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第五章
新章13:捕らえられた先に
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先ほどの映像、そしてエレナの言葉に考え込む中、壁が脳裏によぎると、ふと本来の目的を思い出した。
私が壁の傍へ来たのは……壁を越えて北へ戻ろうとしていたから。
でも壁を壊す方法がわからなくて、研究するはずだった。
何だか色々な事が一気に起こって、よくわからなくなっていたけれど……。
そしてこの状況……壁を作った本人は今目の前に居るわ。
「話は変わるのだけど、エレナが東の国と西の国を寸断する壁を造ったのでしょう。あれの壊し方を教えてくれないかしら?魔法も吸収されるし物理でも壊せないのよ」
「うん?あーあの壁か……。あー、その、えーと……すまんのやけど、それは知らんのや」
「知らない?あなたが造った壁でしょう?どうして」
「造ったのは紛れもなくうちや。あれは母さんに教えてもらった魔法。本来は自己防衛型の防御壁なんや。せやからどんだけ壊されへんかが重要で、壊す事なんて考えられてへんねん。あーでも……もしかしたら元の世界やったら……」
「あなたの世界?戻れるの?でも場所はわからないとさっき……」
そう問いかけてみると、エレナは水の中を泳ぐように浮遊した。
そんな彼女の後を追いかえるように足をバタつかせると、光粒が散っていく。
「あのなぁ、うちがどんだけここに居てるとおもてるんや。時空の狭間にきて最初に自分の世界を探したっちゅうねん。母さんがどうなったか知りたかったしな。とりあえず見つけはしたんやけど、入るどころか中を覗くことすら出来へんかった」
「なら扉であの壁を越えて北の国へ送ることは出来るの?あなたがよく出現させる不思議な扉よ」
「残念やけどそれも無理やな。なんかわからんけど、北の国へ続く扉をだしてもあんたに渡せるカギがない。世界が北の国へあんたを送る事を拒否しているみたいや。あーせや、そんなに知りたいんやったら、あんたがうちの世界へ入るか?それはできると思うで」
彼女の突拍子もない言葉に目を見開く中、エレナはクルリと宙を旋回すると、ゴソゴソとポケットの中へ手を突っ込んだ。
「私が……あなたの世界に……そんな事が可能なの?」
「あぁまぁな。あれ、どこいったんや、えーと、あっ、あった!出来るで、けどなあんた自身を送ることは出来へん。通れるんは精神だけや。肉体はここに残る。まぁ~時間の概念がないこの場所なら腐ることもないやろう。出来ればやけど……戻ってきたらあの世界の様子を教えてほしい。さすがに母さんのことは300年も前なんやろ、何もわからんやろうな」
彼女はボソボソと話しながら黒いカギを取り出すと、悲し気な表情を浮かべて見せる。
「わかったわ、出来るだけ情報を集めてくる」
それにしても精神だけ……これって魔女に水晶玉を見せてもらった時と同じ。
なら空いた体に彼女が入れるんじゃないの?
「エレナ、良い案を思いついたわ。私があなたの世界へ入っている間、あなたが私の体を使ってノエルの元へ行けるんじゃないかしら?」
「へぇっ!?いや、まぁ可能やけど……。ええんか?自分の体を他人使われるんやで?そんなん嫌やろ?それに……もしなんかあって、あんたの体が死んでしまうかもしれへんで。そうなったら……あんたはもう元の場所へは戻られへん」
「その時はその時よ。それにね私、昔一度魔女に貸したことがあるの。それに……ノエルはともかく、エレナが彼に会いたいと望むのなら……それぐらいのリスク平気よ。あなたには色々お世話になったもの」
エレナはポカーンと口を半開きのままに固まったかと思うと、肩を揺らし豪快に笑い始める。
「ははははっ、あんたほんまにお人よしやな。ならお言葉に甘えて借りさせてもらうわ。期限は10日間。それ以上はきっと体がもたんやろう。あとこれ渡しとくわ」
エレナは先ほど取り出した黒いカギに長い紐を通すと、こちらへと差し出した。
「このカギを身に着けて、あの向こう側に見える扉を通るんや。中へ入れんのは精神だけ。カギは体と意思と分ける役割も担ってる。だから用が済んだらそのカギを二つに割ったらもとに戻るで。安心せぇ帰りたいと望めば簡単に割れるはずや」
私は黒いカギをネックレスのように首へ掛けると、彼女の視線の先を追っていく。
その先には私とエレナ、全身の姿が映し出された鏡のようなものが浮かび上がっていた。
「扉を通るときの代金はあんたの体でええな。気いつけてな。ほんで……その……ありがとう」
