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第五章
新章9:旅の頁
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カミールは背に突き刺した大剣を引き抜くと、血潮が宙を舞った。
真っ赤に染まっていく姿を呆然と眺める中、彼は平然とした様子で腰の短剣を取り出したかと思うと、無表情のままにウサギをさばいていく。
ピクピクと痙攣する獣を抑え込み、皮をはぎ、肉をそぎ、内臓を取り出し……ウサギが解体されていくその様に、脚が自然と震え始める。
全身に返り血を浴びた彼の姿に目が逸らせない中、目の前が真っ赤な世界へと染まっていった。
「ところで……さっきの魔法は何だ?急に体が軽くなった、それに剣に雷電のような物が見えたが……」
彼の言葉にようやく我に返ると、私は顔に付着した血潮を拭っていく。
「あっ……さっきのは……風の魔法であなたの動きをサポートしてみたの。それと……摩擦を起こして剣に付属の力をつけてみたのよ……」
何とかそれだけ話すと、私は手に魔力を集め空気中に含まれる水をイメージしていく。
私たちの体についた返り血を、水が綺麗に洗い流していく様を想像すると、私はゆっくりと魔力放出した。
鼻に付く獣臭は残っているけれど……これで見た目は綺麗になったわ。
その姿に私は彼の傍へ寄ると、腕から流れる血へ手を伸ばす。
そこへ少しずつ魔力を流していくと、消毒し切られた皮膚を修復していった。
跡形もなく消してしまえば、魔力はかなり消耗するが……傷を防ぐ程度なら大丈夫。
それに傷は浅い様子だし、数日もすれば痕は消えるでしょう。
彼の傷を癒しほっと一息つくと、カミールから感嘆とした声が漏れた。
「ほう、こんな事も出来るのか」
「えぇ、まぁ……」
私はそっと彼から体を離すと、切り刻まれたウサギの残骸へと目を向ける。
皮を剥がれ、中身を取り出された獣はもう見る影もない。
私はその姿に何となくそっと手を合わせると、ごめんなさいと小さな声で呟いた。
そんな私の様子に、カミールはウサギから剥ぎ取った材料をカバンへ詰めると、行くぞとスタスタを山道を歩き始める。
「えっ、待って、まだどこかへ行くの?」
「ああ、今の獣をもう二匹倒せば、依頼は終了だ」
嘘でしょう……二匹も……さっきのを……。
私はあからさまに肩を落としてみせるが……カミールはズンズンと森の中へと進んでいく。
その姿に私は大きなため息をつくと、不承不承に彼の背を追いかけて行った。
そうして終日森の中を歩き回り……家に戻った時には……太陽は沈み、月が街を美しく照らしていた。
つっ……疲れたわ……。
家に帰るや否や私はテーブルに突っ伏していると、カミールはその上に掲示版から取った紙を広げてみせる。
そんな彼の様子に、私は怠惰に頭を持ち上げると、紙へと視線を向けた。
****素材屋グロース様からの依頼***
ランク:S
依頼:野ウサギ獣の爪×3
報酬:銀貨30
****************************
銀貨30との文字に目が点になると、私は口を半開きのままに固まった。
嘘でしょう……。
一日朝から晩まで森の中を歩き回って……あんな狂暴なウサギを狩って……銀貨30枚だなんて……。
「今日の仕事で銀貨30枚。3人分の旅費金貨15枚までまだまだ先だ。明日も早朝から仕事だからな」
明日もですって……。
「あの……おかえりなさい!ご飯が出来てます、すぐに用意しますね!」
「俺は良い、先に部屋へ戻る」
彼は疲れた様子を見せることなく、スタスタと階段を上っていく背を眺める中、私は癒しを求めるようにシナンへと抱きついた。
「あっ、その……お姉さんは食べますか?」
「えぇ、もちろん頂くわ!!でもごめんなさいね……家事を任せてしまって……。それに一人で寂しかったでしょう?」
「ううん、僕待つことには慣れてるから……」
弱弱しく笑みを浮かべるシナンに、私はなぜか泣きそうになると、小さな体を力いっぱい抱きしめる。
「ご飯、一緒に食べよっか」
そうニッコリ笑みを浮かべると、シナンは尻尾をフリフリと揺らしながらにキッチンへと走っていく。
その姿に私は食器棚へ向かうと、テーブルへお皿を並べていった。
シナンは大きな器にスープを入れると、台に上りながら器用に料理を並べていく。
慌てて手伝おうとするが、シナンは大丈夫ですと柔らかい笑みを浮かべ難なくこなしていった。
そうして夕食の準備が整うと、私は並べられた料理の前に、シナンと向かい合う様に腰かける。
シチューのような真っ白なスープに、ピンクやオレンジ、ブルーの鮮やかな食材が浮かんでいる。
そっとスプーンで掬い上げてみると、スープはシチューと同じようにドロッしていた。
「美味しそうねぇ。ところで食材や調味料はどうしたのかしら?」
「カミールさんが食事用にと、貨幣をテーブルに置いてくれていて……それで今日は買い物をしてきました!」
照れたようにはにかんだシナンに自然と頬が緩む中、私はスープを口へと運んでいく。
すると口の中にホワイトソースが広がると、弾力のある食材がソースに絡み旨味が溢れ出した。
