いだろう。まぁ私や彼女のようには使えないが、それでも魔力を体外へ出すことが出来る。だから君にも出来ると考えたんだけど出来なかった。でも諦めきれなくてね、君の母親を殺し、怒りと憎悪で刺激すれば、魔力を外へ出すことが出来るんじゃないかと、試してみたんだ。まぁ残念ながら魔法は使えなかったけどね」
言い訳することも、取り繕う事もなく正直に話すと、首元にかかった剣先が小刻みに震え始めた。
「そんな……そんなくだらないことのために……母は……ッッお前の事を……信頼して……クソッッ」
刃先が首筋に触れると、グッと力が入る。
「いたたたッ、君は大きな勘違いしているね。……君の母さんは私のことを好いていなかったよ。あれは私が操っていただけだ。彼女は君には隠していたが、重い病気を患っていてね、痛みを取るのだと適当に説得して、催眠術をかけるのは容易かった」
「催眠だと……母が……嘘だ、そんなわけ……ッッ」
「ははっ、信じる信じないも君の自由だ」
過去へ戻ることは出来ない、すなわち私がエレナに再会できることない。
それなら私が生きている意味はもうない。
そう死を覚悟すると、私は体の力を抜いた。
冷たい切先が喉に触れた刹那、突然地面が大きく揺れ始めると、ゴゴゴゴッと崩れる音が反響する。
カミールはバランスを崩し、地面へ倒れ込むと、短剣が床へと転がっていく。
天井から土砂が流れ込み崩れていく中、私は動く事もなく只々静かにその様を眺めていた。
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