エレナは嬉しそうに笑うと、私の体をギュッと強く抱きしめる。
「いいのよ。あっ、そうだわ。私の体を使ってあまり……激しい運動はしないでほしいの。以前魔女に体を貸したとき、筋肉痛で大変だったのよ」
「おぉ、わかった。気ぃ付けるわ。ようわからんな……気にするとこはそこなんか……ブツブツ」
エレナは何とも言えぬ表情を浮かべると、応えるように手を上げる。
その姿に私はゆっくりと歩き始めると、自分の姿が映るその扉へと近づいていった。
扉の前へ立つと、恐る恐るに手を伸ばしてみる。
指先が鏡に触れると、そこから波紋のように広がり、映し出される自分の姿が波打っていった。
「10日間や、時間が近づけばカギの色が変わる。一日でカギの先端が白色に、二日目でその白い範囲が増えて最終はカギ全体が白なる。そうなれば……カギは折れやんなるで」
彼女の言葉に私は深く頷いて見せると、大きく息を吸い込み鏡の中へと入って行く。
爪先から腕、そして体が鏡の向こう側へと入ると、カギがひとりでに動き始めた。
カギは私を引っ張るように前へとは飛び出した刹那、ビリビリッと引き剥がされる音が耳にとどくと、ふわっと宙に浮きあがった。
徐に振り返ってみると、扉の傍には私の上半身が横たわり、脚は扉の向こう側。
何とも不思議な感覚に自分の姿を見つめる中、エレナが引っ張っているのだろう……ズルズルと私の体が扉の向こう側へと消えていった。
**********************************
ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございます。
「捕らえられた先に」はこれにて終了です。
次話より、主人公とエレナの両方の視点から、物語が展開されていきますよ(*'ω'*)
読者様に楽しんで頂けるよう、これからも頑張ります!
ご意見、ご感想等何か感じた事などあれば、コメント頂けると嬉しいです!
いつも励みになっております(*ノωノ)
私が壁の傍へ来たのは……壁を越えて北へ戻ろうとしていたから。
でも壁を壊す方法がわからなくて、研究するはずだった。
何だか色々な事が一気に起こって、よくわからなくなっていたけれど……。
そしてこの状況……壁を作った本人は今目の前に居るわ。
「話は変わるのだけど、エレナが東の国と西の国を寸断する壁を造ったのでしょう。あれの壊し方を教えてくれないかしら?魔法も吸収されるし物理でも壊せないのよ」
「うん?あーあの壁か……。あー、その、えーと……すまんのやけど、それは知らんのや」
「知らない?あなたが造った壁でしょう?どうして」
「造ったのは紛れもなくうちや。あれは母さんに教えてもらった魔法。本来は自己防衛型の防御壁なんや。せやからどんだけ壊されへんかが重要で、壊す事なんて考えられてへんねん。あーでも……もしかしたら元の世界やったら……」
「あなたの世界?戻れるの?でも場所はわからないとさっき……」
そう問いかけてみると、エレナは水の中を泳ぐように浮遊した。
そんな彼女の後を追いかえるように足をバタつかせると、光粒が散っていく。
「あのなぁ、うちがどんだけここに居てるとおもてるんや。時空の狭間にきて最初に自分の世界を探したっちゅうねん。母さんがどうなったか知りたかったしな。とりあえず見つけはしたんやけど、入るどころか中を覗くことすら出来へんかった」
「なら扉であの壁を越えて北の国へ送ることは出来るの?あなたがよく出現させる不思議な扉よ」
「残念やけどそれも無理やな。なんかわからんけど、北の国へ続く扉をだしてもあんたに渡せるカギがない。世界が北の国へあんたを送る事を拒否しているみたいや。あーせや、そんなに知りたいんやったら、あんたがうちの世界へ入るか?それはできると思うで」
彼女の突拍子もない言葉に目を見開く中、エレナはクルリと宙を旋回すると、ゴソゴソとポケットの中へ手を突っ込んだ。
「私が……あなたの世界に……そんな事が可能なの?」
「あぁまぁな。あれ、どこいったんや、えーと、あっ、あった!出来るで、けどなあんた自身を送ることは出来へん。通れるんは精神だけや。肉体はここに残る。まぁ~時間の概念がないこの場所なら腐ることもないやろう。出来ればやけど……戻ってきたらあの世界の様子を教えてほしい。さすがに母さんのことは300年も前なんやろ、何もわからんやろうな」
彼女はボソボソと話しながら黒いカギを取り出すと、悲し気な表情を浮かべて見せる。
「わかったわ、出来るだけ情報を集めてくる」
それにしても精神だけ……これって魔女に水晶玉を見せてもらった時と同じ。
なら空いた体に彼女が入れるんじゃないの?