「とっても美味しいわ!!シナンは料理が上手なのね」
「喜んでもらえて、とって嬉しいです」
そうして和やかな雰囲気が包む中、二人並んで夕食を終えると、私たちも部屋へと戻っていった。
真っ赤に染まっていく姿を呆然と眺める中、彼は平然とした様子で腰の短剣を取り出したかと思うと、無表情のままにウサギをさばいていく。
ピクピクと痙攣する獣を抑え込み、皮をはぎ、肉をそぎ、内臓を取り出し……ウサギが解体されていくその様に、脚が自然と震え始める。
全身に返り血を浴びた彼の姿に目が逸らせない中、目の前が真っ赤な世界へと染まっていった。
「ところで……さっきの魔法は何だ?急に体が軽くなった、それに剣に雷電のような物が見えたが……」
彼の言葉にようやく我に返ると、私は顔に付着した血潮を拭っていく。
「あっ……さっきのは……風の魔法であなたの動きをサポートしてみたの。それと……摩擦を起こして剣に付属の力をつけてみたのよ……」
何とかそれだけ話すと、私は手に魔力を集め空気中に含まれる水をイメージしていく。
私たちの体についた返り血を、水が綺麗に洗い流していく様を想像すると、私はゆっくりと魔力放出した。
鼻に付く獣臭は残っているけれど……これで見た目は綺麗になったわ。
その姿に私は彼の傍へ寄ると、腕から流れる血へ手を伸ばす。
そこへ少しずつ魔力を流していくと、消毒し切られた皮膚を修復していった。
跡形もなく消してしまえば、魔力はかなり消耗するが……傷を防ぐ程度なら大丈夫。
それに傷は浅い様子だし、数日もすれば痕は消えるでしょう。
彼の傷を癒しほっと一息つくと、カミールから感嘆とした声が漏れた。
「ほう、こんな事も出来るのか」
「えぇ、まぁ……」
私はそっと彼から体を離すと、切り刻まれたウサギの残骸へと目を向ける。
皮を剥がれ、中身を取り出された獣はもう見る影もない。
私はその姿に何となくそっと手を合わせると、ごめんなさいと小さな声で呟いた。
そんな私の様子に、カミールはウサギから剥ぎ取った材料をカバンへ詰めると、行くぞとスタスタを山道を歩き始める。
「えっ、待って、まだどこかへ行くの?」
「ああ、今の獣をもう二匹倒せば、依頼は終了だ」
嘘でしょう……二匹も……さっきのを……。
私はあからさまに肩を落としてみせるが……カミールはズンズンと森の中へと進んでいく。
その姿に私は大きなため息をつくと、不承不承に彼の背を追いかけて行った。
そうして終日森の中を歩き回り……家に戻った時には……太陽は沈み、月が街を美しく照らしていた。
つっ……疲れたわ……。
家に帰るや否や私はテーブルに突っ伏していると、カミールはその上に掲示版から取った紙を広げてみせる。
そんな彼の様子に、私は怠惰に頭を持ち上げると、紙へと視線を向けた。
****素材屋グロース様からの依頼***
ランク:S
依頼:野ウサギ獣の爪×3
報酬:銀貨30
****************************
銀貨30との文字に目が点になると、私は口を半開きのままに固まった。
嘘でしょう……。
一日朝から晩まで森の中を歩き回って……あんな狂暴なウサギを狩って……銀貨30枚だなんて……。
「今日の仕事で銀貨30枚。3人分の旅費金貨15枚までまだまだ先だ。明日も早朝から仕事だからな」
明日もですって……。
「あの……おかえりなさい!ご飯が出来てます、すぐに用意しますね!」
「俺は良い、先に部屋へ戻る」
彼は疲れた様子を見せることなく、スタスタと階段を上っていく背を眺める中、私は癒しを求めるようにシナンへと抱きついた。
「あっ、その……お姉さんは食べますか?」
「えぇ、もちろん頂くわ!!でもごめんなさいね……家事を任せてしまって……。それに一人で寂しかったでしょう?」
「ううん、僕待つことには慣れてるから……」
弱弱しく笑みを浮かべるシナンに、私はなぜか泣きそうになると、小さな体を力いっぱい抱きしめる。
「ご飯、一緒に食べよっか」
そうニッコリ笑みを浮かべると、シナンは尻尾をフリフリと揺らしながらにキッチンへと走っていく。
その姿に私は食器棚へ向かうと、テーブルへお皿を並べていった。
シナンは大きな器にスープを入れると、台に上りながら器用に料理を並べていく。
慌てて手伝おうとするが、シナンは大丈夫ですと柔らかい笑みを浮かべ難なくこなしていった。
そうして夕食の準備が整うと、私は並べられた料理の前に、シナンと向かい合う様に腰かける。
シチューのような真っ白なスープに、ピンクやオレンジ、ブルーの鮮やかな食材が浮かんでいる。
そっとスプーンで掬い上げてみると、スープはシチューと同じようにドロッしていた。
「美味しそうねぇ。ところで食材や調味料はどうしたのかしら?」
「カミールさんが食事用にと、貨幣をテーブルに置いてくれていて……それで今日は買い物をしてきました!」
照れたようにはにかんだシナンに自然と頬が緩む中、私はスープを口へと運んでいく。
すると口の中にホワイトソースが広がると、弾力のある食材がソースに絡み旨味が溢れ出した。
「とっても美味しいわ!!シナンは料理が上手なのね」
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