「エレナ、良い案を思いついたわ。私があなたの世界へ入っている間、あなたが私の体を使ってノエルの元へ行けるんじゃないかしら?」
「へぇっ!?いや、まぁ可能やけど……。ええんか?自分の体を他人使われるんやで?そんなん嫌やろ?それに……もしなんかあって、あんたの体が死んでしまうかもしれへんで。そうなったら……あんたはもう元の場所へは戻られへん」
「その時はその時よ。それにね私、昔一度魔女に貸したことがあるの。それに……ノエルはともかく、エレナが彼に会いたいと望むのなら……それぐらいのリスク平気よ。あなたには色々お世話になったもの」
エレナはポカーンと口を半開きのままに固まったかと思うと、肩を揺らし豪快に笑い始める。
「ははははっ、あんたほんまにお人よしやな。ならお言葉に甘えて借りさせてもらうわ。期限は10日間。それ以上はきっと体がもたんやろう。あとこれ渡しとくわ」
エレナは先ほど取り出した黒いカギに長い紐を通すと、こちらへと差し出した。
「このカギを身に着けて、あの向こう側に見える扉を通るんや。中へ入れんのは精神だけ。カギは体と意思と分ける役割も担ってる。だから用が済んだらそのカギを二つに割ったらもとに戻るで。安心せぇ帰りたいと望めば簡単に割れるはずや」
私は黒いカギをネックレスのように首へ掛けると、彼女の視線の先を追っていく。
その先には私とエレナ、全身の姿が映し出された鏡のようなものが浮かび上がっていた。
「扉を通るときの代金はあんたの体でええな。気いつけてな。ほんで……その……ありがとう」
エレナは嬉しそうに笑うと、私の体をギュッと強く抱きしめる。
「いいのよ。あっ、そうだわ。私の体を使ってあまり……激しい運動はしないでほしいの。以前魔女に体を貸したとき、筋肉痛で大変だったのよ」
「おぉ、わかった。気ぃ付けるわ。ようわからんな……気にするとこはそこなんか……ブツブツ」
エレナは何とも言えぬ表情を浮かべると、応えるように手を上げる。
その姿に私はゆっくりと歩き始めると、自分の姿が映るその扉へと近づいていった。
扉の前へ立つと、恐る恐るに手を伸ばしてみる。
指先が鏡に触れると、そこから波紋のように広がり、映し出される自分の姿が波打っていった。
「10日間や、時間が近づけばカギの色が変わる。一日でカギの先端が白色に、二日目でその白い範囲が増えて最終はカギ全体が白なる。そうなれば……カギは折れやんなるで」
彼女の言葉に私は深く頷いて見せると、大きく息を吸い込み鏡の中へと入って行く。
爪先から腕、そして体が鏡の向こう側へと入ると、カギがひとりでに動き始めた。
カギは私を引っ張るように前へとは飛び出した刹那、ビリビリッと引き剥がされる音が耳にとどくと、ふわっと宙に浮きあがった。
徐に振り返ってみると、扉の傍には私の上半身が横たわり、脚は扉の向こう側。
何とも不思議な感覚に自分の姿を見つめる中、エレナが引っ張っているのだろう……ズルズルと私の体が扉の向こう側へと消えていった。
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ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございます。
「捕らえられた先に」はこれにて終了です。
次話より、主人公とエレナの両方の視点から、物語が展開されていきますよ(*'ω'*)
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